年金で財政検証を行う目的や結果についてわかりやすく!
公的年金制度には財政検証という仕組みがあり、財政検証の結果が出ると新聞やテレビなどで一斉に報じられます。
もっとも、財政検証は概ね5年に1回行われるものなので、報道されても何だろうと思われる方も多いと思います。
また、財政検証はさまざまな前提条件に基づき実施されているので、結果もわかりにくくなっています。
そこで、この記事では財政検証が誕生した背景、財政検証前に作られた仕組み、財政検証を行う目的、そして2024年に行われた財政検証の結果について、できるだけ簡単にわかりやすくお伝えします。
財政検証が誕生した背景
公的年金には長い歴史があります。
たとえば、厚生年金は昭和17年(1942年)、国民年金は昭和36年(1961年)に始まっています。
年金制度は毎年のように制度が見直しされていますが、その中にはとりわけ大きなものがあります。
代表的なのは国民年金が始まった昭和36年、第3号被保険者制度が始まった昭和61年(1986年)、そして財政検証が始まるきっかけになった平成16年(2004年)です。
平成16年の年金法大改正前に大きな問題になっていたのが少子高齢化です。
少子化で年金保険料を支払う人が少なくなっていく。
高齢化で年金を受け取る人が多くなる。
この状況を放置していると、年金保険料は際限なく上がり続ける、あるいは年金給付がどんどん少なくなっていくという問題に直面していました。
こうしたことを背景に、平成16年の年金法大改正で公的年金の財政検証の仕組みが作られています。
財政検証前に作られた仕組み
年金制度を維持するために、この後にお伝えする財政検証は必要です。
ただ、その前に行うべきこともあるはずということで、平成16年の年金法大改正では様々なことが決められています。
平成16年の年金法大改正で決められた主なもの
保険料水準固定方式
マクロ経済スライドの導入
積立金の活用
基礎年金国庫負担の2分の1への引き上げ
保険料水準固定方式
保険料(率)の際限なき上昇を防ぐため、平成16年以降は時間をかけて毎年の保険料(率)を引き上げるとともに、最終的な保険料(率)を固定することにしました。
これを保険料水準固定方式と言っています。
その結果、国民年金保険料は令和元年に引き上げが完了し、月額保険料を17,000円で固定。
厚生年金保険料は平成29年に引き上げが完了し、18.3%で固定されています。
※ 実際の国民年金保険料は、17,000円に物価変動率や実質賃金変動率を加味して決定されます。
マクロ経済スライドの導入
従来の年金額は、物価や賃金の情況に基づいて決められていました。
しかし、これでは少子高齢化に対応できないということで導入されたのがマクロ経済スライドです。
少子高齢化は、年金財政ではマイナス要因になります。
それまでは物価や賃金が上がれば年金額も上がっていましたが、マクロ経済スライドというマイナス要因を加えることで、物価や賃金が上がっても年金額の上昇が抑制されるという仕組みに改めています。
なお、年金財政が安定すればマクロ経済スライドはなくなりますが、現時点で終了時期ははっきりとしていません。
積立金の活用
将来的に年金財政のひっ迫が予想されるとはいえ、平成16年当時は莫大な積立金がありました。
そこで、積立金を少しずつ取り崩しながら年金財政の維持を図ることにしました。
基礎年金国庫負担の2分の1への引き上げ
65歳から受け取る老齢基礎年金額は、それまでに納付してきた保険料と国庫負担で成り立っています。
平成16年前の老齢基礎年金額の内訳は、納めた保険料3分の2、国庫負担3分の1で構成されていました。
平成16年以降は、納めた保険料2分の1、国庫負担2分の1になっています。
国庫負担が引き上げられたことは税金の上昇要因になる可能性があります。
一方、納めた保険料の割合が引き下げられたことは、保険料(率)の上昇を抑制させる要因になります。
財政検証の目的
平成16年の年金法大改正で決められた財政検証は、人口や経済の動向を勘案しながら、少なくとも5年ごとに行われることになっています。
財政検証は年金財政の健全性を検証するもので、今後の財政見通しの作成や、マクロ経済スライド終了時期の見通し作成が行われます。
また、財政検証でとりわけ重要なのは所得代替率(しょとくだいたいりつ)です。
所得代替率は、年金の給付水準を維持するために使われる指標で、現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率により表されます。
平成16年の年金法大改正前の所得代替率は、現役世代の60%の年金額を維持しようとするものでした。
しかし年金財政を維持し続けるためには、給付を抑制する必要があります。
また、保険料(率)の際限なき上昇を防ぐため保険料水準固定方式を導入したことで、保険料収入の大幅な上昇も見込めなくなっています。
そこで平成16年の年金法大改正では、所得代替率60%を将来的には50%に引き下げることになりました。
もっとも所得代替率が50%を下回ってしまうと、年金受給世代の生活が成り立たなくしまってしまう可能性があります。
そこで平成16年の年金法大改正では、将来的な所得代替率を50%にするとともに、50%を下回らないようにする。
仮に次に行う財政検証までに50%を下回ることが見込まれる場合は、給付や負担について所要の措置を講じることになっています。
財政検証は、今後の財政見通しだけでなく、所得代替率の維持が大きな目的になっています。
2024年財政検証の結果
年金財政に限らず将来は不確実なものです。
ただ、前提を設定することが大切ということで、具体的には人口の前提・労働力の前提・経済の前提に基づいて財政検証が行われています。
また、実際の財政検証の結果も幅広く、複数のケースが示されています。
ここでは、代表的な3つのケースとその結果についてお伝えします。
なお、2024年の所得代替率は61.2%です。
ケース1 成長型経済移行・継続ケース
マクロ経済スライド終了年は2037年、マクロ経済スライド終了時の所得代替率は57.6%。
ケース2 高度成長実現コース
マクロ経済スライド終了年は2039年、マクロ経済スライド終了時の所得代替率は56.9%。
ケース3 過去30年投影コース
マクロ経済スライド終了年は2057年、マクロ経済スライド終了時の所得代替率は50.4%。
上記の中でケース1と2は楽観的な予想で、設定が甘いということで批判されることも多いようです。
一方、ケース3はむしろ悲観的な予想であるように見受けられます。
ただし、何れにしても所得代替率は50%を超えているので、現時点で大規模な制度見直しの必要性は低いように見受けられます。
まとめ
この記事では、財政検証が誕生した背景、財政検証前に作られた仕組み、財政検証を行う目的、そして2024年に行われた財政検証の結果について、できるだけ簡単にわかりやすくお伝えしました。
将来は不確実とはいえ、2024年の財政検証を見る限り、現時点で年金制度の大幅な見直しをする必要性は低そうです。
ところで「2024年財政検証の結果」の報告書には、年金財政を将来的に維持していくため、いくつかのオプションが示されています。
そして、このオプションの内容が今後の年金法の見直しを示唆するものになっています。
2024年財政検証で示されたオプションの内容と、財政検証が30歳前後の方に与える影響については、別の記事でお伝えしています。
ぜひ、合わせてお読みになってください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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