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【往復書簡/2通目】春一番のアスパラの食べ方

いがらしさんへ

今日の札幌は、朝から雨が降っています。札幌では5月の中旬、ライラックの花が咲く頃に「リラ冷え」といって一旦気温が低くなるのだけど(今日は最高気温14度)、それもそろそろ終わるかな。いよいよ、札幌の一番気持ちいい季節がやってきます。

最初のお手紙ありがとう。「トマトのオーブン焼き」ごちそうさまでした。目にも美味しい、中の中まで真っ赤に熟して、みっちり詰まったトマトだね。栃木のいがらしさんの家で、トマトソースづくり合宿をしたのは、もう4年前か。北海道での旬は夏だけれど、栃木では春なんだと、同じ野菜でも土地によって旬がこんなにも違うということを、あの何十キロもの真っ赤なトマトの山を見て、体感したのを思い出しました。

いがらしさんの「スープ・ポタジェ(菜園)」は、もうちゃんと畑の顔になっているね。北海道では、5月の半ばにカッコウが鳴いたら、畑に種をまく、と言われています。私も去年に引き続き、アパートの外のプランターにサラダ菜やハーブ類、トマト苗を植えました。実家の庭で野生化していたチャイブとニラも移植してみた。料理の途中に思いついて、ちょっと摘みに行けるようになるまでは、まだかかりそうだけど。

とはいえ、近所のコープの「ご近所野菜」のコーナーには、ずいぶん地元の農家さんの野菜が充実してきました。根菜や豆や加工品ばかりで地味色だった売り場も、どんどん広がり緑でいっぱいになってくると、なんとも言えず幸せな気持ちになってきます。ただ、茶事料理教室に通っていたとき、春の早い時期に一気に成長する「芽吹き野菜」には、特別な力があると先生が言っていて、そういう意味では、実家の庭でぐんぐん伸びてくるウドや、アスパラの味の力強さは、他の野菜とは一線を画している気がします。

3年前に東京から札幌に戻ってきた最初の春は、本州からずいぶん遅れて野菜の旬がやってくることが、なんだかもどかしく、ひとり流行に乗り遅れているような気分でいました。でも、なかなか緑が増えない景色と、まだ朝晩ストーブが必要な気温と、スーパーに並ぶ地元の食材は、当たり前だけど、つながってる。そのうちに、ここに暮らしているんだから、これが一番ふさわしいタイミングなんだ、と納得するようになって、「北海道産」と書かれたものがでてくるまで、あえて買わずに待つようになりました。

長く厳しい冬を越えて、ようやくやってきた遅い春を喜んでいる、この気持ちを、他の土地の誰かと共有するとしたら、心底嬉しそうに春の芽吹き野菜を食べる私と食卓を囲んでもらう以外にないのかも、と思います。そんな北国の春の食卓に、いつかいがらしさんを招待できたらいいな。今日は、その食卓にきっとのっているはずの一皿を。

毎春、最初にアスパラを食べるときには、とにかくその生命力を丸ごと口にしたいと思うので、私はたいてい蒸し焼きにします。フライパンにほんの少し水を入れて蓋をして、蒸気でいっぱいになったら、アスパラを入れて、ほんの一瞬。お皿に盛って、オリーブオイルと気持ち程度の塩を振りました。

「北海道産蒸しアスパラ」

それでは、どうぞ召し上がれ。

みやう

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