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【往復書簡/4通目】目の前の食材で遠い国の料理をつくってみたよ

いがらしさんへ

気づいたら、もう7月も終わってしまいそうだね。お元気ですか?
札幌もようやく夏らしい季節になってきました。涼しい北海道の夏だけどね。
今年は雨が多く、どこもかしこも雑草の草丈が高いです。そんな気候と手入れ不足のせいもあってか、果樹庭のサクランボは実のつきも悪く、虫や病気も多くて散々な結果だったので、秋のブドウは楽しめるようにと、友人たちの手も借りて、せっせと世話をしています。

前回の手紙での「5月の庭のスープ」、ごちそうさま。しっかり目で味わいました。
庭の美しさがそのまま再現されているのではなくて、あくまで、いがらしさんの視線を通した印象がスープに現れてる。そう、まさに印象派の絵画みたい。いがらしさんが、絵を描くようなつもりで、畑で野菜を育て、スープをつくっている、と言っていたことを思い出しました。その印象はきっとスープを味わうことによって、よりくっきりするんだろうなと思います。来年になるか、再来年になるか、いつか本物をご馳走してもらえる日までは、どんな味がするんだろう、と想像することを楽しんでおくことにしよう。

いがらしさんがつくったスープをみて、季節や土地を生かして料理をつくるといっても、つくる人によって、いろいろな形になるんだなあと、改めて思いました。そんな大げさなと言う人もいるかもしれないけど、やっぱりその人があらわれるというかね。その人が大事にしていることとか、その人がどんな関心があるかとか。私の場合は、食材の個性がよりくっきり際立つように、より強くなるように料理していることが多いなと思う。前の手紙の「アスパラ蒸し」なんて、まさにそんな料理だよね。私の食材観(なんてものがあるとしたら)は、私の人間観とぴったり重なるような気がする。あとは、ひとつの食材をみたときに、これは他の国の人々は、どんな風に料理してきたのだろう、と伝統料理/郷土料理について調べて、つくってみることも多い。新しい料理に出会いたいって気持ちもあるけど、自分の手でつくることで、その国のことやその食文化が少し理解できるような気がするから。

この前、果樹庭にブドウのツルの整理にいったとき、実はまだまだなんだけど、葉が本当にいきいきとして、なんだか美味しそうで。一度、ブドウの葉を料理してみたいなと思っていたので、摘んできました。私が知っているブドウの葉を使った料理がある国は、イランやトルコだったけど、改めて調べてみると、中東はもとより、ブルガリアやルーマニアなど、ちょっと離れてベトナムでも使われるみたい。北海道の気候はブドウ栽培に適していて、今ではワイン系品種は日本一の生産量になってる。北海道と中東の食文化なんて、全然共通点などなさそうだけど、でも、同じ植物が育つ気候なんだと思うと、そこでずっと食べられてきた料理には、私たちの食卓を豊かにしてくれる何か有用なアイデアがあるんじゃないかと、期待してしまう。

というわけで、今回いがらしさんに食べてもらいたいなと思ったのは、ブドウの葉で、パプリカペースト(本来はトマトペースト)で味付けしたピラフを巻いて、蒸し煮したトルコの料理。実際につくってみると、ブドウの葉は、若くて柔らかいものを選ぶと、どうしても小さくなるし、切れ目も入っているので、巻くのは思ったより細やかな作業なんだなと思った。ブドウの葉由来の爽やかな酸味となんとも言えない芳香は、やっぱり、いつの日か実際に味わってもらいたい。そして、目の前の食材でつくった遠い国の料理から広がっていく、いろいろな話題を、北海道でつくられたワインを飲みながら、語り合いたい。同じ料理を味わって、そこからおしゃべりがはじまる。それこそが一緒に食卓を囲む喜びだから。

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「ブドウの葉のドルマ」

それでは、どうぞ召し上がれ。

みやう

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