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大阪此花と「お好み」焼き

先日、恋人に誘われて、大阪の此花区を自転車でめぐる街歩きに参加した。ライターのスズキナオさんが、妹尾豊孝さんの写真集 「大阪環状線 海まわり」に写っている場所を、写真と見比べながらめぐりたい、とTwitterでつぶやいたことがきっかけで、実現することになったらしい。

そもそも大阪自体、よく知らない中での、此花。行きの電車でグーグルマップとウィキペディアで予習をする。伝法という古からの漁港があること、樽廻船発祥の地であるが、その後、新しい川が掘られたことで、港湾としての地位は低下していったこと、戦前は住友グループによる開発で大阪工業地帯の中心地になっていったこと、そのため第二次世界大戦では集中的な爆撃を受け、壊滅的な被害を受けたこと、高度経済成長期に盛り返したが、工場は海外に移転していき、空き地が増え、USJができ、今は区として観光に力を入れていること、まで付け焼き刃でさらう。

西九条駅前でレンタサイクルを借りて、安治川(あじがわ)を越えると、意外に直線的な路地が広がっていた。ああ、この感じどこかに似てる、と思った。そう、東京の東側、昔、1年だけ通った墨田区のあたり。でも、何かちょっと違う。まず光がほんの少し明るい。というか赤みがかっているように感じる。あと、道のせいか、建物のせいか、空間がほんの少しゆったりしているように感じる。だから何ってことはないのだけど、こんなふうに私なりの「関西の感じ」データを少しずつ蓄積していって、また別の場所を訪れたときに、あ、ここは関西らしい、とか、関西に似てる、とか、知ったようなことを言うのだろう。とはいえ、この年になって、また自分がよく知っていると思える土地が増えていくのは、やっぱり嬉しい。

写真集の中の此花セクションの撮影ポイントを全て制覇するというツアーは、お腹が空きすぎて、残念ながら途中離脱。西九条で生まれ育ち、千鳥橋で銭湯を営むという参加者のご夫婦と、文化財みたいなお好み焼き屋に入る。

大正時代に建てられたという古い家屋に、アイランドキッチンならぬ、アイランド鉄板が一枚と、老夫婦。常連のご夫婦のお気に入りの食べ方というのにそのまま従って、近所のホルモン屋さんで買った小腸を持ち込み、一枚は小腸とイカに、うどんで。仕上げは半分ソース、半分醤油が好きというので、それも同じにしてもらう。もう一枚は、豚とイカにこの地域特有の具材という豆天を入れて、そばで。

焼きかたは、まずは生地をクレープのように薄く焼き、その後にキャベツをのせるスタイル。混ぜて焼くのと、別に焼くのとで、焼き上がり時間に差があるのかわからないけれど、その手順と、もとは鉄工所の職人だというお父さんの丁寧な所作を見ていて、ふと、お好み焼きってゆっくりした食べ物なのかな、と思う。お母さんの一瞬も止むことのない、テンポのいいおしゃべりとは対照的に。

ホルモンのお好み焼きは、具材はもとより、持ち込んだ好きな具材で焼いてもらうということが、面白かった。恋人が「お好み焼きの『お好み』って、そういうこと(お好みの具材を入れて焼くこと)からきてるのかもね」と言っていて、なるほどと思う。豆天入りのほうは、豆の印象よりも、衣の印象が強くて、天かすのおばけみたいな食感。これはこれで美味しい。この地域で、お好みに豆天を入れるようになったのは、近隣の天ぷら屋さんに豆天があったから、というようなことらしくて、地域の「商い」が、独自の食文化をつくるっていうのが、また関西っぽいなと思ったり。こうやって、いろんな店のお好み焼きを食べていくうちに、私もいつか、あの店の焼きかたで、この具材の組み合わせが好き、とか言うようになるんだろうか。

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