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異国で感じる苗字変更の代償


役所にて

ベルギーでのビザを更新するため、役所に行った。そこで、私が結婚していることを証明する資料が必要だと言われた。日本から持ってきた翻訳済みの戸籍謄本を提出したが、翻訳に不備があると言われ、手続きが進まない。
どうやら、日本で戸籍謄本とアポスティーユを取得し、それを送ってもらい、さらに翻訳しなければならないらしい。
軽く見積もっても1ヶ月以上かかりそうだ。

役所での手続きにイライラしながら、ふと思った。
結婚して苗字を変えて良かったことなんて、あまりないのでは?
むしろ、面倒な手続きが多い。しかも、変えた側の私だけだ。
パスポートの苗字変更にだってお金がかかったし、大学院に申し込む際の日本の大学の卒業証明も旧姓で卒業しているため、戸籍謄本を取り寄せ、翻訳し、アポスティーユをもらう必要があった。

役所で言われたのは、私が旧姓「○○」であったことを証明する書類を出せということだった。でも、出せるのは戸籍謄本しかない。
そういえば、この1枚の紙が私の旧姓を証明する唯一のものだと思うと、不安とともに悲しさがこみ上げる。 


ふつふつと思い起こされる不便

結婚した時、苗字が変わることが嬉しかった。
それが結婚したという証のように感じたから。
でも、数年経ち、さまざまな手続きに直面すると、苗字を変えたことの負担を感じる。
パスポート変更には約6000円(多分もっと)かかったし、大学院入学のための戸籍謄本の翻訳には約12000円(多分もっと)かかった。
警察署での免許書き換えもあり、午前休を取って手続きをしなければならなかった。お金と時間、そして手間がかかった。

そして何より、旧姓で働いてきた過去が失われたような感覚があった。
結婚1年後に転職した際、新しい苗字で転職した。
前の職場では旧姓を通していたが、新しい職場では混乱を避けるために戸籍上の名前を使った。いや、正しくいうと、「できれば戸籍上の名前を使ってください」と言われた。
まぁ正直、会社のアドミの立場になれば、そりゃそうだと思う。
しかしその結果、当たり前だが旧姓での知り合いには認識されにくくなった。
転職したとはいえ、業界は同じだったので、これは悲しいことだった。

(Teamsとの連携というお節介な機能のおかげで)LinkedInでも苗字を変えたが、変えたあとのページは誰だろうこれと思ったものである。


正直、夫にはこの感覚が一生分からないだろう。
度々発生する手続きへの苛立ちや、旧姓を証明できない悲しさ。
結婚時に苗字を変えることに同意したのだから、夫に文句を言うわけではない。
しかし、この行き場のない悲しさが時々こみ上げてくるのは事実なのだ。
これを共有できないという事実が寂しいだけ。

苗字が揃ってるのが家族の証?

ベルギーに来て、結婚ではなくCohabitationという形で家族になったり、なる予定の人たちに何人か出会った。
もちろん苗字を変える必要はない。でも社会は彼らを家族として認めて、結婚と同様の権利を与えている(と聞いている)。
微妙に何か違いはあるのかもしれないけれど、日本の事実婚とは比較にならない。

苗字を揃えたらようやく家族になれるのか?
違う、そんなことしなくても家族になっている人は世界中にたくさんいる。

選択的夫婦別姓婚かぁ。
異国の地から、まだ実現せぬ我が国の制度に思いをはせてみる。

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