<トルコ・シリア大地震>現地では何が起こった?内戦・政治・氷点下の寒さ・・・シリア難民の過酷な状況と、私たちにできること。
いつもお読みいただきありがとうございます。KOKUAの横山です。
2月6日に発生したトルコ・シリア大地震。
死者が5万人超、被災者は2000万人以上にも及ぶと言われています。(3月3日時点)
今回は、被災してから5日後である2月11日に、急遽ご登壇いただきましたNGOホープフル・タッチの髙田みほさまから伺った、現地情報をもとに、特にシリア難民に焦点を当てた、現地の状況や課題を伺いました。
中東シリアについて
発災直後、現地の様子とは?
トルコ・シリア大地震の課題
などについてインタビュー形式でお届けします。
以下の目次より、気になる箇所からでもお読みいただけます。
ぜひ最後までご覧ください。
はじめに
——今回の地震に関しましてどのような背景で緊急支援を実施することになったのでしょうか。
高田さん(以下:高田)
私たちの団体は、今回のトルコ地震被災地のひとつとなった、シャンルウルファ県でのシリア難民の子ども達への教育支援から始まりました。
現在の団体の活動対象地はスーダンとシリアですが、元々トルコから活動を始めたこと、そして今回の被災地は私が以前暮らしていた場所であり、シリア人スタッフの居住地でした。
残念なことに先日の地震で、私どもの団体のシリア人スタッフも被災しています。今回は、その友人や家族から実際に聞いた情報をもとにお話しさせていただきます。
——中東にあるシリアは、現在どのような状況なのでしょうか。
高田
シリアでは、2011年に内戦が始まり、政府軍と反政府勢力の間の戦いからその後、イスラム過激派グループや外国の勢力も参戦するようになりました。
非常に複雑化しているので、一言で説明しがたいのですが、政治的、経済的、社会的な問題が絡み合い、反政府デモが発生し、政府側の鎮圧によって暴力的な紛争に発展しています。
被災地=難民が多く暮らすエリアだった
——今回の被災地は、特にシリア難民の多いエリアと聞きました。
高田
シリアはトルコと面していることもあり、国境近くに難民の方がどうしても集まってくる。そして今回のトルコ・シリア大地震の発生地域に 非常に重なっているような状況です。
もちろんトルコの方々も被災していて、大きな被害を被っているんですが、視覚的にもシリア人被災者の多さも感じていただければなと思います。
発災直後、なにが起こっていたのか?
——発災当時の様子について教えてください。
高田
現地時間で午前4時30分頃に地震があり、スーダンにいる私は時差が1時間あることから、ニュースを見ておらず、日本で暮らす家族からの連絡で、地震が発生したことを知りました。
そこから、シリアの仲間に連絡をした時点で、すでに地震発生から4時間程が経っていたんですが、 まだ家の中にいる状態でした。
1)数時間その場から動けなかった人々
——日本人なら地震が発生したら、すぐに外や安全な場所に避難しますが、現地の方は家の中に留まったままだったんですね・・。
高田
はい。話を聞くと、トルコは地震がよく発生する国ですが、シリア人の方々は地震の経験がないらしいのです。
現地には、災害時にリーダーシップを取れるような人たちがおらず、政府の救援も全然来なかった。どうすればいいかわからないまま、4時間5時間経っても、 みんなそこのコミュニティ(家や近所)に留まっていたようです。
防災の概念もないし、普段から備えておくという概念もありません。
なので地震が起こった際も、どこに行けばいいのかわからないし、広い場所に行くことや、建物に近づかないということも分からない状態だったそうです。
今回被害が大きくなってしまったのも、発災後そのまま建物に残ってしまったことで、倒壊する建物の下敷きになった方々も多いと聞いています。個人としても、防災の面で防げた部分がかなりあったのではないかと感じていますね。
2)雪も降る過酷な寒さの中で・・・
——電気・ガス・水道のラインフラインや食料などの物資はどのような状況だったのでしょうか。
高田
スタッフのいる地域は、幸いにも電気も水も通っており、インターネットも電話もできる状態です。私もびっくりしたのですが、地震が起きた直後に1度停電して、その後からはずっと通っているようです。
知人の場所には、食料や水もまだ残っており、スーパーマーケットのような商店やパン屋は営業していると聞きました。
ライフラインよりも道路の寸断の方が非常に多く発生し、被災地へたどり着けないことは、大きな問題にはなってたと思います。ライフラインに関しても、もしかしたら情報が届いていないだけで、孤立してるところもあるかもしれません。
現地は真冬で、被災後氷点下を下回る日もありました。
家がないため、公園で一晩過ごさなくてはいけない方々が多く、防寒については困難であること、そして疲労が非常に溜まっていると聞いていました。救援物資としても、毛布やストーブが特に足りていない状況です。
3)救援物資があるのに、配布場所にたどり着けない事態も
高田
今回私も初めてハザードマップのようなものを急遽調べたのですが、見つけることができず、 どこにどんな支援があるかという情報統制や、それらが一般の方々に届く形での情報提供がされていないようでした。
なので、せっかく救援物資として用意があったとしても、提供場所に辿りつけない。
結局崩れそうな家から毛布や衣類をかき集めて、なんとか野宿で過ごしていたという方がほとんどです。
——現地は一軒家よりも、アパートの方が多いと伺いました。
高田
10日時点では、まだ自分の家の被災状況がどれほど深刻か分からない状態で、トルコの自治体側もそこに入域させないようにしています。
そのまま自宅に帰れるのか、あるいは他で住めるところを急遽探さなきゃいけないのか。
特にシリア人は、経済的なことも含めて市内に住むよりも、シリア人が多い村の方に行って、そこでどのように生活ができるかを考えなければならない状況になっています。
住む場所は、今一番大変なところだと思う一方で、長期的な話にもなるので、これからトルコ政府側の保障や、他の支援団体がどのようなことをするかを含めて状況を追っていく必要があると感じています。
トルコ・シリアを襲った
大地震の課題
1)防災知識が浸透していない社会
——高田さんが考えられる課題はなんでしょうか。
高田
まず先ほどもお伝えしたように、現地の方々は防災に関する知識がほとんどありません。
そして救助活動も、6日の午前中〜お昼過ぎに政府管轄と軍が一緒に入ってきたそうですが、とにかく来てくれるのが遅かった。
物資もないし、誰か支援してくれる人たちも来ない。一般人のコミュニティで、倒壊した中から人を引きずり出すことに尽力した人たちもいたけれど、専門的に何か知っているわけではないので、救助のために瓦礫の中に入ったまま出られなくなってしまい、命を落としてしまった方もいました。
2)根深い政治的問題
高田
そして震源に近いシリア北西部は、反体制派の地域でした。
そのため、地震発災後の政府の初動は遅く、被災者の救助・支援活動が難航している状況も大きな課題のひとつだと言えます。
※2月13日には、被災地である反体制派にも越境支援を拡大すると、シリア政権より声明が発表されました。https://mainichi.jp/articles/20230214/k00/00m/030/017000c
3)人生二度目の「すべてを失う喪失感」
——シリアの方々は、特に難民であるがゆえ精神的にも苦しい面が多いかと思いますが、いかがでしょうか。
高田
今回の被災者の中でもシリア難民は、地震の以前から10年以上に及ぶ内戦の被害者です。命の危機を感じるストレスは、紛争の中で経験されている方もいらっしゃいますが、 今回の地震によるストレスは、全く別のものとして捉えられています。
皆さんは、もしかしたら難民と聞いた時に「キャンプにみんな集まって、食事もままならない生活をしている」というイメージがあるかもしれませんが、シリア人はもともと生活レベルは高く、トルコに来た場合も基本的に社会構造がそのまま持ち込まれます。
高田
農業をしていた人は移り住んだ先でも小作人として働いたり、高学歴で高収入を得ていた人々は、避難先でも、これまでの生活のステータスを保つことを望む傾向があります。
シリア人の方々は、空爆を逃れてトルコに来て、難民となった時点で一度シリアの家は失っています。そして今回の地震によって、10年以上暮らす第2の場所も失っている状態です。
自分が0から積み上げてきたものを、もう一度失ったという喪失の経験が、今までになかった非常に大きなストレスになっていると私の感覚ではあります。
——今後、災害によって起こる精神的ストレスや災害関連死も心配ですね・・。どのような懸念が考えられますか?
高田
今後長期的なものとして、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)のような問題があると考えていますが、「精神的なストレスがあるから誰かにサポートしてもらう」ことに対して、日本以上に抵抗がある人々がたくさんいらっしゃいます。
なので、今回の被災によるストレスも、教育やレクリエーション活動などを通じてサポートに繋げていく方法が必要だと個人的には考えています。
4)防災教育の必要性
——防災に関する知識がないというお話でしたが、学校教育として取り扱われていないのでしょうか?
高田
トルコの教育については、私も詳しくは存じ上げていないのですが、私が周りのシリア人から聞くところによると、シリアでは地震が想定されていなかったと感じているようでした。
なので私たちの活動としても、避難訓練したり、防災について考える指針や文化を作りたいなと思っていますね。
今回シリア人の方々も、トルコに来て初めて大きな地震を経験した方々が多いのではないかと思っています。
私がトルコにいた2015〜2019年頃も、 何度が地震がありましたが、小さい揺れでも、かなりパニックになっていた印象があります。
それだけに今回も、彼らにとったら精神的な打撃というか・・この揺れで全てが終わってしまうと感じ、精神的負担も大きいのではないかと思います。
”トルコで暮らす”
シリア難民の生きづらさ
——コロナの経済悪化などが理由で、トルコではシリア難民の受け入れに難色を示していると聞いたのですが、実際のところいかがでしょうか。
高田
別問題として、別途お話すべき内容かと思うのですが、おっしゃる通りトルコでは、シリア難民に対して不満を持つ人が多い状況にあります・・・。
ちょうど今年の5月頃にトルコで大統領選挙が予定されていますが、もし選挙で政変があった場合、トルコ政府は、今まで以上にシリア人排除の動きに傾く可能性もあると言われていました。
その社会的風潮は、トルコ国内で感じるシリア難民も多く、実際に私の知り合いの中にも「トルコにもう住めない」と、地震が発生する前から生きづらさをこぼす人もいた程です。
トルコ人コミュティの中で暮らしづらい理由のひとつに、シリア難民を狙った襲撃事件も発生しており、「このまま普通の生活もままならない状況になるなら、ヨーロッパに行かなくちゃいけない」と検討している人たちも多くいました。
支援の輪でも生まれる格差
——ただでさえ”生きづらさ”を感じていた中で、重なるように地震が起こってしまったのですね・・・。
高田
シリア難民にとって、とても苦しい状況だと感じています。これだけ大きな災害なので、支援物資も1箇所に集めて、一気に被災者に配布する形になると思います。しかし、そのような大規模支援では、 やはり争いが起きやすくなってしまう現状があります。
「自分は他の人より多く欲しい。」
「自分の家族は何人いて、小さい子供が何人いるんだ。」
という理由から、実際に現地では物資の取り合いも起こっているそうです。
そんな状況になると、シリア人はその中に入っていけないんですね。
なので支援があったとしても、シリア人はなかなか支援の輪の中に入っていけない状況があり、支援を受けるもの同士でも格差が生まれているのではないかと心配しています。
私たちにできること
——高田さんの取り組まれている、ホープフル・タッチで行う緊急支援について教えてください。
高田
現在も国連機関や政府主導の人道支援がまずメインとなり、行われていると思います。 それらが大規模支援であり重要な一方で、大規模支援になると、何百万人の被災者に対して、いかに効率的により多くの人を救えるかを意識して実施されます。
そうすると、一度に多くの方に届けられる傍らに、どうしても抜け落ちてしまう個々のニーズに、焦点が当てられにくくなってしまうことがあります。
たとえば食料配布では、遠隔の農村地で点々とテントを立てて、生活している人たちのところへ支援者側が赴くことが多い。
時間も限られている中、効率的に一気に多くの人を集めて配布したいとなったときに、ある一定以上離れて住んでいる、ある意味立場の弱い避難民の元へは、支援物資が届かないことも見てきました。
私たちは小さな団体だからこそ、今までの経験を含めた細やかな支援を内戦によりトルコへ避難生活を送っているシリア人家族の方々へ実施しようと思っています。
現在は、現地のニーズを調査中でして、調査を終え次第、集まった寄付金額に応じて、活動を実施する準備しております。
ご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。
▼支援先の詳細はこちらから
ある日、急に訪れる大地震。
今回、高田さんのお話を伺い、想像を絶する現地の方、シリア難民の方々の過酷な環境を聞き、胸が痛みました。
自然災害というだけでなく、政治的・民族的な問題も大きく影響を受けているトルコ・シリア地震の被災者の方々。
日本ではすでにニュースの報道も減り、意識が薄れつつあるような気もしています。長期的な支援を見据えて、これからKOKUAとしてもトルコ・シリア地震に関して情報を追っていきたいと思います。
※発災から約1月が経ち、現在は医療支援も必要とされているそうです。
いつ起こるかわからないのは自然災害に向けて、日本人としても防災意識を日頃から持っておく必要性があると、身の引き締まるインタビューとなりました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ぜひ、ご家族・ご友人など大切な方と一緒に、自分の被災リスクを確認してみてくださいね。
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