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「あなたのために」の伝えかたいろいろ

認知症のmy母(84歳)は動きが急激に衰え始め、いよいよメールができなくなり、電話をかけることも難しくなりました。連絡が途絶えて孤立しないように、支える手段を検討しました。


My母からの連絡は困難に

最初は悪あがきで携帯電話の扱い方について説明書をつくってカラープリントして置いておきました。しかし、すでに「読んで考える」ことができなくなっていました。
さらに、アレクサについても対策を講じました。
「“アレクサ、やっちに電話して”と呼びかけるとやっちにテレビ電話ができるよ!」
と書いて張り紙をしました。しかし努力むなしく、当然、新参の機器はあっという間になき物同然。「テレビ電話ができる」という言葉が何を意味するのかわからないとのことでした。
携帯電話の扱いを動画で解説したとて、一時停止して戻して見て理解する、などの動作ができないとなれば、結局は同じ結果になると想像できました。

そこで、こちらも発想を切り替えることに。

My母が「あーあ、誰かと話したいなあ」というようなタイミングで連絡をすることにしました。そしてそのタイミングをはかるのは極めて簡単。

認知症になってから、あれこれ変化に富む生活より、規則正しい生活の方がふさわしくなりました。「応用する」ことは頭を使うので疲れます。
そのため、月曜日から日曜日まで、毎日ばっちり予定が決まっています。
要するに、私もmy母の予定を熟知しているので、あちらの時間があくタイミングでこちらから携帯にかけるのです。

操作ができなくなってもテレビ電話ができる

こちらからアレクサで連絡しても、画面の通話マークを触ることができないmy母。かろうじて受け取れるのは、こちらからからの携帯電話発信のみ。そんなわけで、テレビ電話をするときは、まずこちらから携帯にかけてmy母が出た時に「アレクサに、“アレクサ、やっちに電話して”と呼びかけて」と伝えています。するとあちらから通話がかかってきて、私がアレクサコールに出ます。

画面を見ていると、my母はしばらく携帯を握りしめて話していますが、「アレクサのテレビ電話だけでいいんだよ」というと、必ずこう言います。

「本当に魔法の世界だねえ。お母さんにはわけがわからないよ!」

しかし、その後に笑いながら、「どうせわけわからないから、新しくて便利なんだからいいよね!」とも言っています。

手書きのカレンダー予定表が大きな役割を担う

My母は自立して暮らしているときから、大きなカレンダーに手書きで予定を書き込む習慣がありました。それを続けるようにと、ずっと書き込み式の壁掛けカレンダーを置いています。元々は、カレンダーは母の書き込み用、その横に1週間の予定表を貼っていましたが途中から母が書き込むことができなくなり、やがて、そのカレンダーは毎日の予定を家族が書き込むためのものになりました。

my母の部屋の冷蔵庫に貼ってあるカレンダー

1階の食堂で食事をして帰ってきて、ベッド兼椅子に座ってほっとしたとき。カレンダーを見て、予定を確認しているようです。
連絡してみると「今ちょうど、カレンダー見ていたのよ」と言うこともよくあります。「今日の予定は何かなあとつい見てるのね」と。
若い頃からの習慣というのはパワー持ってるなあと感じ入る瞬間です。

またある日、こんなことを言っていました。

「カレンダーに予定が書いているけど手書きでしょ。これは誰かが私のために書いてくれたんだよね」と。

残念ながら、娘が書いたことは忘れるようです。でも、部屋にいながらにして「誰かが私のことを気遣ってくれた」というオーラを感じ取っているようなのです。
そのカレンダーを眺めていると、ふと娘から電話があって会話をする。
このような瞬間の連続にあるため、
「全く寂しくないね」とmy母はきっぱりと言います。

正直、毎回カレンダーに手書きするのはおっくうだなあと思うこともあります。書き殴った字は読みにくく、タイピングの活字の方が読みやすいのではないか、と考えたりもしました。でも、my母にとって大事なのは「誰かの気配」。確かに、予定をタイピングしたものが出力してあったら、誰のために作られたものかピンとこないのかもしれません。

「あなたのために」を伝える

“あなたのために”が伝わるのがmy母の場合はカレンダーの手書きであり、そして携帯電話で伝える声であったり、テレビ電話で見る画面からの笑顔であったり。これらがつながっていくことで、家族がずっとそばにいてくれるような臨場感がある。それが認知症my母の心を支えています。

いろいろなことを忘れていき、暗闇のなか、自分だけにスポットライトが当たっているような孤立した感覚。自分も忘れられていくという不安に陥らないために、リモートでもできる試みです。

My母と私の場合は手書きカレンダーと通話でしたが、きっと十人十色の「あなたのために」が伝わるスイッチがあるのではないでしょうか。my母以外の認知症のかたのスイッチも知りたいです。こうしたささやかな体験が応用できると新しいTechサービスにつながるだろうと考えています。
またこの体験を通じて「手書き」という人の気配を伴う素晴らしいツールを手放してはいけないと思いました。

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