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『コロナ関連法改正案』は最悪の火事場泥棒法案である<要約版>


1 今回の特措法改正は、火事場泥棒的に一方的に国民に義務を強いる内容である

 新型コロナウイルスの流行拡大を何としても食い止めたい、という社会的要請は理解できます。
 しかし、だからと言って、適切な民主的プロセスや損失補償、事後的な人権救済の手段等なく、国民への制約だけを強化すれば、ウイルスの猛威以上の重大な問題を社会に生じさせかねません。

2 新型インフルエンザ特措法は、「弱い制約と緩い要件」というバランスの法律だった

 現在の新型インフル特措法は、緊急事態宣言が出されているときには、国民や事業者に対して、外出自粛要請や、営業時間の短縮や営業停止等の要請、さらに指示ができますが、これは法的な拘束力はなく、当然罰則や過料等もありません。
 このように、この法律に基づく国民や事業者への制約は強制力がなく弱いものなので、直ちに要請等に従うことに対する損失補償等を行う必要は法定されていません。あくまで、行政が自らの裁量で協力金等を支払うという形です。
 また、国民や事業者の自由や権利の制限が弱いことを根拠に、緊急事態宣言の発出や延長に対して、国会承認は不要で、ただし、国会への報告だけは必要になっています。

3 今回の特措法改正によって、「強い制約」「緩い要件」「損失補償無し」という最悪の法制度となる

 今回の特措法改正によって、緊急事態宣言時の行政からの要請に従わなかった場合には、指示ではなく「命令」を出すことができ、さらに、それに従わないと、立入検査や過料などの制裁措置も行えるようになるとされています。また、要請に従わない事業者等の公表も、制裁的に行うことができるようになるとされています。
 過料というのは刑事罰ではありませんが、決して軽い制裁ではありません。これに立入検査や公表などを組み合わせれば、要請に応じない事業者を強制的に事業停止に追い込むことは容易です。
 つまり、制裁付きの強い制約が法律に定められるということです。
 その一方で、要請等に従った事業者等に対して、その事業規模等に応じた損失を補償したり費用を補填する規定は定められていません。

 新型コロナの感染拡大を食い止めるため一時的に事業者に強制力を持った営業制限が必要という考え方はもちろん一定の説得力があります。
 しかし、それはあくまで、適切な損失補償の枠組みを導入することとセットでなければなりません。また、行き過ぎた制約が課せられた場合や、感染拡大防止との合理的な関連性のない制約であった場合などには、事後的に処分の取消や賠償請求といった救済措置が具備されていなければなりません。

 こうした人権保障の仕組みを全く強化することなく、強制力のある人権制限だけを規定する今回の改正は、人権保障の観点から明らかに不当です。

4 さらに『予防的措置』によって、緊急事態宣言を出す必要さえなく、行政は国民に強い制限を課せる

 今回の改正案では、『予防的措置』という、もっとひどい仕組みが規定されています。
 これは、蔓延防止措置を講じなければ、緊急事態宣言を出さざるを得なくなると行政が認める場合に、予防的措置として、命令も出せる、立入検査もできる、過料も課せる、制裁的公表もできるという制度です。
 つまり、もはや緊急事態宣言を出す必要さえなくなるということです。

 そのうえ、予防的措置の実施には、国会報告さえ不要です。国会閉会中にも実施可能です。つまり、全く民主的統制はなされず、行政の一方的な判断でできる。期間制限も課せられていません。
 当然、損失補償や事後的人権救済の仕組みが本法に規定されていないことも同様です。

 今回いきなり提案されようとしている『予防的措置』は、国会承認も報告もなし、期間制限もなし、損失補償規定もなし、それでいて課せられる制約はフルセットという最悪の内容なのです。

5 感染症法等の改正で、罰則付きの人権制限までが科せられるが、これは逆に医療崩壊を助長しかねない

 今回の法改正では、感染症法の改正も予定されており、これも重大な問題があります。
 すなわち、今回の感染症法改正では、新型コロナの陽性結果が出た場合に、自宅やホテル等での療養を要請され、それに応じないと、入院を勧告され、さらにそれにも応じないと罰則がかけられるとされています。
 これは、逆に医療崩壊を助長する恐れがあります。

 自宅やホテル等での療養が要請される人は、通常無症状かあるいは軽症患者ということになりますが、自主各離等の要請に応じないと無理やり入院させるという仕組みにすると、無症状・軽症者によって病床が占有されていくのです。それこそ、入院したい軽症者は、要請を拒否すれば、入院できてしまうのです。
 軽症ないし無症状者にきちんと自宅等療養を徹底したいなら、むしろ待機指示等に一定の強制力をかけるべきで、それとパッケージで協力金等を支払うべきです。

 さらに、疫学的調査に協力する義務を課し、それにも違反者に罰則を科すという改正もされようとしています。
 しかし、こうした罰則を強めると、検査の受け控えを誘発します。すると、結局のところ、行政が把握できない市中感染が増えて、ますます感染拡大を制御できなくなります。

 罰則を科せば行政の狙い通り国民がコントロールできるというわけではないのです。

6 緊急事態宣言下のどさくさに紛れ、国民の恐怖を煽って著しい人権制約法案を通すのは、法治国家の政府がやることではない。

 春の緊急事態宣言が収まってから、半年以上の期間があったにもかかわらず、政府も国会も、必要な法改正の議論を行わず、問題を放置し続けた結果が今の緊急事態です。
 無責任な不作為によってもたらされた危機を理由に、一方的に国民の側に制約を課し、行政の側に適正な手続き要件や補償義務を課さない法律を作ろうというのは、「火事場泥棒」以外の何物でもないのです。

 今は危機的状況なのだから、なんでもいいから法改正をして感染拡大を食い止めることが最優先だ、という火事場泥棒の強弁に、我々国民が、唯々諾々と従っていたのでは、日本国民の自由と権利は際限なく蝕まれていきます。

7 一方的な制限強化ではなく、民主的統制の確保(国会承認)と事後的救済(損失補償)をパッケージ化したまともな法律を直ちに国会は制定すべき

 今、必死に議論すれば、バランスが取れた法改正をすることは可能です。時間が無いから仕方ないというのは、政府と与野党双方の責任放棄です。

 具体的には、以下のようなまともな法改正をすべきです。

1 緊急事態宣言の発出や延長には国会の承認を必要とする。
2 緊急事態宣言下における特定事業者の営業停止等の措置には一定の強制力を伴わせるが、必ず一定の損失補償や費用補填を行うことを特措法上に明記する。
3 予防的措置についても国会報告を必要とし、さらに強制力のある措置は含めない。それにともない、法24条9項に伴う要請等は、一般的・啓蒙的要請にとどめる運用を徹底する。
4 予防的措置及び緊急事態宣言下の措置によって、不利益を受けたものは、処分の取消や不服申し立てを行うことができる手続きを定める。
5 国会が、事後的に、予防的措置及び緊急事態宣言の効果と弊害等を検証することを明示する。

 上記のようなバランスの取れた仕組みとなるならば、国民への一定の制約を含む法制度の導入は、必要と考えます。
 しかし、こうした議論を放棄して、強制力ある処分の実施も、給付等の可否や規模も、すべて政府に丸投げしてしまったら、どんどん行政による恣意的判断や運用が拡大されていくばかりです。

 今こそ、私たち国民自身が、主権者として、あるべき法制度について、しっかりと声を上げるべきなのです。


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