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「改正種苗法」ここだけは修正しないとマズイ!

種苗法の改正には基本的に賛成

 まず、種苗法の改正自体は、必要です。
 多くのコストをかけて品種改良された種苗の権利を適切に保護することは、日本の農業の競争力強化のために必要な制度です。
 ただし、今回の改正法案には、重大な問題があるため、その点は修正を図るべきです。
 以下、修正が必要なポイントについて書きます。


登録品種の自家増殖原則禁止という大問題

 今回の種苗法の一番の問題は、登録品種についての自家増殖が原則禁止になる点です。今後も必要に応じて認められるから「原則禁止」というわけではない、みたいな法的根拠に乏しい言い訳が農業従事者への説明等で行われることがありますが、条文上、明確に自家増殖を認めている規定を削除するので、これは、登録品種の自家増殖を原則禁止にする法改正です。

 自家増殖というのは、農家が、自分の農地で収穫するための苗を買ってきて増やす行為です。現実問題として、自家増殖を認めないと、苗が足りなくなってしまうということもあり、これまで認められてきたのです。
 従来から、農家は、JAなどから苗を買ってきて、それを自家増殖して栽培してきていて、これは基本的に認められていたのですが、今回の法改正で、原則禁止になります。

 登録品種ではない一般品種の自家増殖は認められているのだから大丈夫だといった言い訳もしばしばされますが、例えばコメなどでは、登録品種が相当多いので、登録品種の自家増殖が原則禁止になるのは、大変大きなインパクトです。前から一般品種は当然に自家増殖できたわけで、それが今後も認められるから登録品種の自家増殖が原則禁止になっても平気だというのは、論理的に全くつながっていません。

 条文でいうと、第21条の第2項という条項が、まるっと削除されてしまうのです。ここが問題です。


権利の海外流出を防ぐには、確かに、自家増殖に一定の制限をかける必要はある。

<削除される予定の『種苗法』第21条第2項>
2 農業を営む者で政令で定めるものが、最初に育成者権者、専用利用権者又は通常利用権者により譲渡された登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗を用いて収穫物を得、その収穫物を自己の農業経営において更に種苗として用いる場合には、育成者権の効力は、その更に用いた種苗、これを用いて得た収穫物及びその収穫物に係る加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。

 サクッと解説しますと、この第21条の第2項というのは、正当な手続き(有償での譲渡等)によって苗を手に入れた農業従事者が、自分のところで収穫するための苗を増やす(先ほども書いたけど、これを自家増殖といいます)ことを認める条文なのですが、これが、まるっとなくなってしまう。つまり、自家増殖が、「原則禁止」になるということです。

 たしかに、この自家増殖を全面的に認めてしまうと、海外で苗を買った人が、自家増殖を繰り返し、それを不当に転売するというときに、転売時を押さえないと違法にならないという問題などがあって、これだと日本の貴重な登録品種が守れないから、一定の制限をかける必要はあります。まず、「一定の制限をかける必要はある」これは確かです。


しかし、日本国内の真っ当な農家も登録品種の自家増殖ができなくなるのは大問題

 しかし、今回の法改正のように、第21条の第2項をまるっと削除してしまうと、従来から日本国内で普通に適法に苗を買って育てていた人の、認められてきた正当な自家増殖を含め、原則として禁止になってしまうのです。
 もちろん、農水省やJAなどは、自家増殖がいきなり全面禁止になったりはしないと言っていますが、この微妙に裁量的な言い方は逆にまずくて、これはつまり、実質的にこの制度を差配する裁量権を持つもの力がやたら強くなるということです。
 登録品種の自家増殖は原則禁止で、実際、地域によっては登録品種の作付け高が相当高いコメなどは、今後はかなりの部分認められなくなる可能性が高くなる(苗を毎年確実に全量新規で買わせたいから)。一方、サツマイモとか、果物のかなりの部分とかは、苗も足りないので、今後も相当程度、自家増殖は認められる可能性が高い。そして、そういう判断は、「原則禁止」ですから、差配する側の裁量で決められるようになります。


「農業の自由」を守らないと、地域密着型の農業の活力が失われ、地域が衰退する

 これは、差配する側に逆らったら、自家増殖が制限されるかもしれない、という不安定な地位に農業従事者が置かれるということを意味します。

 農業従事者と種苗に関する権利者とのパワーバランスが、権利者の側に傾き過ぎてしまうと、地元の農業従事者の自由な農業活動が阻害され、地域農業の活力自体が失われかねません。
 したがって、制度の適切なバランスは、日本国内で普通にまっとうに苗を自家増殖してきた農業従事者たちの自由を守りながら、貴重な登録品種の国外流出はきちんと防げる制度を作るべき、ということになります。

適切な条文修正で、国内農家の自由と権利流出の防止は両立できる

 さて、じゃあ、どうするか。
 実は解決策は簡単です。種苗法第21条第2項をまるっと削除するのではなく、文言を修正すればよいのです。

<第21条第2項 修正案>
2 日本国内で農業を営む者でその他政令で定めるものが、最初に育成者権者、専用利用権者又は通常利用権者により譲渡された登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗を用いて収穫物を得、その収穫物を自己の農業経営において更に種苗として用いる(以下「自家増殖」という)場合において、その者が従前より当該登録品種の自家増殖を正当に継続してきたと認められるとき、並びに当該地域の農業委員会の承認を得たときには、育成者権の効力は、その更に用いた種苗、これを用いて得た収穫物及びその収穫物に係る加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。

 まず、主体に日本国内で農業を営む者という条件を付けます。
 さらに、過去から正当に自家増殖してきた者と、農業委員会の承認を得た者という条件を付けます。

 日本国内の農業従事者ならだれでもよいとしないのは、日本国内で自家増殖して、海外に流してしまうという悪意ある事業者もごくまれに存在するからです。

 なお、承認を誰がするかという問題は、もう少し詰めて議論すべき論点です。農業委員会がベストとは限らないでしょう。

 重要なことは、過去から正当な自家増殖を行ってきた農民の農業実施の自由の確保と、登録品種の海外流出からの保護という立法目的を両立させるということです。適切な条文の修正を行えば、立法目的を失わせずに、問題点を解決させることができます。


まとめ
~海外流出防止を盾に「地域の真っ当な農業者」の農業の自由を侵してはならない~

 以上より、種苗法の改正自体は必要ですが、現状の改正案は、日本国内でまっとうに農業をやってきた地域の農業従事者にとって、その自由を大きく失わせるような改正となりかねません。

 そこで、国内の登録品種の権利性を強め、海外からの侵害等が生じないように適切な制度を作るという改正目的は維持しつつ、上記のような適切な修正を図るべきです。

 日本の農業競争力の強化は極めて重要な国策ですが、一方で、地域農業の活力維持もそれと同等かそれ以上に重要なテーマですから、どちらかを諦めるのではなく「両取り」を目指すべきです。

 というわけで、議員の皆様よろしくお願いします。

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