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師任堂に学ぶ、働くことの意味

現在BSテレ東で再放送中の韓国ドラマ『師任堂〜色の日記〜』。韓国の5万ウォン札に描かれている申師任堂(シン・サイムダン)をモデルにした純愛史劇だ。『チャングムの誓い』で主演を演じたイ・ヨンエの女優復帰作で、2017年に韓国で放送されたドラマである。

私は韓国ドラマをよく観るが、『師任堂〜』はお気に入りのひとつだ。チャングムを観て以来イ・ヨンエのファンになったということもあるが、副題に色の日記とある通り色彩が美しくて好きなのだ。

ストーリーは過去と現在を行き来しながら進み、ほぼ全キャストが1人2役で過去と現在の別々の人物を演じている。イ・ヨンエが演じるのは現代の韓国で美術の研究をするソ・ジユンと歴史上の人物シン・サイムダンだ。サイムダンと関わりのある《金剛山図》という絵画の真偽を調べるジユンとサイムダンの生涯が平行して描かれる。

このサイムダンという人物、韓国では“良妻賢母の鑑”として知られているそうだ。だが私は、ドラマで描かれているサイムダンは“雇い主の鑑”でもあると考える。

ドラマの細かいあらすじは省略するが、紆余曲折あってサイムダンは暮らしを支えるために紙作りを始める。最初はサイムダンと使用人のヒャンだけで作っていたが、ある日流民と出会い彼らを雇ってともに紙を作るようになるのだ。

流民とは重税から逃れたりした、ちゃんとした家も社会的身分もない者たちだ。都に住む人々は彼らを軽蔑している。そんな彼らを雇うときにサイムダンは、儲けは等しく全員に分け与えることを約束する。生きるためにはお金が必要、お金を稼ぐには職が必要だとサイムダンは言う。紙作りができるようになれば、流民たちもきちんと税金を払えるようになるし、食糧も手に入れられるようになる。サイムダンは、流民と呼ばれる人々を救いたいと心から思っているのだ。雇う側の人間でありながら傲り高ぶることなく、常に流民たちと同じ目線で接している。自分だけが儲けから多くもらうこともしない。流民たちが不当な理由で投獄されようものなら自分の財産を投げ合っても彼らを守る。

生きるためにはお金が必要、お金を稼ぐには職が必要。
これはドラマの中に限ったことではない。現代の私たちの生活にも言える。

社会というのは生きているだけでお金を要求してくる。住んでいる地域で住民税がとられ、食べ物や着るものを買えば消費税がとられ、さらには稼いだそばから所得税がとられる。税金まみれだ。(そしてその税金の使い道が政府から詳細に明かされることはない。)

生きていくのにお金が必要だから私たちは働かなくてはならない。それなのに、就職や転職の面接では「生きていくためにお金を稼ぎたいから」ということを話してはいけない空気があるし、仮に言えたとしてもそれだけでは企業は雇ってくれない。世知辛い。

人を雇う側にある人間すべてにサイムダンのようにあれとは言わない。私はそんな大きいことを言える立場ではない。しかし、人間はなぜ社会に出て働くのかということを今一度考え直していただきたい。学歴とかスキルとか即戦力になるかどうかだけで人を簡単に切り捨てないで社会であってほしい。

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