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F#7 私の大事な男たち

雨の鎌倉はしっとりといい匂いがする。
山のそれは土を優しく叩きながら植物たちに挨拶をしてまわり、海辺のそれは海のしぶきと混ざり合っては波打ち際の泡と化す。

海からやって来た潮風が我が家のカーテンをそれでも優しく濡らしていく。

用事から帰った私を彼が優しく出迎えてくれた。
外の潮の香りはどこへやら、力強いコーヒーのアロマが一瞬で私の全身を包んだ。

コーヒーを飲まない彼が、どういうわけかこの1か月、コーヒーの研究に勤しんでいるのだ。

いつからか私は、「毎日がギフトの連続」だと強く思うようになった。

今住んでいる家もその一つ。
死んだ祖父から贈られてきたものだ。
それも祖父の死後何年も経って。

祖父は私が子どものころから何でも作ってしまう人だった。

キャラクターが描かれた自転車は可愛い赤い自転車に変わった。

シルバニアファミリーの家が欲しいと言ったら、それ以上に素晴らしい二階建ての家と家具まで作ってくれた。

息子が生まれると廃材を馬のロッキンチェアに変えた。

だからこの家が手に入った時、あの時私が欲しいと言ったから祖父がまた形にしてくれたんだとすぐにわかった。

風がビューと吹き込んで、コーヒーのアロマと混じり合ったかと思うと、潮のかおりが主張を激しくした。あまりにも突然のそれは、私の意識をここに戻すのには十分すぎた。

気づけば床が雨で濡れている。雑巾を取りに行こうとした時、彼が台所から私に言う。

Baby, can you try this one?

コーヒーミルの激しい音が彼の声をもバラバラに砕こうとするのがおかしくて、思わず笑ってしまった。雨が吹き込んできた窓を閉め、床を拭くと、私は台所に向かいながらミルに、いや、彼に返事をした。

台所で彼の背中を見たら、抱きつかずにはいられない。

彼との出会いも祖父がくれた。
5年前の今日、離婚に悩む私の背中を押したのも天国の祖父だ。

アメリカ人の彼を私に引き合わせたのが死んだ祖父だとは誰が信じよう。ペリーもびっくりだ。

彼の腰に回した私の手が、大きな手に包まれる。
コーヒーの芳ばしい匂いはあっという間に彼の優しさに溶けていった。

こんなに幸せでいいのかなぁ。
私が心の中で呟くと、私の2人の大事な男たちは同時に大きくうなずいた。

私は彼の背中に頬をすり寄せ、ありがとうと、今度は声に出して言った。

今日は2025年6月28日。
雨降って地固まるとはよく言ったものだ。




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