どこが好きだったか教える時は

"どこが好きだったか教える時は
もうその恋を片付けるって決めた時だよ
せっかく自分だけが見つけた秘密だったんだから"

これは大好きな坂元裕二さん脚本の『大豆田とわ子と三人の元夫』の第6話に出てくるセリフです。

つい1ヶ月ほど前、私は、1年近くひた隠しにしていた片思いの欠片を、自分の不注意で人前に晒してしまいました。

恋を片付けると決めていたわけでも、どこが好きだったか教えてしまったわけでもなく、ただ酔った勢いで、あの子に片思いをしていると共通の友人に話してしまっただけなのですが、誰にも言っていなかった気持ちをぽろっと零してしまった以上、あの子に寄せる私の好きが私だけの秘密じゃなくなってしまったことだけは確かで、帰り道で1人になった時、「そろそろ潮時かなあ」と思いました。

思いを自覚するまでにまず半年。
根負けするように思いを自覚してもう半年。

誰にも言えないまま、感情ばかりが忙しくて、行動にはちっとも移せなくて、でも一緒に過ごせる時間は長いから、季節が移ろうに連れて思い出だけは増えていく。丸ごと失うのがいちばん怖くて、壊れてしまうぐらいならこのままがいいと口で言いながら、欲張りな心は些細なことで一喜一憂して、その度に「もうやめる」と「ただ好き」を繰り返す。

そんな1年のことを、いじらしくて愛おしい時間だったなと思う一方で、時間を追うごとに拗れる気持ちは、とてもじゃないけど、これ以上抱えきれないなとも思います。

だから、1ヶ月考えてみて、前にも後ろにも進めない雁字搦めの内緒の片思いを遂に片付けようと決めました。

片付けるに際して、本当は冒頭で取り上げたセリフに則って、大好きだったあの子にどこが好きだったか教えてあげたいのですが、教えてあげようとする度に、喉がぐっと詰まって、鼓動が暴れて、何故か涙が出そうになるので、あの子に直接教えてあげる代わりに、noteを書くことにしました。

これが、私のせめてものけじめです。

幸運なことに、私たちの間には、恋愛的に好きか否かに関係無く、これからも大切にし合っていけるだろうと思えるだけの繋がりが育っていますし、正直なところ、その繋がりに甘えて内緒でだらだらすることも許される気がしています。

でも、私は、健やかでいるために、幸せになるために、今、この好きを自ら手放して終わらせたいのです。

どこが好きだったか、教えきれないけど、

重たいものを運ぶ時、相手が誰であれ女の子には持たせてくれないところが好きでした。街でえっちなお姉さんを見つけた時、分かりやすくどきまぎしてふざけるところが好きでした。調子に乗って無茶ぶりした時、決まって困ったように笑ってくれるところが好きでした。行きたいところがあると言った時、二つ返事で誘いに乗ってくれるところが好きでした。酔っ払って寒いと喚いた時、自分もそこそこ薄着の癖に1枚脱いで貸してくれるところが好きでした。方向音痴を発揮した時、代わりに地図を読んでくれるところが好きでした。ちょっとやらかした時、茶化しつつ受け止めてくれるところが好きでした。お腹いっぱいでご飯と睨めっこしてる時、丼ごと奪って美味しそうに平らげてくれるところが好きでした。道を歩くみんなの塊から外れた時、すぐに振り向いて視線で探してくれるところが好きでした。寝坊した君を待ってる時、常習犯の癖に毎度申し訳なさそうな顔をしてやってくるところが好きでした。困ってる人が近くにいる時、いつだって底にあるやさしさが勝っちゃうところが好きでした。

片耳のフープピアスが、酔うとすぐに赤くなる頬が、湿気が多いと跳ねる毛先が、節や血管が浮く手の甲が、酷く笑うと弧を描いて消える目が、私を呼ぶ時の間延びした声が、骨の位置の分かる横顔が、喉仏が、しなやかに鍛われた腕が、鼻を掠める柔らかい匂いが、振り向いてくれる時のあどけない表情が、眉を上げる仕草が、私より少しだけ高い背丈が、

それは それは もう すごく すごく 好きでした。

会える日は手を抜かずにメイクしてたことも、お出掛けをする日に新しい洋服をおろしたことも、共通の話題が欲しくてアニメを見たことも、君の好みに合わせてマフラーの色を選んだことも、送ってくれた雪景色をこっそりホーム画面にしたことも、何気ないLINEが続くとひとりで浮き足立っていたことも、素直になれなくて酔っ払ったふりをしたことも、電話を切りたくなくて遠回りをして帰ったことも、恥ずかしくてふたりだけの写真を撮れなかったことも、イヤホンから流れる音楽に君を重ねていたことも、きっと知らないと思うけど、もう全部、過去のお話になります。

片付けてしまうことをまだ少しだけ寂しく思いながら、いつか、実は好きだったのと伝えられた時に、ほんのり後悔してくれたら嬉しいなと思いながら、眠る。

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