POSの功罪を考える
仕事帰りにスーパーやドラッグストアに行くのが、習慣になっています。時代の流れに沿って、レジでの会計方法も大きく変わっていきました。究極の会計パターンは、セルフレジで品物のバーコードをかざし、合計額を決済する無人化された世界です。
私は、コンピュータによる平板な指示を聞くのがイヤで、店員さんがいるレジに行きます。結局は、精算機で支払いを済ませるわけですが気分的に大きな違いがあります。これも今となっては、私だけのこだわりなのでしょうね。
アナログ方式からセルフレジに変革されるのは、あっという間のことでした。かつては、レジ担当が商品の値段を読み上げつつ金額を打ち込んでいき、代金を受け取ってお釣りを渡す。この一連の動きが、ごく日常的なことでした。
あるスーパーでは、一所懸命な新人さんが、高速で金額を打ち込むと同時に、顔も高速で左右に動くという微笑ましい様子を見ました。また、ベテランによる超高速レジ打ちに驚嘆したこともありました。私など、ミスばかりで役に立たないだろうと思っていました。
かつて、この仕事には明らかなる「スキル」が存在していました。高速決済レジでの、スリリングな経験は、確実にリピーターを増やしていました。これは、バーコードの読み取りになっても続いていました。レジ前に並ぶ行列が縮まる速さで、違いは明らかでした。
レジ通過速度を更にアップさせたのが、精算機による決済です。キャッシュレスはもちろんのこと、現金であっても精算機画面とのやり取りになり、スーパーマーケットやドラッグストアの売り場内に、店員さんは激減しました。客としては、寂しさを感じます。こうした事業所は、小売業に違いありません。改めて、サービス業・小売業におけるレジ係の役割について、ググってみました。
さすがは、お役人。定義の仕方が的確です。ここで言うところの「機敏な対応」は、昔から求められていた役割でした。そのスキルの高さが、レジ係としての尊厳を維持してきたとも言えるでしょう。
しかし、ドラッグストアなどでは、反射神経に長けた学生アルバイトが、登録販売者よりもハイ・スピードの場面がありました。今やレジ業務は「スキル」ではなくなっています。すなわち、それだけしていればいいという専門職の時代は、既に終わっているのでしょう。
自宅の近くに、ほんの少しハイソなスーパーマーケットがあります。長年、レジ係のMさんのファンでした。まだ、現金のやり取りをしていた頃です。必ず、彼女のレジに並びました。彼女に「美」を感じたからです。容姿ではなくレジ業務のさりげない動作ですが、それを見たさに、意図的に列に並ぶのです。
フワリとたたんだレシートの上に、お釣りの硬貨を数枚乗せて、丁寧に渡す手さばきが実に綺麗なのです。その動きを真似できる人を、他に知りません。流麗なる手指の芸術的動作でした。もし、自然にできるのならば、天才的とも言えるハイレベルな「スキル」です。
これこそ、「芸は身を助く」の言葉のとおり「好感の持てる」どころか、「賞賛できる」接客態度と言えます。彼女の個人的なこだわりだとも感じたので、こちらも敢えて何も言いませんでした。ちょっと脱線すると、ある日、彼女の薬指にキラリと光る物を見た時、ロス感でちょっと落ち込みました。ここだけの話です。
さて、POSシステムとやらで、レジはオートマチック化されて、平板化されました。接客業そして広くサービス業としては、企業イメージづくりが困難になっているようです。物価高の昨今、客が求めるのは、安さオンリーになっています。この頃、休日の買い物は、徒歩2分の馴染みのスーパーではなくなりました。
人づてに、格安スーパーがやって来たという話を聞いて、クルマで出向いたところ、妻曰く「もう、他では買えないよ」というぐらいだそうです。元パチンコ店で、限られた広さなれど見かけた店員さんは、3名。群がる客は品物をさっさとカゴに入れて、6台並ぶセルフ・レジへ。そして、売り切れの棚が次々と......。
響くのは、コンピュータ音声のみ。殺伐とした雰囲気は、早く買い物を済ませようと思うようにさせているようです。先の引用の「店舗全体のイメージ」は、削ぎ落とされていました。お客の目つきは、どこかで見たことがありました。大手の某100均店内と同じ、血走ったような目つきだったのです。
POSシステムを否定するつもりは、ありません。個人的には、財布に増え過ぎた1円玉処理に重宝しています。また、自分がどれだけ余計な物を買おうとしているか、機械にレクチャーしてもらっています。
店員さんの主たる業務は、やはり雰囲気づくりだと考えます。更には、店舗のオリジナリティを創出することでもあるでしょう。例えば、目的とする品物が見つからず、困っているお客へのアプローチをどうすればいいかということです。ぶら下がっている表示板を指差すか、その場所まで歩いて案内するか。「感謝」というキーワードを大切にすればいいと思います。
AIに「ちょっとした気遣い」の微妙なニュアンスを学習させるのは、まだまだ時間を要すると思います。納得してもらう正解と、微笑みを引き出す正解の違い、すなわち人間味ある対応能力が求められてくるでしょう。
この田舎町でも、スーパーマーケット業界の競合が発生し、Mさんが働く近くの店の存続を祈った時期がありました。しかし、生き残ってくれました。地域に根ざした運営方針により、徒歩や自転車で来る近所のお客さんが多いのが特徴です。外見も内装も陳列状態も、そして店員さんたちも、他の大手とは一線を画していて感じの良さを維持しています。いろいろな面で綺麗です。馴染みの雰囲気に安らぎます。
POS+MIND。生き残りは、ここに集約されていくと思われます。効率的なシステムに、一輪の花。こんな人間社会を望みます。
せめて「ありがとうございます」を、温かい笑顔で言われて、店を出たいのです。それこそ人間しかできない、接客の仕事だと思います。お出迎え運動、お送り運動開始しましょう!
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