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良いことだけ口にすれば幸せはきっと叶えられると思った瞬間。
よっしゃあ、今朝の占い1位だ!
【都合よくチャンスが巡ってきそう】だって!
あの人に会えますように、会えますように。
言霊の精、聞いてる?
黒のカフェボウルに玄米フレークとフルーツグラノーラを入れる。
そこにヨーグルトとハチミツを乗せる。
ドリップコーヒーをお気に入りのカップにセットする。
テレビを見ながら、これまたお気に入りの木のスプーンでカフェボウルをサクサクかき回す。
熱いコーヒーを一口飲む。
ブラジルの優しい甘味のブレンドコーヒー。
うん、美味しい。
あっ今日はのんびりしていられない。
1年ぶりにお笑いを観に行くのだ。
コロナ禍になって劇場も閉館された。
やっと対策と制限を掛けながら客入りが可能になったのだ。
不要不急の外出は控えるようにってずっと言ってるけど1年も笑わずにいるのは心の病気になる。
ストレスが身体いっぱいに巡って病んでる。
劇場が再開されたのなら行かなくっちゃ。
思い立ったら吉日って言うし。
昨日、ふとそう思ってチケット購入。
良かった、席残ってて。
ついでにファンレターを書く。
どれだけ笑いたかったか、この日を待ち望んでいたか、馬鹿みたいに綴る。
何枚か書きなぐってあっと気づく。
コロナ対策の為に差し入れ、ファンレターの受け渡しは禁止だったな。
でもまぁせっかく書いたから取り敢えずカバンに入れておこうっと。
二杯目のコーヒーを飲みながらお化粧をする。
今の時期、マスク姿だからお化粧が簡単に済むからいいな。
ささっとファンデ塗ってささっとアイメイクしてワセリンリップしてハイ終了。
ぽっちゃり二重アゴも隠れるからマスク万歳!
バスと地下鉄と電車でガタゴト劇場に向かう。
バスはいつも1番後ろの座席に乗り込む。
一段高くなっていて足の置き場がいいし、なんと言っても車内全体が見渡せる。
だけど最近、換気の為に窓が開いてるのが嫌だ。
寒いのもあるけど何だかみんなの菌がアタシの方になびいて、くっ付いて来るような気がするのだ。
考え過ぎかな?
バスは発着から終着まで乗るから席は重要なのだ。
地下鉄内はみんなマスクをし、ソーシャルディスタンスで一人分空けて座っている。
隣同士座っておしゃべりしている学生もいるけどその両隣は空いている。
吊革につかまる人も一定間隔だ。
みんな、ちゃんと自衛しているのがすごい。
この座席は7人掛けです、のプレート文字が笑える。
1年前まではギューギュー詰めで座っていたのに。
バスに乗り地下鉄に乗り、さぁ次は劇場行き電車だ。
足早に金券ショップへ行って格安チケットを購入する。
今は株主優待券がお得ですって渡された。
なにそれ?
平日の列車内はがらんどうでホッとした。
朝から張り付いていたマスクを取りフットレストに足を乗せリクライニングを倒す。
いつもなら後ろの人に気兼ねして姿勢正しく座る。
でも今日は前後左右、誰も座っていない。
倒しちゃえって思ったけど逆に倒し慣れていないからちょっと角度付いただけ。
静かに流れる車窓を見ながら、遠距離恋愛の彼氏に会いに行くみたいだなって思った。
もうすぐ会える、もうすぐ会えるってワクワク感。
昨夜、ファンレター書いてる時からずっとハイテンション。
仕事にもこんなテンション持続出来たらボーナスも弾んでもらえるだろうに。
いつ彼を知ったんだっけ?
存在を認知してから好きになるまでそう時間は掛からなかったと思う。
芸人のくせにシュッとしてて黒のパンツが似合ってる。
もちろんお笑いは超一流。
だと思う。のはず。
会いたいな、握手したいな。会いたいな、握手したいな。
小さな声で呟く。
コロナ禍だから絶対無理だけど言霊を信じるのだ。
90分のお笑いライブを見終えた。
あー笑った、笑った!
これでコロナ禍の今年を乗り切れる。
やっぱり受付ではファンレターを受け取ってもらえなかったけど。
終演後のコロナ対策として客席後ろから一列ずつの退席が誘導された。
劇場を出るまで結構時間が掛かったけど隣の席の人と裏に回ってみたら、すでにタクシーが止まっていてスタッフがファンを追いやっていた。
まぁ当たり前だよね。
アタシたちは遠くからタクシーが通過するのを見ていたが肝心の彼が乗っていなかった。
ひとしきりお笑いの話をした後、もう一度裏に回るとタクシーもスタッフも居ずガランとしていた。
アタシたちが劇場を出る前にもう帰ったんだねって話しながら薄暗い商店街を歩く。
横断歩道で、じゃあアタシこっちだからと言い掛けた時、身体の横に風が起きた。
えっ、と前を見たら見覚えのあるようなリュック。
えっえっまさか、と前を歩く人を追う。
シャッターの下りた薄暗い商店街のわずかな灯りで横顔をそっと見る。
マスクしてるし、おまけにメガネも掛けてる。
どうしよう。違うかも?
足早に歩く彼に並んでみた。
あっ、やっぱりそうだ!
今朝の占い通りだ!
「近寄ってもいいですか?」
アタシは慌てて聞いた。
彼は驚いた様子もなく「あ、はい」と答えた。
「ファンレターって渡せませんよね?」
「すいません。このご時世なので」
「消毒液を持っているのですがそれでもダメですか?」
「いや僕の方が移す場合があるので。収束したら必ず受け取りますので」
アタシより20㎝も身長が高い彼の表情はわからなかった。
ただ声のトーンは弾んでいた。
歩くスピードも合わせてくれていた。
商店街半ばまで来た時、もうこれ以上は迷惑になるなと思った。
「じゃあこれからも頑張って下さい」
そう言ってアタシは踵を返した。
「ありがとうございます」
背中に優しい声が通り抜けた。
やっぱり言霊ってあるんだな。
良いことも悪いことも口にすればその通りになる。
ならば良いことだけ口にしよう。
そして強く願えば叶うもんなんだな。
ニタニタしながらアタシは商店街を戻って行き、また長い長い帰途につくのだった。
幸せな気持ちを抱きながら。
♪最後までお読み頂き、ありがとうございました(ペコリ)