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歓楽温泉での出来事/青春物語14

社員旅行の行き先は歓楽温泉だった。
なんでこんな所に旅行しなくちゃいけないの、と女子社員から総スカンだった。
ホテルに着いてすぐ大宴会で席は宴会場の入口でくじ引きだった。
私の隣は偶然にも永尾さんの部長だった。
結構、話し好きで私は相槌を打ちながらご馳走をほおばっていると彼がビール片手にやって来た。

「部長、ここにいらしたんですね」
「かわい子ちゃんたちと飲んでたよ」
「いいですね、両手に花で」
彼はそう言いながら部長のグラスにビールを注いだ。

「永尾、あとからいい所 連れてってやるからな」
「ははは、遠慮しておきますよ」
「いやこんなチャンス、滅多にないぞ」
部長はそう言いながら彼に返盃をした。

お開きの後、彼の部長がバーで二次会をしようと言い、私たちの周りにいた10名ぐらいがそのままバーに連れ立った。
いつの間にか一緒にいたはずの彼の姿が見当たらなくなっていた。
「永尾はどこへ行った?」
「部屋に帰ったかもしれませんね」
「なんだ、この後いい所に行くのに」
「私、呼んできます」
そう言って足早にバーを後にした。

「男子は7階だったかな」
部屋番号なんてわからなかったけどエレベーターに乗り7階で降りた。
目の前に喫煙室があり、その中に彼が座っているのが見えた。
「永尾さん、部長が呼んでたよ」
私の声で彼が振り向いた。
「あっ桜田さん。部長が?」
「うん、いい所に連れてってやるって」
「俺それが嫌だから抜け出して来たんだ。なあ」
彼はそう言って一緒にいた小林さんたちの方を向いた。

「いい所って?」
「桜田さんは知らなくていいよ」
そう答えた小林さんの方を向いた時、コンタクトがズレた。
目を触っているうちポロッと落ちた。
「あっ、コンタクトが落ちた!」
私は思わず声を上げた。
「動くなよ」彼がすかさず言った。
そこにいた人たちが何分か探してくれて幸いに見つかった。

「俺、洗浄液持って来ているから貸してあげるよ」
彼は見つかった途端、そう言った。
「私も持って来ているから大丈夫」
「でも俺たちの部屋、そこだから」
彼の後を付いて行き、借りた洗浄液でコンタクトを入れ直し1階のバーに向かうため二人でエレベーターに乗った。

「ねぇ外に出ない?」
1階のドアが開いた時、ふいに彼が言った。

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