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遠くの親戚より近くの他人ってヤツさ/青春物語15

私たちはそっと玄関に向かった。
そしてホテルの前の坂を二人で下りて行った。
その間、宿泊客であろう何人かの男の人が行き来していた。
はずれに柵で仕切られた芝生があってその柵に腰掛けながら彼は言った。

「なんでこんな所を社員旅行に決めたのかな?」
「なんでって?」
「男は喜ぶかもしれないけど女の人は退屈じゃない?」
「歓楽温泉って初めて聞いたんだ。男の人が来る所なの?」
「そんなことはないけど…」

気持ちの良い風が吹いていた。
私は彼の隣に腰掛けた。
「ないけど、なに?」
「まぁそんなことより彼氏とうまくいってるの?この間、ぜんぜん会ってないって言ってたけど」
「う〜んどうかな?お互いすれ違いで話もしていないんだ。他に好きな人できたのかも?」
「そんなことないでしょ。桜田さん一筋だよ」
「それならいいんだけど。永尾さんの方は?」
「俺たちもすれ違いばっかりだよ。やっぱ離れちゃうとダメだね」
「そんなことないって」
「遠くの親戚より近くの他人ってヤツさ」
彼はそう言ってポケットからタバコを出した。

「吸う?」
「ううん吸わない」
「吸ってもいい?」
「いいよ?いつから吸ってるの?」
「高校から」
「わっ不良!」
「高校生は好奇心旺盛なの。吸わなかった?」
「吸った」
そう言って笑った私を彼は抱き寄せた。





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