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Vol.16 カセットテープ(後編)

ランクがあった

メーカーは技術力の向上を追い続け、消費者は「以前より良いもの」を求めるという基本的な市場構図が70年代にはありました。
所得が上がり生活に余裕が出てきた時代のこういった「成長志向」というのは、今の時代とはちょっと違った感覚です。

カセットテープにもランクがあり、ノーマル→ハイポジ(クローム)→フェリクローム→メタルと性能の違いが付加価値となっていました。
上位ランクのテープを使うためには機材もレベルアップする必要があり、それもまた消費者心理をうまく突いていたように思います。
好きな音楽や大切な音源にはより良いテープを使う、と当たり前のように考えていたものですが、実際のところは気分の問題だったように思います。それが大切といえばそれまでですが。

カセットテープの名誉のために付け加えると、実はテープメディアはきちんとした機材を使うとCDや音声フォーマットなどよりかなり音質のレベルは高くなります。アナログゆえの音の太さなどデジタルとは比較になりません。
プロミュージシャンのレコーディングではいまだにテープを使うケースもあります。デジタル録音と比べると手間も費用も大幅に増えますが、そのこだわりはやはり一味違った作品を生むことになります。


付き合い方

カセットテープを使いこなすためには(アナログメディアならではの)いろんな工夫がありました。

・鉛筆
先頭部分のリードテープ(録音できない部分)を送ったり、緩みを戻したりするために鉛筆をカセットの穴に突っ込んでテープを回すという技がありました。片手にもった鉛筆でカセットをくるんくるんと高速回転させて手動式早送り・巻き戻しもしました。

・消去防止ツメ
カセットテープは再録音(上書き)が出来ます。
飽きたら消して別のものに入れ替えるという出来るたいへんエコな機能ですが、これは大切な録音物を消してしまうというリスクもあります。
そこで再録音をできなくする仕組みとして「消去防止ツメ」というものがありました。ツメを折って穴を開けておくと録音機の録音ボタンが押せなくなるというものです(うまく説明できないので各自ググってください)。
なんともアナログな方法ですがよくできた仕組みです。
このツメを折る作業は一大決心であって「このテープは大切なものだ」という意思表示でした。でもそういう気持ちは大概長続きしないもので「やっぱり消すか」となることもよくありました。
そんなときは「セロテープで空いた穴をふさぐ」という技を使います。ちゃんと再録音できるようになります。
頑丈なメディアならではのワイルドな付き合い方です。

・デコレーション
カセットテープにはケースがあって、そこに紙を入れておくことができました(レーベルと呼んでいました)。
タイトルや内容(曲名など)を書いた紙を入れておくわけで、レコードで言うところのジャケットの役割です。
ジャケットですからキレイにセンスよく仕上げたくなるわけで、ここにもさまざまな工夫が生まれます。
当時FM雑誌には必ずこのレーベルが付録でついていました。表は流行りのイラストやアーティストの写真、裏側と背表紙部分の空白に文字を入れる仕様です。
パソコンで自作するなんて時代ではないですから文字は手書きが基本ですが、インレタ(インスタントレタリングシート)というものを使ってよりキレイに仕上げる方法もありました。印刷された文字(アルファベットと数字くらいしかない)が転写シールになっているもので、これをコリコリと一文字づつレーベルに写していったわけです。
手間のかかる作業です。でもそんな作業も楽しかったし(プラモデルのような感覚かも)、完成した「マイテープ」はそれはそれは宝物です。友達にみせて自慢したりプレゼントにしたり。
こだわり選曲&手作りレーベルのマイテープを贈られれて迷惑に思った女の子も多かったはずですが、それもこの時代の心温まるエピソードです。


カセットテープってその存在の時代性だけでなく、使用者の向き合い方も含めてなんだか「カワイイ」です。


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