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読書記録『楽園のカンヴァス』

「一万円選書」で運命的な出逢いを果たした作品
『楽園のカンヴァス』原田マハさん著 新潮文庫

結論から言うと、私の好みにドンピシャの作品でした。

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作品について

楽園のカンヴァス
原田マハ 著  新潮社
(単行本の発売日:2012年1月20日)

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作

新潮社さんの書籍詳細ページより引用

作品の感想

全体の感想

美しい余韻にいつまでも浸っていたいと思える作品でした。
驚かされるのは、これがフィクションであると言う方がむしろ不自然だと思うほど、空想と史実が緻密に織り交ぜられている点です。
私のようなアートに詳しくない人間が読むと、あれもこれも実際に起こったことなのだと信じ込んでしまう説得力があります。

織絵とティム

第1章は、監視員として働く早川織絵の視点から始まります。
そこは2000年の倉敷・大原美術館。
美術研究者であったはずの織絵がなぜ監視員をしているのか、その謎を解く鍵を探して、読者は過去への旅に出ることになります。

舞台は時をさかのぼり、1983年に降り立ちます。
ここからは、ニューヨーク近代美術館(通称MoMA)のキュレーター、ティム・ブラウンの視点で語られます。

1983年編は織絵とティム、2人の視点から交互に語られていくのかと思いきや、こちらはティムの視点だけで進みました。
結局、織絵に関する謎は、いくつも重ねられたベールを1枚ずつはがしていくように明らかになっていくので、彼女の新たな一面が垣間見えるたび、その魅力に惑わされてしまいます。

真贋を見極めるための『物語』

鑑定を依頼された絵の取り扱い権利を巡って、判断材料として開示されたのは1冊の古書でした。
そこに書かれた『物語』を読み解くことで、真贋がわかる…私にはそれがなぜなのか最後の最後まで理解できませんでした。
章を重ねるにつれて『物語』の登場人物の関係性や相手に対する想いが変化していき、それに呼応するように織絵とティムの心情も変化していきます。
終盤で明かされる『物語』の秘密に触れたとき、「そういうことか!!」と身震いするほどの感動に襲われました。

左側が薄くなってきて淋しい

紙の本の良いところは、進行度が目でも肌でもわかりやすいところです。
残りページが少なくなるにつれて、早く読み切ってしまいたいような、ずっと読んでいたいような感情の矛盾が生まれます。
『物語』を読み進めていた織絵とティムも、もしかしたらそんなことを思っていたのかもしれません。

真贋判定を終えて2人が日常へと帰っていき、読者の旅も再び2000年の倉敷へと戻ります。

最終章で、第1章に登場した、織絵の母や娘の真絵と、MoMAやアートについて話すシーンがあるのですが、1983年編のフィルターを通して見ると、セリフのひとつひとつにグッときます。

映画を見ているような

1983年の織絵とティム、『物語』の中のルソーとその絵のモデルとなったヤドヴィガ、ルソーの才能をひたすら信じたピカソ、それぞれの関係性が変化していく様子、登場人物たちのアートに対するむせ返るような情熱、つぎつぎに迫り来る謎。
出番は少なかったけれど、真絵の織絵に対する複雑な想い。

小説を「読んでいた」のですが、映像で「観ていた」と錯覚してしまいそうなほど情景がありありと浮かびました。

惜しまれるのは、自分がアートに疎いことです。
もちろん、知識がなくても十二分に楽しめる作品です。
ですが、もっと知識があれば、随所に登場する美術館やアート作品のシーンをより鮮明に想像できただろうと思うのです。

おわりに

この作品の主軸であるルソーやピカソの作品は、教科書に載っていた数点しか知しませんでした。
それでも『物語』を通して、彼らが苦しみながらも確かに生きていたこと、アートへのひたむきな姿勢に胸が熱くなる思いがします。

そして一部の謎を謎のまま残して読者に想像させる描き方。
いろいろと妄想が膨らんで、自分なりの「その後」を付け加えたりして。
(勝手に妄想されて、著者がどう感じるかはわかりませんが)

最終章ラストシーンの、多くを語らない締め方にも脱帽です。

もう一度はじめから「このときのこのセリフはそういう意味だったのか」と、答え合わせの旅に出たくなる作品です。


期待と不安が入り混じった状態で読み始めましたが、
終わってみればすっかりこの作品のとりこです。

「大好きな作品だ」といえる小説に出逢えることは幸運なことです。
原田マハさんのほかの作品も読んでみたいと思えました。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
ではまた。

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