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半径2kmの栄養循環「ローカルフードサイクリング」とは

大切な家族とのお別れから、食べ物と命の密接な関係について考えるようになったLFCコンポストの代表 たいら。コンポストの出会いから、地域ごとのローカルフードサイクリングがはじまっていくまでのお話を紹介します。

コンポストとの出会い

たいらは、コンポストとの出会いをこんなふうに話しています。

「母の手習いではじめたコンポストで、毎日の生ごみが減り、家から生ごみの臭いがなくなって…。コンポストによって、まさかこんな快適さが手に入るなんて思いもしなかった。

何より、自分の出した生ごみが、混ぜているうちに消えていく不思議!これが、むかし学校で習った社会の分解者「微生物」との出会いでした。

生ごみを分解するのは無数の微生物たち

コンポストをすると、ごみを愛おしく思うようになる。コンポストからさまざまな学びが広がり、同時においしい野菜をつくることができる。コンポストは、家族の暮らしになくてはならないものになっていきました。

何より、コンポストの中に小宇宙を感じ、その魅力にすっかりはまりました。

たのしい循環生活を広げていくことで、安全でおいしい野菜が毎日の食卓にのぼるようになる。この可能性に気づいた時には、これまでの苦悩を忘れ、興奮で眠れないほど希望を感じたし、構想がぐんぐん広がるのを抑えることができませんでした。」

コンポストの堆肥で育てた野菜たち

半径2kmの栄養循環「ローカルフードサイクリング」のはじまり

コンポストの楽しさと可能性に開眼したたいらは、母を誘い、2002年にはダンボールコンポストを開発。2003年にNPO法人循環生活研究所を立ち上げ、全国で行う講座に東奔西走する日々がはじまりました。

並行して、2000年ごろからコンポストでできた堆肥を使って畑で野菜を育てる活動を始め、学生との教育農場や市民講座用の菜園など、多い時では15箇所のコミュニティ農園を運営してきました。

コンポストと農園を両軸で行うことで、農園でとれる野菜のできばえ、おいしさや日もちの良さから、参加者の方が堆肥の価値を体感できる。都市の中心部や、公民館、社会に対して課題を抱える若者や、幼稚園から大学などの教育機関と共に取り組んだり、さまざまなタイプの循環型の菜園活動を実践し、コンポストと農園に取り組むプログラムが充実していきました。

でも、たいらが思い描いたスピードではコンポストは広がっていかず、「どうして?」という疑問と共に、栄養をたくさん含んだ生ごみが焼却処分され続ける現実に、いたたまれない気持ちと焦りを感じていました。

2015年、それまでの活動を通して知り合った専門家の方々を誘い、「生ごみ資源化100研究会」を立ち上げます。この研究会のなかで、半径2km圏で持続的な栄養循環を生み出す仕組みは「ローカルフードサイクリング プロジェクト」と命名され、社会実装に向けたチャレンジが始まりました。

ローカル(地域)とは、この半径2kmの生活圏のこと。サイクルではなく、サイクリングとing系になっているのも、自転車で楽しく周れる範囲の中で、その場所に暮らす人が自分ごととして取り組み続けることが大切という思いを込めているから。

note「トートバック型の「LFCコンポスト」 名前のヒミツ」より

高齢化、ファミリー層、都市型 ー3つのローカル

ローカルフードサイクリングのプロジェクトは、2016年ごろから特徴の異なる3つの地域で、それぞれの特性や課題に合わせた形ではじまりました。

一つ目は、高層マンションが立ちならび、子どもを持つ若い世代が多く住む「照葉アイランドシティ」。
若い世代は、生ごみや堆肥に対して「汚い」「くさい」などのマイナスイメージを持つ人も多いので、「おしゃれ」「楽しさ」を大切にしました。街中を走るベロタクシーが、家庭でできた堆肥を回収し、コミュニティガーデンで自分で野菜を育てる。環境意識の高い方や、子どもの食育のために、多くのご家庭が参加しています。

LFC照葉アイランドシティ

二つ目は、高齢化が進む「美和台地区」。
ここでは高齢者の見まもりを兼ねて、コンポストスタッフが定期的にご自宅を訪問し、それぞれのお宅に設置されたコンポストの手入れを行うほか、公民館や福祉カフェなど高齢の方が日常的に訪れる場所をコンポストの回収・堆肥化の拠点にしています。できた堆肥は、参加者の自宅のほか、手入れが行き届かなくなった庭で利用して野菜づくりを行っています。この野菜づくりにも参加してもらうこと、無農薬の美味しい野菜を食べることで、高齢者の健康維持への効果も期待できます。

LFC美和台

三つ目は、オフィスと商業施設が並ぶ都市のどまんなか「天神地区」。
飲食店やホテル、企業が参加し、社内で出る残渣を堆肥化し、ビルの屋上や軒先のスペースを活用してプランター菜園で野菜やハーブを育てています。

LFC天神のとある拠点

栄養を捨てず、地域内で活用することで、安心でおいしい食べ物が気軽に手に入り、パブリックヘルスが実現される。こうしたローカルフードサイクリングを全国に広げていくことで、笑顔と緑のあふれる街を増やしていくこと。そのための活動もさまざまな場所で、はじまっています。


▽ LFCコンポストをはじめる

文:小川 直美(ライター|LFCコンポストユーザー)

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