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レプリカを嗅いだ時の話。

少し違う路線の話をしよう。

ディプティックでオルフェオンとフィロシコスの香りにやられた時、
「自分、もしかしてオシャレを追求した香りより、シーンを再現した香りの方が合ってるのか?」という気づきにより、かねてから気になっていた他のブランドにも手を出してみることにした。

それがメゾン・マルジェラのレプリカシリーズだ。
ここのブランドはネーミングが凝っていて、一目で「どんなシーンを再現した香り」かがわかる、面白い商品展開をしている。さまざまなレビューサイトを覗いていて名前だけはよく見かけていた(近くで見られる実物はなかった……)ので、実際に試香できる店舗に行ってみることにした。

その時試したのは「ジャズクラブ」「抹茶メディテーション」「ウィスパーインザライブラリー」「レイジーサンデーモーニング」「バブルバス」「コーヒーブレイク」あたりだったと思う。「セーリングデイ」もあったかな。
初めはレビューで人気だった「ジャズクラブ」「レイジーサンデーモーニング」を試したのだが、どうもしっくりこない。というか、ジャズクラブに関していうと完全に自分の管轄外の香りで、これをつけこなすにはまず2、3度転生したのちものすごい労力を積まないと似合う容姿は手に入らないな……とムエットを嗅ぎながら唸ってしまった。苦味、渋みがきつい。ダンディーなメンズという感じだ。どういう客層がこれを買っていくんだろう(あんまり時間がなくて観察出来なかったのが残念だ)

そして、やはりレビューは参考程度だな〜と適当にふらふら見ていた時に、目についたのがウィスパーインザライブラリーだった。
これはネーミングの勝利だ。香水×図書館というのは個人的にたいそう気になる。
つけてみると、濃厚な甘さというか、ページが湿度を孕んでミルフィーユ状になった古書を手に取ったような重厚な香り。(これが“ワックスがけされた木の床の香り“だったのかもしれない)
書き忘れていたが、店舗に訪れたのは梅雨明け頃、爽やかな夏の日差しが照りつける午後である。
暑い。結構暑いぞこれ。
この来店時期が秋から冬場であったらドンピシャだったのかもしれないが、季節的にこれをつけて外に出ようとは思いづらい香りではあった。冷房キンキンの室内だったらいいかもな、と思いながらしばらくムエットを嗅いで香りの経過をみるが、いいか悪いかはともかく重さとしてはずっと重い。
あとで知ったことだが、香水のジャンルとしてこういった重めの香りというのは結構あるらしい。今までボトルの美しさからレディース向けばかり買っていた身としては、そもそもこんな香水があるのか!というくらいの異質な香りではあったのだ。でも、ずっと嗅いでいるとなんだか落ち着くなぁ。
そうなのだ、フィロシコスの時の経験から、香水には「一発で気にいる香り」と「何度も付けてみてじわじわその魅力に囚われる香り」というものがあることを先ごろ学んだばかりだ。店舗で65点でも、家に帰ったら/季節が変わったら90点台を叩き出してくれるかもしれない……。
そんなことを考えながら抹茶やらセイリングデイやらを試すも、なんだかやっぱりしっくりこない。あまり頻繁に来れる場所ではないし、大きなボトルがお高いというのはなんとなくわかっていたので割とがっつり試香してオルフェオン並みのものがあれば複数本お持ち帰りも厭わんぞ、と勇み足で乗り込んだが、どうもレプリカシリーズは「これだ!」というものが見当たらなかった。もちろん全てを試せたわけではないので、今後も行ける機会があったらちゃんと時間をとって行こうと思ってはいる。

そこで、混んできたしそろそろお暇するかと最後に手を伸ばしたコーヒーブレイク。これがちょっとした当たりだった。
コーヒーブレイクは、正直ウィスパーインザライブラリーと似た甘くて重めのしっとりした香りだ。だがちょっと遊びが入っているというか、ライブラリーが真面目に「図書館と古書を再現するぞ!」と意気込んで作られた香りなら、コーヒーブレイクは「コンセプト通りコーヒーの香りも入れるけど、それだけじゃつまんないからいい感じにアレンジしてみよーっと」みたいな、遊び心みたいなものが感じられる気がした。多分コーヒーショップに入り浸るお客さんとかは逆にあんまりコーヒー豆感、喫茶店感がないな? とか思うんじゃなかろうか。少なくとも自分はそうだった。
でもいやな香りではない。とっかかりとして“ストックホルムのコーヒー休憩“のラベルを付けられているだけで、これは結構その後のストーリーを意識して作られた香りだと感じた。いや、調香師さんはそんなこと一切考えてないかもしれないけど。勝手な解釈をするだけならタダだし、誰の迷惑にもならない。

結局フルボトルは購入せず、トラベルサイズのライブラリーとコーヒーブレイクをお持ち帰りするに至った。余談だが、マルジェラのトラベルサイズは割と良く見る薄めの円柱ボトルで、集めて試験管立てに差したくなる可愛い見た目をしている。あれから何度もディプティックのトラベルサイズ(こちらはガラスがけっこう分厚い)と一緒に持ち歩いたりしているが、危惧していたバッグ内破損も今のところない。フルボトルより場所を取らないし、気軽につけられてちょうどよかった。

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