バルブレア【モルト・レビュー&データ】
バルブレアの味わいはまさに正統派ハイランドモルトといったところ。線が太く、ビターとシトラスが混じりナッティ、スパイシーもある。勿論ノンピートだ。顕著な特徴には欠けるが手堅く、華やかでは無いが味わい深い。無骨なイメージすらある。残念ながら日本では著名なブランドとは言い難い状況ではあるが、しかし私は、とても好きだ。
〈テイスティングレビュー〉
キーワード:
太い味わい・穀物感・ビター・フルーティ・ナッティ
~バルブレア12年(2020年現行品)~
ウッディなビター、シトラス、ハチミツ、香ばしい穀物感を主体に、一部オリエンタルスパイスのニュアンスも感じる。ビターがやや主張的で、他の良い部分を食ってしまった印象。全体的に結構フラットで若々しく、少々物足りなさを感じてしまう。結果、エントリーグレードとしてはちょっと割高。
(詳細レビューはこちら)
~バルブレア 1997 シングルカスク For信濃屋~
オレンジを主体にペアやリンゴ、全体的にスイートでクリーミーな味わいで、香ばしい穀物やビター、オイリー、程よいウッディやスパイスがアクセントとして効いている。勿論、ボディは太くて豊か。中熟のバルブレアに求めるニュアンスを概ね網羅してくれている印象。値段は少々張るが、良い。
〈バルブレア推しから一言〉
~ウイスキーセミナー講師・本ブログ筆者:みち~
「グレンリベット」や「ボウモア」と言われてピンとくる人はいても、「バルブレア」と言われてどんなウイスキーか即座に思い浮かべられる人は決して多くないだろう。実際、モルトバーでもバルブレアを常備している店は決して多くない。それくらいマイナーで、ある意味レアキャラなウイスキーがバルブレアだ。
バルブレアの味わいには特徴的なピートスモークも、目の覚めるような華やかさも、スイスイ飲めるようなライトさもない。そういった意味でも圧倒的に地味なモルトである。だが、地味でありながら味わいや酒質に関しては極めて堅実で一本気な印象が強い。すなわち、太く、香ばしく、時にフルーティで、ビターで、ナッティがあって、アクセントにスパイシーな刺激。こういったニュアンスを、ほぼどんなレンジや樽でも持ち合わせてくれているのである。また、樽の種類によって味わいの軸が大きくブレるということがあまりない印象で、その安定感には好感が持てる。
個人的にバルブレアの最大の推しポイントはこの安定感だ。いつどれを飲んでも概ね期待に応えてくれる味わいは、自分にとっての「ホームウイスキー」として安心感があり、肩肘張らず気楽に飲むにはちょうどいい。
あと(余談ではあるが)、オフィシャルボトルの形状・デザイン、これがまた良い。特にリニューアル前のヴィンテージリリース時のデザインは新旧ともにとても気に入っている(特にヴィンテージ1stリリース時のデザインは簡素ながら至高)。
他の多くのスコッチウイスキーブランドが非常に(ウイスキーのボトルとして)正統派なデザインなのに対して、バルブレアは、楕円で、背の低くて、口が大きくて、ラベルの小さい、一見してウイスキーのボトルとは思えないぐらい特徴的で奇抜なボトルデザインをしている(味わいの地味さとは対照的だ)。ときに薬瓶とも形容される形。そのシルエットはどことなくレトロな雰囲気も感じさせてくれる。
このボトルからグラスに注ぎ入れると、なんとな~く「ちょっと古風な良い酒」を飲んでいる気持ちにさせてくれるのだ。そういった意味でも自分の琴線に触れる、「趣味に合う酒」なんだなぁと思う。
~バルブレア好きのイチ押し「バルブレア」~
・ バルブレア 1979(オフィシャル・旧)
・ バルブレア 1997 シングルカスク For信濃屋(オフィシャル・PB)
どちらも美味い。そしてどちらもレアキャラだ(BARにあまり置いてないし、店に売っていない)。
1979はオフィシャル中~長熟の佳作。浮足立たない、安定感のある美味さ。28年熟成ながらボディは枯れず、しっかり太く、豊かなイメージだ。
1997 for信濃屋はオフィシャルプライベートボトリングの1本。なぜか近年のPBには97ヴィンテージが多い。多くてどれも良い。そして美味い。
〈蒸溜所情報〉
ブランド名:バルブレア(BALBLAIR)
蒸溜所名:バルブレア(BALBLAIR)
国:スコットランド
エリア:ハイランド(北ハイランド)
創業年:1790(現在稼働中)
現オーナー:タイ・ビバレッジ(インバーハウス)
国内輸入代理店:三洋物産
年生産量:180万リットル
水源(仕込み水):オルトトレッグ川
モルト供給:複数箇所(クリスプ、ベアーズ等)
モルト種類:ノンピート麦芽を使用
糖化槽:セミロイタータイプ
発酵槽:木製×6基
発酵時間:48時間
ポットスチル:初溜×1基、再留×1基
初留容量:19000リットル(張り込み量)
再留容量:11751リットル(張り込み量)
初溜スチル形状:
ストレート型(ボディが全体的に丸く、ヘッドの根元が非常に太い)
ラインアームは平行からやや下向き
再留スチル形状:
ストレート型(ボディが全体的に丸く、ヘッドの根元が非常に太い)
ラインアームは平行からやや下向き
スチル加熱方式:スチーム
冷却器:シェル&チューブ
〈オフィシャル製品情報〉
~シングルモルト~
現行品(2019年現在):
12年、15年、18年、25年 等
過去:
5年(バランタイン名義)、エレメンツ(NAS)、10年、16年、
ヴィンテージリリース各種 等
~ブレンデッド原酒提供~
インバーハウス、ハンキーバニスター、ピンウィニーロイヤル
バランタイン(※現在使用しているか明記無し) 等
〈備考〉
「バルブレア」はゲール語にて「平らな土地にある集落」の意とされる。
バルブレア蒸溜所はハイランドエリアの北部、ドーノッホ湾に近いエダートン村に位置している。近隣に他の蒸溜所は少なく、10キロ圏内にはグレンモーレンジとドーノッホの2件があるのみである。
記録上の創業年は1790年。ハイランドで現在も稼働中の蒸溜所では、グレンタレットの1775年に次いで2番目に古い蒸溜所である。ただし、現在の場所に蒸溜所が建てられたのは1894年とされており、それ以前は少し離れた別の場所で稼働していたようだ。
バルブレアは過去、1911年に一度閉鎖されている。熟成庫に残されていた閉鎖前の原酒は、1932年までに全て売却されてしまった。その後、第二次大戦を経て1949年に稼働を再開。以降、ハイラムウォーカー等いくつかの企業の手に渡りながら稼働を続け、現在はインバーハウス(タイ・ビバレッジ傘下)の所有となっている。
バランタインのキーモルトとして有名だった。かつては他の6蒸溜所(※1)と合わせて「バランタイン魔法の7柱」と言われていた。これはハイラムウォーカー~アライド・ドメック時代のことと思われ、所有がインバーハウスに移行してからは、バランタインの原酒として使用されているか否か明言されていない。
所有がインバーハウスに移る前まではシングルモルトとしては殆どリリースが無かった模様。インバーハウスが運営するようになって以降は、ブレンデッド原酒も供給する傍らシングルモルトも積極的にリリースされた。当初はNASと年数表記2種を主軸にリリースされていたが、2007年よりシングルヴィンテージのラインナップに変更。ボトルも一般的なトール瓶タイプから薬瓶のような背の低い、幅のあるタイプへ変わった。2019年からは再度年数表記タイプへとラインナップが変更された。
ボトラーズのリリースも間々見られる。また、各方面へのプライベートボトリングのオフィシャルリリースも近年は比較的多い印象。
2012年の映画「天使の分け前(原題:The Angels' Share)」にて、熟成庫をロケ地として使用。一躍有名となる。現在ビジターセンターも完備されており、観光客の受け入れも積極的に行われている。
(※1 グレンバーギー、ミルトンダフ、グレンカダム、プルトニー、スキャパ、アードベッグ)
〈歴史概略〉
1790年 (創業)The Ross Family(ジョン・ロスの一族)所有。
1894年 アレクサンダー・コーワン所有、現在の場所に蒸留所を移転。
1911年 閉鎖。
1932年 当時ウェアハウス内に残っていた最後の原酒が売り払われる。
1939年 第2次世界大戦中、補給庫として使用される。
1948年 ロバート・カミング(プルトニー所有者)所有。
1949年 操業再開。
1964年 ウェアハウスとスチームボイラー設備を増設。
1970年 ハイラムウォーカー&サンズ所有。
1988年 アライド・ライオンズ傘下、アライド・ディスティラーズ所有。
1994年 アライド・ドメック所有。
1996年 インバーハウス所有。
2001年 パシフィックスピリッツ傘下、インバーハウス所有。
2006年 タイビバレッジ傘下、インバーハウス所有。
2007年 Balblairヴィンテージ表記(1stリリース、1997・89・79)発売
2019年 ヴィンテージ表記OB販売終了。年数表記品へ変更。
参考資料
・SCOTCHWHISKY.com(海外サイト:https://scotchwhisky.com/)
・whiskybase.com(海外サイト:https://whiskybase.com/)
・シングルモルトウイスキー大全(国内書籍:土屋守・著、小学館・刊)
・Whisky Galore(国内雑誌:ウイスキー文化研究所・刊)
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