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俳優・駒木根葵汰×『わたしにも、スターが殺せる』原作者・藤井清美対談いま改めて考える「SNSを使うことの難しさ」

新型コロナウイルスの拡大によって、エンタメ業界は様々な影響を受けた。とりわけ、演劇や音楽などステージでのパフォーマンスを主とするライブエンタメのダメージは深刻で、関係者の体調不良などによって公演が中止や延期になるケースは後を絶たない。
 
そうした現実を題材に、コロナ禍の大衆の心理を生々しく炙り出したサスペンス『わたしにも、スターが殺せる』が現在書店をはじめ発売中だ。自身も舞台に出演する機会が多い俳優・駒木根葵汰と、原作者である脚本家・演出家の藤井清美さんによる対談をお届けする。話題は、この小説でもキーになっている「SNSをとりまく話題」に終始した。

■「スターになること」は恐ろしい?

――駒木根さん、結構早い段階から『わたしにも、スターが殺せる』は読了していたみたいですね。
 
駒木根「そうなんです。最初はタイトルを見た時は『こわっ!』と思っていたんですけどね(笑)。でも、舞台とか自分に近い業界のことが書かれていたし、とにかく展開がスリリングで、普段小説を読まない自分でも没頭しちゃいました」
 
藤井「ありがとうございます」
 
お二人の出会いはいつ頃なんですか?
 
駒木根「藤井さんが講師をつとめる演技のレッスンがあり、そこに参加したのが最初です。僕が高校を卒業して、東京に出てきたばかりのときで、まだ右も左もわからない状態で受けたレッスンでした」
 
藤井「そうそう。俳優の卵の前、卵になりたい!っていうときにお会いしましたね。印象深かったのが、ある日『芝居をするのは楽しいと今日思いました』と葵汰さんが言った日があって、わたしはすごく貴重な日に立ち会えたなぁと……すごいこっちを見てくるね(笑)」
 
駒木根「いや、なにを仰っていただけるんだろうって思って(笑)」
 
藤井「何も知らない環境に置かれた時、虚勢を張ったり、自信なさげにしたり、いろんなタイプがいるんだけど、葵汰さんはどちらでもなく、とにかく素直。あと周りを明るくする『陽』のエネルギーがあるなと思っていました。でも、俳優としての活動がこれからっていうときにコロナだったよね」
 
駒木根「そうですね。ちょうどいろいろ動きだしてきたところで世の中がコロナ一色になって、半年ぐらい仕事がストップしてしまったんです。すごく苦しかったですね。そんな中オーディションで『機界戦隊ゼンカイジャー』の主演が決まったのは嬉しかった!……なので、当時のエンタメ業界に起こっていた渦の中にいた自分としては、『わたしにも、スターが殺せる』のお話、『わかる!』っていうことばかりでした。SNSで誹謗中傷を受けて苦しんでる方も見ていたので」
 
――俳優の方はもちろんですが、自分のようなライターでもリアリティがある設定だと思いました。1文字いくらで生活する主人公の描写があって……。
 
藤井「そうですよね。小説に登場するようなライターさんは、テレビ番組を見ながらその場で記事を書いていったり……大変な世界ですよね」
 
駒木根「そうですね。この間ホリプロアクターズライブの運動会があったんですが随時レポート記事があがって行ったんです。運動会って熱くなるじゃないですか?言葉が荒くならないように!発言には気を付けないと!ってずっと思ってました(笑)。あと、昔自分はこういうふうに接してたけど、相手はそうじゃなく思ってたのかもしれないっていうのありません?この間、地元の小学校の同級生からDMが来たんですが、あまりに久しぶりだったので『あの時、何かあったっけな』って一瞬考えちゃいました。」
 
藤井「『思い出』って見る方向によって違いますからね」
 
駒木根「だから『スターになりたい』って思いはありますけど、なったらなったで怖いかもって感じます(笑)」

■コロナ中の撮影現場で感じた“普通じゃない雰囲気”


――『わたしにも、スターが殺せる』は設定が現代とリンクしていますが、いつごろアイデアが浮かんだんでしょうか。

 
藤井「まさにコロナ中に書き始めたんですけど、その時はみんなが『もうそろそろ感染拡大も終わるな』って一度ふっと気が抜けた時期なんですよ。でもその後、『あれ、これはなかなか終わらないぞ』となり、演劇にも多大な影響が出てしまい、これは小説の中でコロナを描かないわけにはいかないぞ、と。感染したことで俳優さんが叩かれた時期もありましたし、発言内容で批判を浴びた時期もあった。その光景を見ていたので、ちゃんと取り上げていこうと」
 
駒木根「本当にそのあたりがリアルに書かれてますよね。今、こうやってマスクもしない状態で普通に話したり、作品を撮ったりできるようになったじゃないですか。『ゼンカイジャー』のときは撮影以外はずっとマスクで、1日3回は検温して、PCR検査もこまめに受けていました。もし主人公の自分が感染してしまったら、その作品自体がストップしてしまうという危機感もあって、僕含めスタッフさんたちもすごい緊張感でピリ付いてたんですよ。“普通じゃない感じ”はずっとありましたね」
 
藤井「実は、わたし自身はコロナ禍になるまで、SNSは積極的にやりたくないぐらいだったんですけど、コロナ渦のSNS内の雰囲気の悪さが嫌だなと思って、美味しいものとか、人が見て『平和だな』って思うことを投稿し続けてました。SNSって毎日見ていると、“波”がありますよね。いわゆる一般人の方が、誰かによってとある事故の犯人だと疑われて、トレンド入りしていたり。本当かもわからないのに恐ろしいなと思って」
 
駒木根「以前スーパー戦隊のツアーで、全国7都心を周ったときがあって、毎回全力でやって、アフタートークでも、違うことを意識的に話していたんですが、後半にもなってくると、つい同じ話をしてしまうことがあり。そこを毎公演見に来てくださるお客さんに気づかれて、SNSで指摘されたりしたら「そういうことじゃないんです!」って。反論でもしたら、それはそれで炎上しちゃうんですよね……」
 
藤井「特に何か注目度の高い作品に関わってたりすると、可能性はゼロじゃないですよね。そういう作品の場合、ツリーの一部だけがリツイートされて広まってしまって、『ちょっと遡って読んでみて……!』って思うことがあったり」

■「普段の行動から気をつけなきゃいけない」(駒木根)

――やっぱり、コロナで直接思いを伝える場が少なくなってしまったのも、SNSが良くも悪くも盛り上がってしまった理由なんですかね。
 
藤井「この前、2.5次元舞台を制作してる人たちと話したときに、コロナ前はファンレターが渡せたけど、コロナでそういう機会が無くなって、よりSNSに表現する場が移ったみたいなことを言ってましたね。葵汰くんの場合はデビューのきっかけもそうだし、SNS人口が増えているときに活躍もしていったから、今後も向きあう機会が増えていくんじゃないかな」
 
駒木根「はい。だから本当に気をつけて発信していこうと思っています。今はSNSの活用が求められることが多くなってきていますので」
 
藤井「鴻上尚史さん(劇作家・演出家)が先日、コロナ真っ只中のときって、営業しているお店に『やめろ』って直接DMする自粛警察が多かったけど、いまあの人達は何をしているんだろうってツイートなさっていて、『確かにな』って思ったんですよ。たぶん、そういう人は何食わぬ顔でお店の近所にいて、いまも普通に生活しているんじゃないかなと」
 
駒木根「それを聞くとまた怖くなってきました。普段の行動も気をつけなきゃいけないですね。毎回インタビューしてくれるライターさんも味方にしておかないと。今日インタビューもよろしくお願いします!(笑)」

<編集後記>

という感じなのですが、駒木根さん、どうでしょう……?ひとまず、藤井さんが上梓した『わたしにも、スターが殺せる』は、時代、人物設定が非常に細やかで、エンタメ業界に携わる人にはとくにリアリティがあった。実際、駒木根さんも「普段小説は撮影が入ったりするとなかなか読めないんですけど、これは1日、2日であっという間に読んじゃいました」というほど。舞台、ドラマ、映画などが好きな方はぜひ手にとって見てほしい。

<藤井清美マネージャー談>

藤井は書籍、舞台、映像、映画の仕事を常に平行してやっています。その上で料理したり大好きなスイーツを食べに行ったりと、、
身体が2つ以上あると信じてますし、脳内の引き出しをぜひみてみたいといつも思ってます笑

<駒木根葵汰マネージャー談>

演技のベースを叩き込んでくれたのが藤井さんでした。まだまだ新人の頃の時で、まさか一緒に対談できるなんて夢にも思っていませんでした。普段SNSは告知など大事なツールとなっていますが、慎重にもなりがちです。今日の対談を踏まえもう一度本人と話していきたいと思いました。


 

【プロフィール】
駒木根 葵汰(こまぎね きいた)
2000年1月30日生まれ。茨城県出身。2018年デビュー。2021年にスーパー戦隊シリーズ「機界戦隊ゼンカイジャー」で主演・五色田介人/ゼンカイザー役を務め知名度を高める。10月期BS-TBS主演「天狗の台所」(木曜23時~)、BSテレ東「たそがれ優作」(土曜21時~)に出演。。
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藤井 清美(ふじい きよみ)
1971年徳島県で育つ。筑波大学卒業。脚本家・演出家・小説家。主な脚本作品に映画『るろうに剣心』『鳩の撃退法』、ドラマ『ウツボカズラの夢』『准教授・高槻彰良の推察』など。小説作品に『#ある朝殺人犯になっていた』『京大はんと甘いもん』など
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幻冬舎:『わたしにも、スターが殺せる』藤井清美 | 幻冬舎 (gentosha.co.jp) 

取材・文/東田俊介
写真/武石早代


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