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涙の意味

大した話ではありませんが、自分のこと。

介護

どうしようもない流れで、祖母の介護をしている。
同居家族の中で最も若いので、必然的に身体を使う場面は多い。

祖母の衰えを悲しむ一方で
口数が減ってきて悪態をつかなくなり素直になったことで
付き合うのは楽になってきていた。

昔(といってもほんの数週間前とか…)はよく喋り
ふんわりとした嫌味を毎日のように聞かされたものだ。

この数日、私の介護にも文句を言わず、身を任せていた。

今朝のこと。
私が車椅子を少し後ろに引いたら、
なぜか彼女の手が、前の物体に掴まって体重をかけていたため
危うく転倒…ということもないが、
本人は不意のことでいたく驚いたようだった。

しまった、とは思ったが、
あとは単純にいつも通り、車椅子からベッドに移すだけの段階。
さて仕事だと思った矢先、

「あんたは怖くてヤダ」

と言われた。

私は介護を父に委ねて部屋に閉じこもり、ひとしきり泣いた。

感情

この時の感情を、涙の理由を、整理してみたくて筆を執った。
本当にそれだけの文章です。

「怒り」「悲しみ」「情けなさ」「反省と後悔」
それら、感情のブレンドコーヒー。
そんなところだろうとは思っている。

一つずつ書き出していこう。

怒り

まずはこれが来た。

は? 何いってんの?
毎日誰がおむつ替えたり車椅子移乗してると思ってんの?
自力で動けるの? だったらお好きにどうぞ!

そんなただひたすらの苛立ち、腹立ちが、激流のように訪れた。
背を向けたままの祖母の顔も、改めて見たくなどなかった。
言葉にすらならず、逃げ出したのだ。

心の奥にはもっと、名状しがたい黒い渦があり、
罵詈雑言が形にすらならず溢れ返りそうになっていた。

このままくたばっちまえ!
家族の手を借りなきゃ何もできないくせに文句言って!
何様だ!?

そういった手合の、言葉にしたら全てが終わるであろう思いが
激しく蠢き、とぐろを巻いた爬虫類のように、
私と祖母の間にできた空間を睨み据えていた。

悲しみ

この瞬間だけは悲劇のヒロインだ。

どうして私がこんな目に?
毎日頑張っているのに、そんなこと言われる気持ち、考えたことある?
なんてかわいそうな私。

とにかく怒りのあとには悲しみが来る。
怒るのも悲しむのも、目先の、自分本位の思いから来るモノ。
この2つが胸中で渦を巻き、
自室に逃げ込んだ私を突き上げ、涙が溢れ出した。

悲しみは、私の中で、薄いバイオレットのような色合いをしている。
(勝手にそう思っているだけでもちろん視認したことはない)

その優しく儚い色が
私を包み込み、深く、深く眠らせようとする。
悲しみはゆりかごだ。
いつまでも浸って、赤子のように丸まっていられる。

情けなさ

悲しみ、というワードは、自分を慰めるためのモノだ。
よしよし、大変だね、と、自分の背中を撫でる感情だ。

それに対して、ふいに情けなくなる。

馬鹿なのか私は?
自力で動けない弱者に対して何を言おうとした?
情けなくて死にたいと思っているのは本人だろう。
せめて最期までまともに生きる手助けをしてあげられなくてどうする!

善なる私が顔を覗かせ、静かに諫める。
申し訳無さに、またも涙が溢れる。
もうしばらく、それは止まらない。

反省と後悔

頭の中で自分に謝る。
すると、頭のモードが切り替わる。

失敗したね。
声かけてから車椅子を動かす、基本ができてなかったね。
本人の状態もきちんと確認しないとね。
完全に自分のミスだったのに、それを棚上げしたね。
まず謝らないとね。

冷静に状況を分析し、当たり前のことを認識し、自分を恥じた。

同時に、悔しかった。
分かっていたはずのことを疎かにした自分。
それを他責にして怒りをぶち上げていた自分。
本当に自分が嫌いになって、殴りたかった。
もちろん自傷行為には及んでおりませんけれど。

介護を頑張っている自分、という像を作り上げて、
いい気になっていたな、というところまでがワンセット。
仕事をしている分だけ、両親ほどには何もできていないというのに。

深く反省した。

最期

実はすでに入院の目処が立ち、
こうして一緒に暮らす時間も残り僅かだというのに。

今は自分のどんな感情もひとまず横に置いて
ただこの貴重な過ごさないと、
きっと、亡くなった時に、もっと後悔する。
それだけは、なぜか確信できる。

疲れた、むかつく、もういやだ。
そういうのは、全部終わったあとでいい。

今書きながら、もう少しだけ涙を絞り出して、
この感情の負の連鎖を一旦断ち切る。

あとはまた日常が続く。
数十年を共に過ごした家族との別れの時は、
過ごした時間に比して、そう遠くないところまで迫っている。

懸命に、穏やかに、生きよう。

それでは、また。


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