Le Petit Nomade / Hideyuki MIYAOKA

宮岡秀行 映画作家・ビデオグラファー http://mothermonika.com/…

Le Petit Nomade / Hideyuki MIYAOKA

宮岡秀行 映画作家・ビデオグラファー http://mothermonika.com/html/profile.html

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『男と女、モントーク岬で』

フォルカー・シュレンドルフの『男と女、モントーク岬で』(Return to Montauk/2017年/ドイツ・フランス・アイルランド合作/106分) 映画の集中で主人公の小説家マックスはDJと記者とに二度同じ解答をする DJ:以前のあなたは体制に批判的で反体制的でしたが 最近の言動は肯定的に感じられます マックス:私は「木」ではない DJ:どういう意味でしょうか? マックス:私は動物のように柔軟に移動する と まるでアリストテレスの『政治学』の一節の如く応えるマ

    • 『マザー!』Mother!

      劇場未公開だが ダーレン・アロノフスキーの野心作『マザー!』(Mother!/2017年/アメリカ/121分)をマーティン・スコセッシは 果たしてこの映画を説明する必要があるのか? 観て体験するだけではだめなのか? この映画はとても触覚的で とても美しく演出され 演じられている 主観のカメラとその対角を映す2台のカメラが常に動きまわり……観客を悪夢へ突き落し続けるようなサウンド・デザイン……進むにつれ徐々に不気味さを増していくストーリー と評する その2台の視点に挟まれ

      • 『ラッキー』Lucky

        アメリカは東海岸も西海岸も 人口が密集している大都市ほど孤独感が強い印象があるが 『ラッキー』(Lucky/2017年/アメリカ/88分)は 砂漠に近いアメリカ南西部の何処か きわめて人口密度の低い州の田舎町が舞台なので 寂寥感はほとんどなく 孤独ではない「一人暮らしの老いぼれ」が不器用なタッチで描かれていた アメリカのホーム・ドラマには ときに探るような目付きで他人を見たかと思うと 次の瞬間 一個の物体と化しているような表情が映る ラッキー周辺の(俳優たちは)皆 TVドラマ

        • 『ローズの秘密の頁』The Secret Scripture

          反骨の人ジム・シェリダンの『ローズの秘密の頁(ページ)』(The Secret Scripture/2016年/アイルランド/108分)は 逆に 子どもは帰ってくる 子どもは何処かに生きていると40年間信じて疑わない女性のドラマだった 老いたヒロインを演じるヴァネッサ・レッドグレイヴは まるで自分自身の時代を求めていないかのような 現在ではなく 遠過去と未来とを生きている 若き時代のヒロインを演じるルーニ・マーラが愛する男性を引き留める玄関での場面からの一連の演出が流石だが

        『男と女、モントーク岬で』

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        記事

          十田撓子 新詩集『あさつなぎ』今秋刊行

          東京での刊行イベントに先行して、妻である詩人・十田撓子の生まれ育った山の中の、正に源流において、新詩集のお披露目や本人による朗読など多彩なイベントが行われることになりました。書影はそれまでお待ちください。奇跡的に残っている廃校となった分校校舎を会場に、なつかしい雰囲気の中でリラックスして過ごす1日を。

          十田撓子 新詩集『あさつなぎ』今秋刊行

          『30年後の同窓会』

          『さらば冬のかもめ』を心理的に深めたら『30年後の同窓会』(Last Flag Flying/2017年/アメリカ/125分)になるのか この二作は必ずしも続編的ではない サダム・フセイン拘束の瞬間がテレビに映し出され それを見た主人公たちが「昨日は大統領だった人間が地下に隠れて恐怖に怯えるなんて」といい フセインの2人の息子の死体がテレビに映し出されると ブッシュの勝利宣言を見ながら「ブッシュにも双子の娘がいた筈だ 同じ目にあったらどう思うだろうか」と カウンターで呑みなが

          『レディ・バード』

          02年頃を舞台にしている『レディ・バード』(Lady Bird/2017年/アメリカ/94分)は 9.11とリーマンショックの間 つまり本格的な不況前の設定のようだが それでも景気が決して良くない状況下なのだろう トランプ政権誕生に一役買ったといわれるホワイト・トラッシュ(白人貧困層)を想起させるその地方都市でレディ・バードが母親に内緒で州外の大学入試を受け その合格通知をうけた弟が「何をたくらんでも失敗だぞ」という場面が予告にもあったが それは報復への警鐘にも聞こえたのは短

          The Big Sick

          同じように主役の一人が病におかされる佳作『ビック・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(The Big Sick/2017年/アメリカ/120分)で 主人公ふたりが ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・リビングデッド』を部屋で観賞する場面が短く挿入される パキスタン人でスタンダップ・コメディアンを目指す主人公が 病に臥せるヒロインの父親に 9.11をどう思うかと聞かれて 「悲報です 同朋19人が亡くなった」とギャグを真顔で言う場面に解釈され 誤解された真理と真理の間に省略され

          『ファントム・スレッド』

          D・D=ルイスが 自分の楽しみのためだけに 髭を剃る場面から始まる『ファントム・スレッド』(Phantom Thread/2017年/アメリカ/130分)は まるで一昔まえの映画のように大袈裟だ そして この映画の唯一の救いは ヒロインを演じた下手な女優(ヴィッキー・クリープス)だが このバランスを欠いたキャスティングゆえに本作は 誰一人足を踏み入れたことのない森の奥にひっそりと咲いている見事な花が 愛だけのために実を結びたいと思うような願望に充ちて行く この映画のヒロインと

          『ファントム・スレッド』

          a long time ago,in a galaxy far,far away…

          アレン・ギンズバーグが絶賛した言葉のリズムで書かれたこのインタータイトルは ジョージ・ルーカスによって記された革命的な表明だった 神話を持ち得なかった国 アメリカで 神話作用可能なものがあるとしたら唯一「スター・ウォーズ・サーガ(S.W.S)」ではないか しかもそれは広大な宇宙を舞台にしているにも関わらず 古代エジプトがモデルとなって ローマ的な筈のプロダクション・デザインがエジプト化し ハリウッドが考え出した神話的なイメージの根源に力を与えたのは1970年代 帝国軍の艦船イ

          a long time ago,in a galaxy far,far away…

          Look Back on 2018

          ・オフ・シアター リオ フクシマ2/Rio Fukushima 2 2018年/ブラジル/102分 ・商業映画 30年後の同窓会/Last Flag Flying 2017年/アメリカ/125分 モリーズ・ゲーム/Molly’s Game 2017年/アメリカ/140分 甘き人生/Fai bei sogni 2016年/イタリア/130分 アランフエスの麗しき日々/Les beaux jours d'Aranjuez 2016年/フランス・ドイツ・ポルトガル/97分 黙ってピ

          The Mercy

          監督:ジェームズ・マーシュ(『博士と彼女のセオリー』) 脚本:スコット・Z・バーンズ(『ボーン・アルティメイタム』『不都合な真実』) 撮影:エリック・ゴーティエ(『モーターサイクル・ダイアリーズ』、『イントゥ・ザ・ワイルド』、『ポーラX』) 音楽:ヨハン・ヨハンソン(『メッセージ』『博士と彼女のセオリー』) 出演:コリン・ファース、レイチェル・ワイズ、デヴィッド・シューリス、マーク・ゲイティス 2017年/イギリス/英語・スペイン語/カラー/シネマスコープ/1時間41分 日本

          『半世界』

          監督・脚本:阪本順治 出演:稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦 2019年/日本/120分 この映画の主人公、稲垣吾郎演じる炭焼職人は故郷へとはぐれる男。 故郷、それが異郷であるかのようなのは、自衛隊を辞めたもう一人の主人公を演じる長谷川博己。 故郷、それが肉体だとしたら、渋川清彦と池脇千鶴が演じる役柄が、2人の主人公の反映にも感じられ「故郷」を体現している。 半世界とは、陸と海の架け橋のようにも見える (彼岸と此岸とはあえて言わないが) 長谷川博己演じる元自衛官

          『多十郎殉愛記』

          『多十郎殉愛記』 監督:中島貞夫 出演:高良健吾、多部未華子 2019年/日本/93分 原民喜の上映イベントが秋田県雄勝郡羽後町で5月に行われることになった。 私は、原民喜の文学にそれほど感動した者ではないのだが、以前エッセイ的なドキュメンタリーをつくったことがあった。 原の文学は、土方巽いうところの<衰弱体の採集>に近いとしたら…という仮説を立ててみる。 衰弱を、パッと捕まえるのが上手い詩人…いや衰弱体から見た詩人とは、舞踏家と違って肉体を放棄するように、逆に、舞踏家は言

          Metrika 詩の生まれる場所

          詩集『銘度利加 Metrika』抄 朗読 十田撓子  撮影協力 三上豊 撮影・録音・編集 宮岡秀行 (2023) Reading: Tohko Toda from poetry collection "Metrika" extract. Photography cooperation: Yutaka Mikami Director and editing :Hideyuki Miyaoka ここで朗読される詩が生まれた場所で、実際に撮影を行った。 深い山の奥にある廃

          Metrika 詩の生まれる場所

          のこされ島

          踊り:根路銘広美「花風」 絵画:丸木位里 丸木俊「沖縄戦の図」、ケーテ・コルヴィッツ 「戦闘の後」 撮影:宮岡秀行 編集:佐藤英和 音楽:リュック・フェラーリ「ほとんど何も無い あるいは海岸の夜明け」