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『マザー!』Mother!

劇場未公開だが ダーレン・アロノフスキーの野心作『マザー!』(Mother!/2017年/アメリカ/121分)をマーティン・スコセッシは

果たしてこの映画を説明する必要があるのか? 観て体験するだけではだめなのか?
この映画はとても触覚的で とても美しく演出され 演じられている
主観のカメラとその対角を映す2台のカメラが常に動きまわり……観客を悪夢へ突き落し続けるようなサウンド・デザイン……進むにつれ徐々に不気味さを増していくストーリー

と評する


その2台の視点に挟まれ続けるジェニファー・ローレンスは まるでロッセリーニの映画に出演したイングリッド・バーグマンの如く逃げ場のない空間に追い込まれ続ける
詩人の妻であり 文字通り幼児を宿すマザーたるローレンスの住む不思議な形の家は まるで墓や塚の上に設けたと言われても不思議ではない
『シャイニング』のホテルではないが そこは地霊や地に還った祖先の魂をよびだし 身につけると錯覚するための舞台装置なのだ

死者の声を呼び覚ますとは 自らが出生してきた大地の胎内の叫び声であり 燃え尽きて灰と化した塵がマザーの囁きだとしたら 本作は緩慢な自殺を描いた稀な映画だとも言える
暴徒化した民衆がアメリカナイズされたキリストを旗印に荒れ狂う後半 真実を言ったのは詩人ではなく その妻だった
そして妻は自爆し 暴徒は演説に酔い 指示に従う
詩人の妻は舌が切られ 子どもを生け贄にされ 黙らせられるが 夫である詩人が暴徒を止揚するのではない
増殖するカルトの没理性に貢献さえしているように見えるハビエル・バルデム演じる詩人とは 何なのだろうか
実は詩人は それを沈黙と共に静観して すべてを記しているように 私には見えるのだったー 彼が心臓からとり出し大事にしていた、赤い宝石


赤い花の中心から蕊が出て
花粉にまみれて
濡れてさえいて
そんな一番やさしいものが
太古の野原に咲き出していた

中本道代「接吻」

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