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薔薇の牧場に舞う者は 005

@アデレード・オーストラリア

 「どう?気に入ってもらえたかしら?」
 入って来るなり彼女は言った。 
 「ああ、ピッタリのChoiceだったよ。
  それはそうと・・・。」
 窓に向き直りながら続ける。南の方角が気に 
 なる。
 「わざわざここまで出向いて来る必要があっ     
 たのか?
  研究拠点命名の情報について関連データの
 送信を行った。それは確かだが、それが君を
 してここまで来させるとは!意外だ。何か気 
 になることでも?」
 「充分よ。データを拝見するだけならね。」
 彼女も窓際に歩み同じ方角を見る。
 やはり南方が気になるのだ。
 「でも物足りない。」
 「そりゃあ、トピック3個だけだからな。」
 「データ量の話じゃなくて・・・。」
 「じゃあ何だ?何が知りたい?」
 「真実よ!FactじゃなくてTruth!
  貴方さっき言ったわよね?『ピッタリの
 Choiceだった』って。
  Factなんてわかってる。つまりは社史の
 類。
  今の貴方の想いも。今までの関係上ね。
 そうじゃなきゃピッタリのChoiceなんて
 できっこない。
  例えば、」
 と彼女は顎をしゃくった。モニターに送信
 済みのデータが視覚化されている。

①(1995/03/30)@南千住・東京都荒川区・日本
②(2018/09/03)@名古屋・日本
③(2020/01/03)@名古屋・日本 新春#001

 「取り敢えず時系列順に並べればこうね。
①:これは日本の「警察庁長官・銃撃事件」の
 話。その10日前には、カルト教団による東
 京都・地下鉄サリン事件が起きている。化学
 兵器を使った史上初の都市への無差別テロの
 事件として有名。
 「当初から刑事部ではなく、公安主導で捜査
 が進められ、カルト教団信者であったK巡査
 長を最重要容疑者として取り調べたものの迷
 宮入り。その後、実行犯を名乗る老スナイパ
 ーの存在が明らかになる。拳銃・銃弾の特定
 はできたものの、老スナイパーのアジト・貸
 金庫からは物証発見出来ず。
  スナイパー曰く、『1995/04/13  伊豆
 大島に向かう東海汽船船上から投棄。』
 物証無く起訴に至らず。時効成立。
 「と、ここまではデータの範疇。調べれば誰
 だって判る話。
  ただし終盤!狙撃犯と思しき人物が敷地へ
 の出入口を出たところで袋を落として逃走!
 ホームレスがそれを拾って立ち去る、という
 下りは初の情報!
  ①の価値はこの部分。これこそが  
 Truth!結局、スナイパーの証言『船から海
 に投棄』というのは大嘘だったわけね。当然
 よ!!思想犯が自分の“勲章”をそんなに簡単
 に捨てられる訳ないもの。」
②:これもデータ。ここまではね。
  元々は日本の書道団体・社中だったRUCA
  (Research Institute for Universal   Calligraphy:国際書美学研究院)が如何なる 
 きっかけで、AIに関わることになったのかを
 教えるデータよね。でも、これも末尾の箇所 
 で世間や所内には明らかにされていない重大
 なTruthの存在を匂わせつつ終わっている。
③:これはデータじゃない。これこそが研究所
 RUCAにとって重大な意味を持つ事件なんで
 しょうけどその内容は不明。少なくとも今の
 私にはわからないわ。」
 「よく出来ました!」
 と手を叩く。
 「君の言う通り!わかっているじゃない
 か!!今は意味が判らないTruthの部分も
 此の後のデータ展開を知れば見えてくる。
 例えば、①の終盤/②/③の意味。これからの
 送信内容を繋いで関連付けていけば解る筈。
 無関係な事柄などないのだから。
  君なら解る!絶対解る!!だから急がず
 気長に待っていてくれ給え。」
  その瞬間、アラート音が鳴った!
  SPACE OFF (スパーソフ)からだ!急いで   
 チェックする。
  「南極情報ね?」
 どうやら大したことではなさそうだ。
  「良かった。」
  「『気長に待て』って言ったけど待ちたく 
 ないわね。風雲急を告げつつある。アラート 
 が今後は頻発。お互いどうなるか判らない。
 こうやって会うこともデータのやり取り自体
 もいつ不可能になるか知れないじゃないの。
 そうなる前に知っておきたい。
 「私の言うTruthの意味はわかってる?何も
 秘密の暴露情報のことじゃないのよ。Factが
 あったとして、それに関わった人達の意思・
 想い、そういうことに興味があるの。」
 「おいおい!君の言うFactとは過去のこと
 だ。リアルタイムで俺がその場にいたわけ
 じゃない。当事者の胸の内・腹の虫の居所
 なんて誰にも解るわけないじゃないか!!」
 「でも貴方はこのFamilyに属している存在 
 じゃないの。Factに関わった人達の内面・
 想い・志、それらが親から子へ、子から孫へ
 と伝承されるってことがあるのじゃなくて? 
 他のFamilyには知られる筈もない、一種の
 伝説のような形で。それを教えてもらえれば
 いいのよ。それでOK。それで充分。」
 「わかった。だとすると、かなりの情報量に
 なる。なるべく早めに送信しないと。」
 「気になっていることがあるんだけど。」
 「何だ?」
 「いろんな支流が集まって大河になった、と
 いうことだけど、今までのトピックって全て 
 日本国内の話。ここはアデレード。世界の南
 の果て、と元来言われてきた土地よね。ここ
 に至るまで様々な国で様々な伝説が生まれた 
 筈。次は日本以外の話から始めて頂戴。」
 「了解。それじゃあ始めるぞ。
 20世紀後半、舞台はユーラシアだ。」

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