プロローグ@アデレード/南オーストラリア 各地から研究拠点命名の知らせが入ってくる。 USA:・・・US 中国:・・・China 日本:・・・Nihon ーーーーーーーーー そして ●●●:・・・ 思わず眼を閉じる。今は亡き曽祖父の声が蘇る。語っているのはファミリーの来し方。ファミリーの喜び悲しみ。ファミリーのこれから行くべき道筋だ。 ファミリーが母国を離れ異国に移住したあの時から・・・。 (2020/01/03)新春 #01 「所長にお目にかかることはできますか
『忍 魂』【2】 所長は早速点をひとつ打った。 「世間一般ではこれを、“素点”と言っていますが、『側』ともいいます。 この点を連続横に連ねて行けば横画になり、この点から縦に連ねれば縦画になる。 一方、この点から斜め↗↙にはねたものが、“はね”になる、と説明していますが、RUCAでは違う用語でお話しします。 この素点で示されるところは何か?それは『止揚』です。」 「『止揚』? 今日、その言葉を使われたのは2回目ですね。アウフハーベンのことですか?」 「その通り。 この点
『忍 魂』【1】(22:00) 「夜分に恐れ入ります」 それは突然の挨拶から始まった。 開けっ放しのドアからヒョイと顔をのぞかせにこやかに笑っている。 「いいえ、慣れております」 所長も立ち上がる。 中に入りドアを閉めようとする訪問者。 「いえいえ!ドアは閉めずにそのままで!」 「いつもそうなのですか?」 「そうです」 「何か理由でも?」 「用心のためです」 「どんな用心なのですか?」 とは尋ねてこない。所長もそれ以上触れない。 「どうぞこちらへ」 と、レッスン用の机
(2020/01/10)@名古屋/日本 新春#05 「頼みがある。」 「と、いうと?」 「これを」と、言って折り畳んだメモ用紙を取り出した。 片手で受け取る。畳んだ紙を開いてみると文字がビッシリと書き連ねてある。 「これは・・・詩?」 「そう、詩だ。上手くはない。が、中には発表してもいい、と思われるものもある。いいか、“発表してもいい”ものだ。上手い下手ではなく。」 「これをどうしろと?」 「作品にしてくれ。書体・型式は任せる。いつ、どこで発表するか、も含めて。 元々
現在、『薔薇の牧場で舞う者は』を月1回のペースでUP中。ライトノベルです。 この作品を読まれた方は、「何の話か訳が解らない」と思われるでしょう。 当然です。何しろ登場人物の名前すら判然としません。明らかになっている人物の名前は、“Baluchi”と“レナ”くらいですから。 実は2023年中にUPしてきたのはほんの序章・導入部でした。作品冒頭に「プロローグ」と題していますが、昨年末の009までが作品全体にとっての大きなプロローグだと言えます。 ですが、そのプロローグの
@アデレード・南オーストラリア 「どうだい?少しは満足できたかな?」 満足しているはずがない。そんなことは解り切っている。が、きいてみた。 「満足してはいないわ。」 ヤッパリ! 「してはいないけど······でも······そうね······。ほんの少し、朧げながら見えてきたものがある。」 本当に?!見せてきたのは幾つかのエピソード!それだけで見えるものがあるなんて! 「そうか。それは良かった。」と言った途端に反撃を食らった。 「何が良かった、よ。一番肝腎なものを出し
(2014/8月) @ガレー地区 長居し過ぎたか? そう思った時には既に遅かった。相棒が突然倒れ、咄嗟に地面に伏せる。 動いてはいけない。動いては・・・。動けば敵のスナイパーに感づかれる。 待つことだ!ひたすら動かず待つことだ。 自分達の帰投予定時刻はわかっている。粘っていれば、何時までも戻らぬ兵員を捜索するべく部隊は動く筈。 それまでは・・・待つしかない。 夜がすっかり明けて数時間。8月の中東だ!皮膚が焼ける。喉が渇く。だからといって水筒を持ち上げゴクゴク
(2023/10/07) @スカイリヤ (05:50) ケレム・シャローム検問所 ソーシャルメディア「テレグラム」の映像 複数の影が野良猫のように境界線の柵を次々と乗り越えた。柵内で可愛がられているペット達を捕食してやろう、とするかのように。 (06:25) キブツ・レイム近郊 空を見上げた。雲のない夜明けの澄んだ空。 夜通し踊り乾杯した。火照った体に空気が心地よい。生きている喜びを感じる瞬間だ。今日はこの国の暦で新年を祝う日。しかも土曜の安息日!3,00
(1973) @カブール/アフガニスタン 男が急に倒れた。 フラフラと歩いていやがる、と思ってはいたが案の定だ。周りの男たちが一斉に集まり口々に叫んでいる。 歩みを速めた。 「オイッ!済まないが俺に様子を見させてくれ。俺はすぐそこの大学に通っている学生だ。ちゃんとした医者を知っている。」 前を塞いでいた男たちが円陣を解くように脇にどいた。 「こいつは“ヒッピー”とあっちの国でいっている奴だ。」 ここ、アフガニスタンでも多くの人間は着ていない民族衣装らしきものを見に
@アデレード・オーストラリア 「どう?気に入ってもらえたかしら?」 入って来るなり彼女は言った。 「ああ、ピッタリのChoiceだったよ。 それはそうと・・・。」 窓に向き直りながら続ける。南の方角が気に なる。 「わざわざここまで出向いて来る必要があっ たのか? 研究拠点命名の情報について関連データの 送信を行った。それは確かだが、それが君を してここまで来させるとは!意外だ。何か気 になることでも?」 「充分よ。データを拝見
(1995/03/30) @南千住・東京都荒川区・日本 雨。 朝から小雨。ついている。傘は要らない。 北へ歩く。手には黒いポリ袋。ゆっくり進む。ここに至るまで、新聞配達員と遭遇したが向こうは気にも止めなかった。 やがて川に行きあたる。隅田川だ。雨のせいで水面は靄って見える。 歩みは止めない。Uターン。南に向かう。 左手の敷地内への入口が一つ、二つ、三つ、四つ。四つ目を過ぎてから袋を探り、時計を見る。 (08:15) そのまま南へ歩きだす。ゆっくりトボトボと。
※タイトル上の写真※ 日刊工業新聞 (2018/08/28) ㈫ 第1面に掲載。 国文学研究資料館ほか所蔵。人文学オープンデータ共同利用センター加工。同センター提供。 江戸時代『雨月物語』中の『す』の字形データセットの一部。地域や書き手ごとに字体が大きく異なる。 (2018/09/03) @名古屋・日本 「お忙しいところ恐れ入ります。 挨拶とともに名刺を出してくる。 「人文学オープンデータ共同研究センター:國枝と申します。本日は是非お願いしたい件があり伺いました。お
@アデレード・南オーストラリア 街を見ていた。 窓一面に広がる光の群れ。その向こうに、セントヴィンセント湾。左手前にフルリオ半島〜カンガルー島。南極大陸へと繋がる海はその先だ。 「どう思う。」 「何のことかしら。」 「命名のことさ。」 「●●●:・・・ のことね。」 「そうだ。」 「いいんじゃないの。日本語で良い表現があったわね。 O!YEAH!SAIKO!」 「お家再興、だな。」 「そう!それ!他の拠点は・・・の後ろに地域名をつけるけど、かの場所だけは頭につけた。そ