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日光浴


 月に二度、木曜の休日を用意した。

 冬の朝には、起きたらすぐにベッドルームのカーテンを全開にする。なかなか拭く暇もなく、土埃でコーティングされた窓。そこに陽が差し込んでも、冬の日差しはほんの少し頼りなくて、様々な人の営みに負けてしまいそうだ。

 今日は曇りだった。雲たちさえ、人の味方をするのだろうか? 僕はベッドの上に陽の当たる場所を見つけて、そこに寝転がった、仰向けに。そして読みかけのアーユルヴェーダの本を開いて、因果とか振動といった、テクニカルタームを刻み込む。そして、刻んでるうちはまだまだだ、と思う。

 陽の差す角度が変わって、室内はむしろ暗くなった。正午が近付いている。窓を開けてベランダに出てみると……手前から、アスファルトの道、コンクリートの陸橋、田畑、そして小さな林。見慣れた風景。
 田畑は今は枯れて、僕の肌と同じ色をしていた。季節の移ろいを真っ先に告げてくれる小さな林は、堪えるような深緑で岩山みたいに佇んでいる。

「不易流行」ぽつりと浮かぶ。
 手前の人工物は一切の色を変えないのに、奥の自然は容易に移ろいゆく。

「人間って一体なんだったんだろうね?」

 そんな呟きが唐突に、口から体の内側に出た。その振動が指先へ足先へと響き渡るのを感じたところで、ふと目を閉じてみる。

 瞼の裏の赤みが、ようやく僕にその恩恵を理解させた。この日、精一杯に高いところへ昇った太陽だ。
 この日、この日、と繰り返す。
 あの日でも、その日でもない。



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