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上流に向かって #随想

瞼に垂れる車。揺れる車。それとも揺れているのは僕の車か、僕の体か。あの色はなんて言ったらいいだろう。ベージュかライトブラウン。どちらも車の色を形容するにはどこか頼りない。

古めかしい矩形のSUV車はボディが弱そうだ。光沢もない。それは隠すことや守ることを知らない、野性の肉体のような生々しさを思わせる。

四面に大きく開けた窓からは、運転手の横顔やら項やらが丸見えだ。清々しく水色の空を切って行く。あのツーブロックはおそらく、現代の流行に乗ったものではないだろう。1980年代からずっとあの髪型にしているに違いない。

粋な哲学が6号線を真っ直ぐ駆けていく。僕は右に逸れ、高架下を潜り合流、左手に荒川、一瞬で空が開けた。SUV車は品川区へ向かっただろうか。あの古めかしい車をもう一度目にしたい欲求に駆られながら、青い線条を上流に向かって逆走し、より大きな青へと飛び込んでいく。


2016.10.12

#執筆 #雑記 #随筆 #随想 #エッセイ

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