苦い水(詩集 虹と鉛管)
きのうからの風が
わたしの砂丘のかたわらを過ぎていく
思えば人間ほど殺人を犯したものはないと
荷揚げ場で腰を低くかがめた女が言う
風のようにわたしは去つていつた
あのひとは蜃気楼の港から時折ひびく
遠雷の音にひどく怯えて
冬の始まりを知ることもなく去つていつたわたしを
苦い珈琲を呑み干すときのように
すこし憂いのある表情で見つめていた
曇り硝子の窓には細かな雪の破片がついて
聖週間が近いことを告げるいるみなしおん
あのひとの神々しい裸身のしるえつと
ゆれている林
なつかしい黒髪の
(以下略)
全文は、詩集「虹と鉛管」(有料分)に所収
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