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#591 「大陽液送事件」大阪地裁堺支部

2023年7月5日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第591号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【大陽液送(以下、T社)事件・大阪地裁堺支部判決】(2022年7月12日)

▽ <主な争点>
請負事業主の自社従業員に対する独自の指揮命令、派遣法40条の6の適用など

1.事件の概要は?

本件は、A社の従業員であるXら6名が、T社は労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という)の適用を免れる目的で、業務委託の名目でA社との間で契約を締結し(偽装請負)、労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずにXらによる労働者派遣の役務の提供を受けていたから、労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき、Xらに対して労働契約の申込みをしたものとみなされるところ、Xらはこれを承諾する意思表示をしたとして、T社に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社、A社およびXら6名について>

★ T社は、運送を主たる業務とする会社であり、親会社からの委託を受けて、買主(納入先)に対する高圧ガスの充填・運送・納入業務を行っている。

★ A社は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする会社である。同社は2000年11月から高圧ガス製造事業の許可を得て事業を継続しており、タンクローリーを使用して高圧ガスの製造及び運送を行うなどしている。

★ Xら6名は、いずれもA社の従業員である。


<本件運送業務、本件業務委託契約等について>

▼ T社は2000年12月、A社との間で、T社の指定する高圧ガスを指定する場所で受け入れ、指定する場所まで運送し、納入先に納入を完了する業務およびこれに附帯する一切の業務(以下、併せて「本件運送業務」という)をA社に委託し、A社がこれを受託する旨の業務委託基本契約(以下「本件業務委託契約」という)を締結した。

★ Xら6名は本件運送業務に従事している。


<労働者派遣法40条の6の定め、Xらの意思表示等について>

★ 労働者派遣法40条の6第1項は、「労働者派遣の役務の提供を受ける者が、同項1号から5号までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合(ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が上記各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りではない)には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす」旨を定め、同項5号は「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」と定めている。

★ 労働者派遣法40条の6第2項は、「第1項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約申込みに係る同項に規定する行為が終了した日から1年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない」旨を定めている。

★ 労働者派遣法40条の6第3項は、「第1項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該申込みに対して第2項に規定する期間内に承諾する旨または承諾しない旨の意思表示を受けなかったときは、当該申込みはその効力を失う」旨を定めている。

▼ XらはT社に対し、2020年1月29日到達の内容証明郵便をもって、本件業務委託契約が労働者派遣法40条の6第1項5号に該当するとして、同社からの直接雇用の申込みを承諾する旨の意思表示をした。


<労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する厚生労働省の告示について>

★ 厚生労働省の告示である「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「37号告示」という)2条は、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分について、以下のとおり規定している。

請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。

 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
(2)労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。

 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1)労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(2)労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための
指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1)労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2)労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。

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