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夫の発達障害【相談に訪れた病院で】

【夫の検査が始まる】

私は夫が抱えている困難について、
①聴覚障害
②視覚障害
③記憶障害
④発達障害
このような可能性があると考えていた。

①聴覚障害については、情報処理障害の症状として挙げられものがそっくりそのまま夫にはあてはまっていた。

具体的には、
・聞き直しや聞き誤りが多い
・雑音の多い環境ではなおさら聞き取りが困難になる
・口頭で言われたことを理解しづらい・忘れやすい
・早口や小さな声は聞き取りづらい
・長い話は注意して聞き続けることが難しい
・視覚情報よりも聴覚情報の方が聴取や理解が困難である

などの症状があるとされる。

夫はスロットが好きで、職場とアパート以外に行くところと言えばパチ屋か居酒屋だった。
(これも今ならその異常性がはっきり分かるけれど、仕事ではしゃきっとして見えたので、むしろ女性関係の心配がなさそうでいいと思っていた。
私の父親は2つの家庭をもっていて、それはそれは修羅場がたくさんあったから、それくらいの方が安心できた)

問題は、パチ屋がものすごい騒音環境であること。日常的にそんな場所に入り浸っていれば、聴覚に異常をきたしても仕方がないだろう。

けれど彼は、いつもちゃっかり耳栓をつけているという。それに、前の記事にも書いた通り、視覚的な問題も大いにありそうだった。
夫の発達障害【特徴(特性)はすぐに露見した】|left (note.com)

だから私は、夫に聴覚の異常はあるにしても、その先に必ず根本的な脳の機能異常があると疑った。

②視覚障害については、夫の両親がともに視覚障碍者であることから、疑いはあると感じていた。
現に夫は会話中たびたび眼球が回転し、白目になる。誰と話しているときでもそうなるが、緊張するとひどくなるように思う。

視覚神経に異常があることは明らかだった。
(現在はこれを、発達障害に併発するチックの症状の1種だと理解している)

③記憶障害については、かなり心配していた。
なぜなら、夫は自分の言ったことでも次の瞬間には忘れているし、たとえばコーヒーの飲み比べをしても、つい先ほど飲んだコーヒーの味を忘れてしまうため、「どっちが好き?」と聞いても答えられないのだった。

前述の通り①聴覚②視覚だけの異常ではとらえきれないものがあると感じていたため、絶対に脳機能の異常に行き着くだろうと思った。

④発達障害については、何となく、の知識しかなかったために、そうだろうと思いながらも、打開策があるような気がしていた。
(しかし学べば学ぶほど、どうしようもないところが大きいのだという現実を突きつけられる)

とにかく、私ははじめから発達障害1本に絞って検査をしたわけではない。
単なる脳の機能、具体的には海馬の状況が悪いだけの可能性も考えていた。

そこでまず、脳の神経外科を受診するために予約を入れた。
この時点で、私は彼との生活にかなり疲弊していた。
何せコミュニケーションがほんとうに取れなかったから。

【暮らし始めて4か月・脳神経外科のドクターに相談】

予約は2週間ほど先で取れたと記憶している。
いよいよ夫のことが何か理解できるという期待で、当日の私は少し活力を取り戻していた。
その頃はまだ夫との生活を何とかしようという意欲に満ちていたから、夫が傷つかないといいな、と純粋に思っていた。

けれど、連れ立って入った診察室で、私は逆に医師から疑われるはめになる。
夫が自分で話せるとは思っていなかったし、夫自身も自分が要件を話せると思っていなかったから、私たちは当たり前に2人で診察に入った。

並んで回転椅子に腰かけた私たちをじろりと見て、
医師は「今日は?」と言った。

それで私は、結婚してから感じてきた夫の所感を述べ、脳の検査をしにきたのだと告げる。
「聴覚情報処理障害もあると思うんです。聞き取りがかなり困難で、本人もそれは……ね?」
夫を見ると、うんうんと頷いた。

けれど医師は、それを鼻で哂った。
「いや奥さん、そんな専門的なこと言われても」
と。
「違うんじゃないですかぁ。ご主人、仕事してるんでしょ?」

そうか、そういうことか。
夫は私服をほとんどもたず、いつも仕事用の細身のスーツで過ごす。この日も例外なくその通りだった。
方や私は、結婚して仕事を辞めた直後で、リラックス感の強い出で立ちである。

社会的な信用は、夫の方にあるらしかった。
医師は私を「ちょっと神経質な奥さん」として、面倒ごとの対象と理解したようだった。

しかし体裁を取り繕うためか、「まあ念のため」という態度で、医師は簡易的なテストを実施してくれた。

夫の手元がよく見えなかったのであまり詳細は分からないが、
手のひらより少し大きいサイズの黒いケースの中に、・スプーン
・歯ブラシ
・定規
・ボールペン
など7、8種類の物が収められていて、夫はドクターの指示に従ってそれをじっと、15秒程度凝視した。

そしてケースの蓋を閉めて、今度はどこに何があったかを答えていくというものだった。

夫は、
「ええ……スプーン、それからええと、歯ブラシ、それから……」と3つ目で言い淀んだ。

私は内心、ほら、やっぱり、と思う。
医師はこの瞬間、明らかに「おや?」と動揺し、態度が変わった。

「あれ、難しいです?」
夫に向かって椅子の上で体制を整える。

結局夫は、脳のCTスキャンを撮ることになった。
それでも医師の態度からはまだ、それほどのことはないだろうと思っていることが察せられた。

私たちは、1か月先に結果を聞くための予約を入れて、診察室を後にした。


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