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夫の発達障害【特徴(特性)はすぐに露見した】

【はじめに】
育った家庭環境が劣悪だったために、私は結婚に対してあまり希望をもっていなかった。だから、とくに理想を抱いていたわけではない。
けれど夫との暮らしは、はじめからびっくりの連続だった。
正直に言えば、付き合っていた頃からたびたび違和感はあった。一方で職場が同じだったこともあり、まさかこれほどまでにコミュニケーションが取れない人間だとは思っていなかった。

昔から独特な人に惹かれるところがある。それは、世間の意見に流されない=自分の頭でよく考えているということだと思っていたからだ。
だから多少の癖は、むしろ「この人、おもしろい。どんなことを考えているんだろう」と好意的に受け止めてさえいた。

まさか思考が停止している人間がいるだなんて、全然知らなかったのだ。
だって、仕事はこなしているみたいだったのに。だって、自分では恋愛経験も豊富だと言っていたのに。

今現在の私の気持ちは、夫を諦めているところが8割。障害を理解しているところが1割。障害を受け入れられない気持ちも1割。
2歳のかわいいかわいい娘とともに、まだ彼との暮らしを続けている。

【夫との暮らしがスタート】
2019年の年明け、私たちは入籍した。一緒に暮らし始めたのは、翌2月のことだった。
しかし暮らし始めてすぐに、おかしいと思うところがめちゃくちゃ出てきた。

たとえば、(可燃)ごみ袋がなくなったから買ってくるよ、と言って出て行った夫は、全然色の違う不燃ごみ用の袋を手に戻ってきた。
多くの人は見間違えようがないほど、似ても似つかない色なのに。

「これ、気が付かない?」
私はおそるおそる、彼が買ってきたごみ袋を指さした。
「え?何が?」

ふつうは、相手がここまで怪訝そうにしていれば、「何か間違えたかな?」と一旦考えると思う。
でも、彼はそういう思考はもちあわせていない。
「ごみ袋を買ってきた」という事実のみでもう彼の中では完結しているから。
指摘されても、「自分が間違った」とは認識しない。
だから何? 俺は買ってきただろ。
今現在はこの当時よりもさらに、「褒めてくれ」「感謝してくれ」が大きい。

それから、私の留守中に何かをこぼしたらしいテーブルクロスを指さして、「これどうしたの?」と聞いたとき、彼はそのしみに5センチほどのところまで顔を違づけて、「どれ?」と言った。
それでもまだ見えていなかった。

また、私が職場でもらった花をドライフラワーにして空の瓶に挿していたことがある。すると、彼はそこになみなみと水を入れた。
干からびて真っ黒になっているバラに、なみなみと。

そのときの私はただ、ああ、この人は生きているのか死んでいるのかすら分からないのだ、と彼が恐ろしかった。
2人で暮らし始めてからほんのわずかな期間で、私は彼への不信感を募らせていた。

私たちは、会話もほとんど成り立たなかった。
「昨日のさ」
「ん?」
「あのお店の」
「ん?」
「……」
こんな風に、一言一言を逐一聞き直される。すべての会話において。
音楽なんて流していない。二人しかいない狭いアパートのキッチンで。

こんなことが毎日毎日繰り返されて、1週間と経たないうちにこれはもう絶対に何かあると確信した。
以前教育機関に勤めていたこともあって、そういう障害については軽い知識があった。
たとえば、「あれ取って」と指を差しても伝わらず、「机の上にある黒いハサミを1つ取って」と具体的に指示をする必要がある子どもたち。

それである晩、私は夫に伝えるためのプレゼン資料を作成し、夫を傷つけないようにと配慮しながら、小さなテーブルを挟んで切り出した。

「これ見て。私はあなたもこういう傾向が強いと思う。検査してみてほしいんだけど、どうかな」

夫はとくに、聴覚情報処理障害のところが自分にあてはまっていると感じたらしく、
「いいよ、おもしろそう」
と言った。

気分を害してはいないようなのでひとまずほっとしたが、「おもしろそう」という返事にはもやもやするものがあった。
今なら分かる。彼にとって障害は、どこまでも他人事なのだ。

だがそのときはまだ、夫がそこまで重度だとは思っていなかったし、どうにかして分かり合うツールがあるはずだと信じていた。
だって、結婚前はこれほどではなかったはずだ。仕事だって人並みに、むしろそれ以上にできているところもあるはずだ。

だから医療機関に繋がれることは、希望だと思っていた。

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