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環境問題と生物多様性I(インタビュー記事)

2019.6.3    Lemi

みなさん、こんにちは。

今回のテーマは、私がずっと書きたかった、皆さんに伝えたかった、【環境問題と生物多様性】です。「環境問題」「生物多様性」という言葉だけで、「読むのが面倒そう」「難しそう」「つまらなそう」なんて思わず、是非、最後まで読んで頂きたいです。何故なら、これらの内容は、今地球に生きる全人類に関係していることだからです。

インタビューゲスト

インタビューをお引き受け下さったのは、世界最大規模の自然環境保護団体である国際的NGO、WWFジャパン(世界自然保護基金)の自然保護室・国内グループに所属されている、草刈秀紀さんです。今回のインタビューでは、WWFジャパン事務局にお邪魔させていただきました。


【草刈秀紀さんのプロフィール】

●草刈秀紀 市民がつくる政策調査会前理事、WWFジャパン事務局長付
  1981年、日本大学農獣医学部拓殖学科卒。(財)日本自然保護協会の嘱託職員等を経て、1986年、WWFジャパン入局。現在、WWFジャパン事務局長付、市民がつくる政策調査会前理事。WWFジャパン自然保護室次長を務め、助成事業や生物多様性国家戦略、鳥獣保護法問題、種の保存法問題、外来生物法制度問題、野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク世話人、G8サミットNGOフォーラム環境ユニット生物多様性イシューリーダー、生物多様性条約市民 ネットワーク(CBD市民ネット)の運営委員、「生物多様性保全関連法」作業部会長などを担当した。自然保護を巡る論考等多数。

なぜ今、環境問題・生物多様性なのか

日本に住むみなさんは、少なからず、気候変動の影響を感じていると思います。例えば、真夏の40度を超える暑さ。今年2019年では、5月の下旬なのにもかかわらず34度という異常な暑さでした。また、入学式の時期に見れるはずだった桜は、なぜ入学式の前に散ってしまうのでしょうか。果物の生産地の変化。これらの出来事は、異常な地球環境のバロメーターとして測ることができます。私たちの身近なところでも、こうした「異常」事態が起きています。現在、私たちが思う何十倍、何百倍もの速さで、気候変動問題、そして環境問題が加速しています。それによって自然界のバランスが崩れ、生態系サービスのクオリティが低下し、私たちの生活に大きな影響を及ぼしています。私がこのテーマを選んだのは、なぜ今、というよりも、今だから、私たちが真剣に向き合わなければいけない問題だからです。これらの問題に対して、例えどんなに無関心であろうとなかろうと、誠実に自然と向き合わなかった人間の姿勢は、未来にやってくる、大いなる自然からの報復に繋がります。自然の報復というより、人間が自ら招く「人災」として。人間が自然の恵みを受け、この地球に住んでいる以上、誰1人として関係がないことではありません。

生物多様性とは何か


そもそも「生物多様性」とは何でしょうか。ご存知でない方が多いと思います。私もあまり聞いたことがない言葉でした。というのも、草刈先生によると「生物多様性」という言葉は、生物学的多様性 (biological diversity)を意味する造語です。1985年に、アメリカ合衆国研究協議会(National Research Council, NRC) による生物学的多様性フォーラムの計画中に、W.G.ローゼンによって造語されました。1986年以降、生物多様性という用語とその概念は、生物学者、環境保護活動家、政治指導者、関心をもつ市民らにより、世界中で広く用いられることになりました。「生物多様性」という言葉が世界のスタンダードになったのは、1992年の国連環境開発会議(地球サミット:1992)で採択された「生物多様性条約」からで具体的に定義されました。ある意味、「条約から生まれた言葉」ということです。1992年の国際的な条約によって生まれたということは、その時点で、生物の多様性が人間の生活に必要不可欠であると国際的に認識されていたということになります。

この分かるようで分からない、掴みどころのない「生物多様性」という概念を、草刈先生に分かりやすく教えて頂きました。

「生物多様性条約」の始まりは、絶滅危惧種を守ろうとする「ワシントン条約」と、水鳥を保護する「ラムサール条約」でした。これら2つの条約だけではカバーしきれない生物も守る必要があるということで、全ての生物を「包括」する条約ができました。それが「生物多様性条約」です。

この条約は「全ての生物」を対象としているので、「ワシントン条約」や「ラムサール条約」は、「生物多様性条約」に包括されています(全て「生物多様性条約」の傘下にある)。そのため、この「生物多様性条約」
は「アンブレラ条約」とも言われているそうです。

では「生物多様性」とはどういった概念で、何を表しているのでしょうか。

草刈先生は、「生物多様性」を以下の「3+1 の側面」として表しています。



①種内(遺伝子)の多様性

これは、同じ種類の生物内の多様性を表します。例えば、道端でよく見かけるサクラソウ。草刈先生によると、「サクラソウは同じ種でも、遺伝子の違いがよくあらわれる」そうです。小さくて綺麗なお花ですが、実は写真のように、サクラソウだけでもこんなに種類があるんです。よく見ると、色、花びらの形や枚数がそれぞれ異なります。

(https://yumenavi.info/lecture_sp.aspx?%241&GNKCD=g006857)

「種内(遺伝子)の多様性」とは、その種を守るだけでは不十分で、その中の種の多様性を守らなければならないということです。


②種間の多様性

①と似ていて分かりにくいですが、分かりやすい例が亀です。同じ亀でも、私たちがよく見かける沼や庭園にいる亀と、綺麗な海に生息しているウミガメなど、私たちが知らないだけで、様々な「種」が存在します。

(kotobank.jp)

同じ種でも、国や地域ごとに生息している、異なる種(多様性)を守ることが大切です。


③生態系の多様性 

日本特有の動物や、海外にしかいない動物がいるように、気候条件・地形に合わせて、それぞれの地域に異なる生物が生息しています。こちらに関しては、草刈先生の書籍から引用をさせていただきます。

『生態系というのは、ある環境に適応した生物たちのバランスがとれた、まとまった系を言います。地球には、気候条件によって区分された範囲の生物群があります。気温や降水量の違いは、植物の種類や植生に大きく影響し、植生の生物群ごとに様々な生態系が存在しています。』
『鳥に食べられないと発芽しない種子があります。クマは、森に種を播いています。1つの種が滅びるということは、単にその種がなくなるだけではなく、その種に関係する生物に連鎖的に影響を与えることになります。1つの種が滅びるとき、他の植物や昆虫や動物を絶滅の道連れにしているのです。』(p.5『知らなきゃヤバイ!生物多様性の基礎知識』草刈秀紀 編著 から引用)


(manabu-biology.com)

この図を見て分かるように、生物の生息地は様々です。熱帯雨林には熱帯雨林の生物が、サバンナにはサバンナの、ツンドラにはツンドラにしか生息しない生物が存在しています。極端な例ですが、北極グマは、北極にしかいません。北極の気候でしか、生存できないからです。「生態系の多様性」とは、それら全ての仕組みによって地球が維持されていることを表します。


+1 とは

3+1 の 「3」は上記の①〜③の内容ですが、「+1」とは何を表すのでしょうか。これは「文化の多様性」を指しています。①〜③で述べたように、それぞれの国や地域に根付いた生物たちが存在します。ですので、その国・地域の文化や伝統、歴史などによって、生物多様性を守る手段が異なります。例えば前回の記事で触れたSDGsも、国際的なゴールは共通していますが、それをどう達成していくかは、その国に委ねられています。すなわち、この「+1」は、①〜③の土台になる文化的背景であると言えます。

さて、ここまでで、なんとなくお分かりいただけたでしょうか。草刈先生によると、「生物多様性」は比較的新しい概念であり、複数の側面があるため、標準的な定義というものはないのだそうです。

そのため、私にとっても掴みどころのない、どこか曖昧な概念なのですが、少しでも「なんとなく分からないけど、こういうことか」と理解していただけたら嬉しいです。

生態系サービスとは

この言葉は「生物多様性」と同様に、とても大切な概念です。一言で表すと「人間が自然から恩恵を受けている、サービスの大きさ」です。では、人間はどのような恩恵を自然から受けているのでしょうか。

皆さんご存知のように、私たちが生きていく上で必要不可欠なものは、全て自然からつくられたものです。例えば、食糧・水・電気・火などです。これらの自然の恩恵をなくして、私たちは生きられません。私たちが自然の恵みに依存して生活していることを思い出させてくれる概念が「生態系サービス」です。

そして、この「生態系サービス」は、上記で触れた「生物多様性」があってこその恩恵です。地球の「生物多様性」と「生態系サービス」は、比例しているのです。

なぜ「生物多様性」と「生態系サービス」を守る必要があるのか

それは、私たちが自然の資源に依存しているからです。生態系の食物連鎖によって自然は保たれ、私たちはその恩恵を受けて生命を維持しています。食糧・水・電気・火など、私たちの生活を維持している資源は、多様な生物(生物多様性)が複雑に影響し合うことでバランスが取れた「生態系サービス」から生まれます。生物多様性、そして生態系サービスのバランスが崩れるということは、私たちの生活が維持できないということになります。言い換えれば、私たちが安全に生きるための、必要な資源が確保できなくなってしまうのです。草刈先生は、生物多様性や生態系サービスを守っていくことは、私たちの「安全保障」であると仰っています。


環境・生物多様性を破壊する原因

私たちの生存を左右する環境や生物多様性を破壊する原因は、主に下記の5つです。

①開発による生物の生息地の破壊

 ②汚染(酸性雨・オゾン破壊・化学部)

 ③過剰利用(野生生物の取引やペットの利用)

④外来種(侵略的な外来種による影響)

⑤種の単一化(生産性を求めた大量生産)                

草刈先生はこれらの関係性を、分かりやすい構図で表しています。

(この図は、草刈先生によって作成されたものです。)

それぞれが具体的に何を表しているのか、皆さんはよくご存知だと思います。これらの根本を辿ると、人間による「活発な経済活動」であることが分かります。

私はビジネスを否定するつもりはありませんが(私もお金を稼いで生きている身なので、否定できません。)、私たち人間が経済を優先し、利益を追求するあまりに、一体どれだけの犠牲を出しているかという事実は、少なくとも自覚すべきだと思います。

今日の「物質的」に豊かで便利な生活は、過去何十年にもわたる生物の損失と自然の犠牲の上に成り立っています。「物質的な豊かさ」と引き換えに、私たちは何を失ってしまったのでしょうか?

エコロジカル・フットプリント

エコロジカル・フットプリントとは、人間が環境に与える負担を数値化したものです。そのエリアで自然環境を踏みつけている面積を人間の足跡(フットプリント)と表しています。                   

NPO法人「エコロジカル・フットプリント・ジャパン」によると、私たちの現在の暮らし(日本)は、地球2.4コ分も資源を消費しているそうです。また、もし全世界の人々がアメリカのような生活をしたら、その資源は地球5.3コ分にも登るそうです。

(参照  http://www.ecofoot.jp/what/)

地球の臨界点

「地球の限界」のラインを臨界点(Tipping point)と言います。臨界点に達すると、地球の環境が大きく変わり、生態系が破壊され、もう人間の手には負えなくなってしまいます。これは、人間が安心・安全に生活できないレベルになってしまうことを意味していると思います。

上の図のように、現在の地球は、臨界点ギリギリです。私たちの経済活動によって莫大な資源が消費され、生物多様性が脅かされています。この臨界点を超えてしまえば、人間がどう足掻いても、なす術がありません。人の手では治せないからです。しかし逆に言えば、まだ間に合います。

ただし、一度狂ってしまった、あるいは(絶滅によって)絶たれてしまった生物多様性や生態系サービスの連鎖を元に戻すには、とんでもなく時間がかかるそうです。自然によって保たれている生態系連鎖のバランスは、私たちが想像する以上に非常に繊細で複雑なのです。本来であれば、人間が後先考えず利己的に介入すべき領域ではないはずです。

まだ間に合うといっても、人間の活動によって加速していく環境問題のスピードと比べ物にならないほど、時間がかかるのです。

それほど、これまでの私たちは、利便性や利益を追求するが故に色々なものを犠牲にしてきてしまったのです。


不幸中の幸い

遂には、自分たちの手によって、自分たちの地球を脅かすところまで来てしまいました。これらは自然現象ではなく、すべて「人災」です。私は事実を知っていくうちに、絶望を感じてしまいました。絶滅によってもう二度と見れない動物がこれ以上増えたり、安全なものを口にできなかったり、私たちに「生きている」という実感を与えてくれる自然を感じられなかったり、鳥の鳴き声がこの世から消えることを想像できますか?

しかし幸いなことに、「まだ間に合う」と言われています。

これらの事実を知り、私たちには何ができるのでしょうか。また、何をすべきなのでしょうか。

私たちができる具大的なアクションや、インタビュー内容の続き(どちらかと言うと、そちらの方がインタビュー内容の醍醐味です!)は、また近いうちに更新します。

長くなりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

次回は「環境問題と生物多様性 (インタビュー記事 II)」です。お楽しみに☆




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