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破壊され、鹵獲され、展示される戦車たち

2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの大規模侵攻。
当初から両国ともに積極的に自国の主張を発信していたが、その一環として相手国の鹵獲兵器を展示して戦意高揚をはかったり、自国への支援を呼び掛けていた。

2023年2∼3月、そのような鹵獲兵器を見学しにラトビア・リトアニア・ロシアの三国を訪れた。

(本記事中ではロシアによるウクライナへの侵攻に対しての是非については触れないが、筆者としては侵攻に断固反対でありロシアは今すぐに撤兵すべきであるという立場をここで明確にしておく。)

ラトビア・リガ

バルト三国の中央に位置するラトビアはロシア系の市民を多く抱えるにもかかわらず、政治的にはEUやNATOなど西側を強く志向する国である。そのようなラトビアの首都リガにウクライナが鹵獲したロシア軍の戦車T‐72Bが運び込まれた。場所は在リガ・ロシア大使館の目の前である。

周囲にはウクライナ国旗が掲げられている

バルト海に面したリガの冬は厳しい。それでも雪に覆われたT-72を見るために多くの市民が駆け付けた。

正面から見る
破壊され鹵獲されたときの状況が詳しく説明されている

解説文によるとこの戦車はキーウ州ブチャ郡で破壊されたものである。ブチャの惨劇を引き起こした部隊の一つである第五独立防衛戦車旅団(the 5th Separate Guards Tank Brigade)の所属である。
他にも破壊時の戦況や被害状況なども詳しく解説されているので興味ある方は読んでみてほしい。

展示の正面はロシア大使館である

戦車が展示されている場所はリガ中心部のKronvalda Parkであるが、その公園の正面には在リガ・ロシア大使館が存在する。侵攻開始から約1年が経過していた訪問時でも様々なプラカードやウクライナ国旗などが掲げられロシアの行いを非難していた。
(大使館の門の前は複数の治安関係者が警備していて立ち止まることさえできない状況であったため、道路の反対側から撮影した。)

ロシアを非難する言葉が並ぶ

ロシア大使館員に見せつけるように展示されるT‐72B

一方で展示には花が一輪添えられており、おそらく戦死したであろうロシア兵を悼んでいる。国家としては反ロシアを明確にしているが、市民の中にはロシアに対してシンパシーを抱くものがいないわけではないのだ。

展示には「WOLVERINES」という文字が描かれている。これはウクライナ市民によるレジスタンス組織の名称であり、1984年に製作された反共映画「Red Dawn」へのオマージュである。反露と反共が容易に結びつくような感覚には正直なところ少し当惑する。


リトアニア・ビリニュス

ラトビアの南隣リトアニアでもロシア軍の戦車が展示されている。こちらは旧市街の中心部にそびえるカトリック大聖堂の目の前である。
リトアニア最大の祭りであるカジューカス祭の日に合わせて、こちらも鹵獲されたT-72戦車が展示された。

リガとは違いこちらは柵すらない。
祭りに来た普通の人たちが立ち止まって見学していく。

展示のすぐ横には大聖堂の鐘堂がたつ。
この場所はソ連によるバルト三国への不法占領に抗議する人たちが1989年に行ったデモ活動「バルトの道」のリトアニア側の始点である。まさにロシアによる帝国主義的侵略戦争に抗議するのにふさわしい場所である。

ビリニュスでの展示には解説文などはない。
ただ激しく破壊された戦車が置かれているのみである。


ロシア・レニングラード州

ウクライナが鹵獲したロシア軍戦車を広報に利用しているのと同様に、ロシアも鹵獲したウクライナ軍の戦車・戦闘車両を利用している。
ロシアは他国への広報ではなく、自国民に向けたプロパガンダの一環としての展示である。

ロシア第二の都市サンクトペテルブルクは大祖国戦争(第二次世界大戦)時の最激戦地の一つである。900日近い期間の間、この巨大な都市はナチス・ドイツ軍の包囲下に置かれたのだ。そのためこの都市および近郊にはこの包囲戦への勝利を記念する博物館がいくつも存在する。
そのうちのひとつ、シュリッセリブルクとキロフスクという小さな町の間に立つレニングラード包囲戦博物館(Panorama-museum "Proryv Blokady Leningrada")を2023年の3月に訪れた。

大祖国戦争に用いられた数々の戦車たちが展示される横で、「ファシズムへの教訓」と題された新たな展示スペースが設けられていた。ウクライナ政府をファシズムに侵されていると主張するロシア政府にとって、ファシズムへの勝利を象徴するこの博物館は格好の自己主張の場であるのだろう。
解説文には「特別軍事作戦中にロシア連邦軍によって鹵獲されたウクライナ民族主義ファシスト組織の軍事装備・武器である。」と記されている。

無残に破壊されたウクライナ軍の装甲車。車内の装備もすべて破壊されていた。

こちらも同じくT-72戦車であろうか。ソ連時代の中核戦力であったこともあり、ロシアやウクライナをはじめ旧ソ連圏の多くの国の軍がこの戦車を用いていたと聞く。

こちらの装甲車の形式名は見落としてしまったが、もはや原型をとどめないほど破壊されてしまっている。

車内は撃破時にすべて燃えてしまったのだろう。悲惨というしかない状況だ。



概してロシアによる展示では徹底的に破壊された車両ばかりであった。ロシア軍の精強さを誇りたいのか、あるいはウクライナ軍を貶めたいのか。
見学に来ている人たちを観察してみると、普通の家族連ればかりである。愛国教育の一環であろうか。このような展示を見せられて育つ子供たちの認識が歪みが心配になる。



ここまでお読みいただきありがとうございます。
本記事で取り上げた鹵獲戦車の写真をはじめ、ロシアによるウクライナへの侵攻を主題として撮りためたスナップ写真で構成された同人写真集「Under Z, Against Z」を8月12∼13日に開催されるコミックマーケットC102で頒布します。
撮影場所はジョージア・バルト三国・フィンランド・ロシアになります。(1枚だけ侵攻前のウクライナ)
気になった方はぜひご参加ください。

頒布場所は 8月13日(日) 東ホール Y15a 
サークル 御室紀行 です。

また8月12日のおもしろ同人バザール大崎(大崎コミックシェルター)と
10月1日の旅チケット7in関西にも参加しますので、そちらでもよろしくお願いします。

また書店のメロンブックスさんでも委託販売しますので、イベントに参加できない方はそちらもご利用下さい。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2027457

ではでは

真冬のモスクワにて


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