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コロナウィルス関連の英単語を検証する

前段

前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまった。世の中コロナウィルス関連でてんやわんや、私の日頃の仕事もてんやわんや。おかげで何とか生きているが、このウィルスは症状が出ない、もしくは軽微で済む場合が多いために、気づかずにどんどん拡散してしまうのが本当の恐ろしいところらしい。そして高齢者などの一部の人を主に重症肺炎にして死に至らしめるというそのsilent killerっぷりで、諸外国ではninjaなどと言われ始めている、と・・

世の中では「コロナショック」という言葉が出てきているが、この「○○ショック」という言葉が実は私はあまり好きになれない。特にイヤな言葉は「リーマンショック」である。なぜ嫌いか。
理由その1、和製英語で、実際に英語で外国と話すときに通じないから。英語では単にthe 2008 Financial Crisisと言ったり、the Global Financial Crisis 2008 - 09などと言う。
理由その2、この言葉を言うことで思考停止するから。こう言った一件分かりやすい単語を言うことで、世の中にある問題の多くとその原因を過剰に単純化しすぎる嫌いがある。08年の金融危機と不況は下火として、返済能力の薄い低所得者が借りていたサブプライムローン(まずお尻に火がついたのは欧州のBNP Paribasでしたか・・)があり、それをリスクヘッジと称してCDSやその他証券などと組み合わせてリスクを見えなくなくし、元のローン債務者から世界中ありとあらゆる投資家に売られていた。リーマン・ブラザーズはサブプライムローンを沢山買って売らずに持っていたから、痛い目を見たわけだが、他にもヤバイ機関投資家、金融機関は数多あったわけで、リーマンブラザーズ社とその破綻は象徴的ではあったが、あくまで全体のやばい構造の一部でしかない。いい加減「○○ショック」などと言う安っぽい言い方で問題を単純化、矮小化するのはやめてもらいたいものだ。

合わせて言うと、どこかの知事がやたらとこれ見よがしに横文字を並べ立てるのも見るに堪えないし(オーバーシュート(overshoot)とか言っている海外の識者は皆無だろう)、とりあえず奇を衒った単語をいうことや、「三密」と言った標語も思考停止そのもので、大いに問題だと思っているのだが、今日はその話は敢えてしない。

今日はここらのタイミングで、落ち着いてコロナウィルス問題で出てきた英単語を振り返りたいと思う。なぜこのタイミングなのか。それは最近色々疲れていて、ここに書くことができなかったからなのだが、タイミングとしてはちょうどいいと思っている。

昨今のTVやSNSは情報の即時性が売りなのだが、かつては現在起きている現象を、少し時間を置いて頭を冷やしてから考察・俯瞰したものを論説する週刊誌、月刊誌などがあり、即時と異なる、落ち着いた議論をして一般市民を啓蒙していた。最近は新聞でさえも即時性に飢えるSNS民に媚びるように近視眼的な報道をしている。感情は大事なのだが、即位性溢れるセンセーショナルなニュースに脊髄反射的に反応する人が増えるのは良くない。TVやSNSに晒されていると、近視眼的な物の見方になってしまう。長期的な視座を持たせてくれる何かに定期的に触れることはとても大事である。天文学をやれば、今見えている星の光が何億年前の光であり、今現在はその星は存在していない可能性だってある。自分の人生の長さなんかと比べて桁違いなわけで、人間のちっぽけさを知る、そんな瞬間が時折必要なのではないか。それに通底する問題で且つ対象的な事象だが、SNSで「今」を消費しているように見える人は、実際は自分の目の前にある「本当の今」をどれだけ感受し楽しめているのだろうか。だれかの承認を得るために自分の今を犠牲にしてはいないだろうか。

コロナウィルス関連の英単語について

さて本題に入ろう。米国の英語辞書Merriam-WebsterのA Guide to Coronavirus-Related Words - Deciphering the terminology you're likely to hear-「コロナウィルス関連の単語への手引き -あなたがよく聞く専門用語を読み解く」を見ながら考えて行こう。なお、文書が長いので、長文が苦手な方はここまでで引き返すのを勧めます(笑)。

coronavirus:なぜコロナウィルス と呼ばれるのか

その前にまずコロナウィルス(=coronavirus)と言う語だが、coronaという語自体はラテン語のcoronaで、意味は「花輪」「花冠」である。現代の英語では、crown([n]王冠)という単語として存在している。そして元をたどればギリシア語のkoroneという語があったそうで、「湾曲したもの」を表したそうな。印欧基語の語根*sker (「曲げる」の意)というものに由来しているそうである。

crownの語源自体は、corona(羅) > corone(古仏) >  coroune (ア仏) >  croune, coroune(中英)といった格好で英語に流入した。スペイン語ではラテン語と全く同じ綴りでcorona [n/f]であり、アメリカのネトウヨと呼ばれるAlternative Rightがコロナウィルス問題でなぜか敵視したメキシコのコロナビールのcoronaでも使われている。コロナビールのロゴにはもちろん王冠が記載されている。英語でもcoronaという単語は生き残っていて、主には日食時の「コロナ」の意味として使われる。金環日食などでは、コロナは本当に王冠のように輝いて見える。そしてこの「王冠」の意味のcrownは欧州のチェコ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドの貨幣であるクローナ(クローネと呼ぶ人も)として使われている。200 kronerは、200 crownと言っても正である。

なぜコロナウィルスを呼ばれるかというと、これはコロナウィルスを顕微鏡で見たその姿に鍵がある。ウィルスの膜から冠のように見える突起が伸びているので、そう呼ばれるようになった模様。

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画像:wikipediaより

crown、coronaにまつわる英単語として、coronation[n]戴冠式という単語がある。王が即位するときに王冠を被る儀式であり、coronaの部分がそのまま単語に残っている。古楽・バロック音楽好きの方は、Georg Friedrich HändelのCoronation Anthem(=戴冠式祝歌(ジョージ2世のための))などでご存知かもしれない。余談だが、フットボール好きはご存知のUEFA主催のthe UEFA Champions Leagueの冒頭の曲UCL Anthemは、ヘンデルを模してこの「戴冠式祝歌」に似せてヘンデル調で作られている。

corona絡みの他の単語としては、coronary([adj]冠のような、心臓の、冠状動脈の)がある。なぜここで心臓が出てくるのか余りに不思議だったので、少し調べてたところこのArt in Anatomyというページ(直訳したら「解剖の技術」?)を見つけた。ここに記載の心臓の冠状動脈が本当に王冠に見えるので驚き。画像は転載すると有料のようなので、ぜひ上記リンク先に見に行って頂きたい。

Covid-19

さて続けよう。covid-19は本当に海外のメディアの記事でよく見る単語だ。今回のコロナウィルスの学術名称である。Coronavirus Desease 20**19 **をそれぞれ取った頭文字(acronym)である。「2019年に発見されたコロナウィルス」という意味。コロナウィルス自体はこれまでも存在しており、ごくありふれた身近な風邪のウィルスであった(風邪の原因の3-4割がコロナウィルスである模様)が、この2019年の新型は、突然変異したもので人間にまだ免疫がないので危険なのである。

Social Distance/Social Distancing

直訳すると「社会的距離」。websterのページに興味深い記載がある。19世紀前半から使用されている語彙で、元々は、「異なる社会集団(人種、民族、階級、性)に属する個人間での、容認と拒絶の程度」の意味であった模様。つまり差別も孕んだ語彙だったのですね。。

現代では「接触感染性の疾患の感染拡大時の、暴露を最小かし、感染を減らすための他人との近接接触の回避」という意味で使われることがある、との由。

Fomites

発音は「フォゥミティーズ」と言った感じでしょうか。取っつきにくいからか、日本語のカタカナでは聞かない単語ですね。どの辞書を見ても短い表現で訳されているものはないです。「感染を媒介する無生物」という説明が多いでしょうか。ドアノブや、昇降機のボタンなどが挙げられます。
ラテン語から直接借用したfomesの複数形だそうです。語源的には、「焚き木」という意味だそうです。

Epidemic & Pandemic & Outbreak

outbreakの定義は、Websterによると、“a sudden rise in the incidence of a disease”=病気の発生の突如の増加、である。動詞のbreak out(イメージとしては、内側から外に突き破る、ブチ破って外に出てくる感じですね)

epidemicは“an outbreak of disease that spreads quickly and affects many individuals at the same time”=素早く拡がり、同時に多くの人に影響を与える病気の急拡散、である。epidemicの語源はepi間に+demos人(々)→epidemia。人々の間で広がっていく疫病という意味である。

pandemicは「感染爆発」「疫病のの世界的流行」である。pandemicの語源は、pan汎・全+demos人々→pandemos。全人類に広がる疫病という意味である。

Community spread & Contact tracing

Community spreadは“the spread of a contagious disease within a community."=共同体内の接触感染による疾病の拡散、である。

Contact tracingは直訳すると「接触追跡 」。Websterでは、“the practice of identifying and monitoring individuals who may have had contact with an infectious person as a means of controlling the spread of a communicable disease.”と説明されている。「感染性の疾病の拡大制御の方法として、感染者と接触したかもしれない個人の特定と観察の実行」。

Martial Law

martial lawは日本語で戒厳令である。lawの訳は単に「法」とされる場合が多いが、lawの意味は実はそれよりも幅広く、その法によって行われる「支配」その支配が及ぶ領域・区域」も含まれている。ヴァイキングのデーン人がブリテン島に移り住んだ際にDane Lawと呼ばれるデーン人の支配する地域があった。martial lawは「軍の支配を認める政令、その状態」という意味なのであろう。martialは、[adj]戦争の、軍の、という意味であるが、これはローマの軍神Marsに由来している。

Self-quarantine

self-quarantineの前に、quarantine「検疫」の話をしよう。この空港や港の表示板に見かける単語は、ロマンス諸語を勉強したことがある人なら見た瞬間に気づくだろう。ロマンス諸語で、数字の「40」はイタリア語quaranta、フランス語quarante、スペイン語cuarentaである。quart/quadrで始まる単語は「4」の意であり、英語でもquarter「1/4、四半期」、quartet(te)「四重奏」、quadruplicate「4倍」などに残されている。検疫をquarantineと呼ぶ経緯は、かつて疫病を防ぐために、海外からの渡航者が入国する際に、疫病の感染がないか観察するために40日間(イタリア語quaranta giorni)隔離したことに由来する。12世紀ヴェネツィアの入国管理政策に由来するらしい。

self-quarantineは疫病の感染拡大時に、人との接触を自制し、家に留まり世帯内の限られた人との接触のみとすること(“to refrain from any contact with other individuals for a period of time (such as two weeks) during the outbreak of a contagious disease usually by remaining in one's home and limiting contact with family members.”)である。

Index case

Index caseはthe first documented case of an infectious disease or genetically transmitted condition or mutation in a population, region, or family.”と説明されている。上記を少し無理に訳すと「最初に記録された、集団や地域における伝染性疾病、遺伝学的な感染状態、突然変異の事例」と言ったところか。

Super Spreader

super-spreaderはの説明は“an individual who is highly contagious and capable of transmitting a communicable disease to an unusually large number of uninfected individuals.”となっている。「異常な規模の非感染者に伝染性疾病を接触感染させる(ことができる)個人」である。超拡散分子とでも呼べようか。

Isolation & Self-isolation

isolationの意味「孤立」「孤立化」である。self-isolationは自己孤立化である。通常、「孤立」と言うと、どちらかというと自らするものではなく、複数の人が誰かを孤立化させて起こるものである。自ら孤立するということでselfがついているのだと思われる。

isolation自体は、ラテン語のinsula 「島」に由来し、insula のpp:insulatus >  イタリア語には入りinsulatoとなり、それがフランス語に入ってisoléとなって、それを英語におこしてisolateとした模様。「同一の」の意味のギリシア語接頭辞isoとは語源が異なるので注意(豆腐のイソフラボンや、アイソトープなどのisoである)。

このinsulaに由来する単語は色々とある。peninsula「半島」は、ラテン語でpaeninsulaと綴られていたものが英語に入った。意味は、paeneほぼ+insula島、である。このラテン語のpaeneは現代英語では、penultimate[adj]最後から2番目の、という単語の"pen"の部分にに生き残っているが、大体の人はこんな堅苦しい難しい単語など使わず、フツーにsecond lastと言うだろう。

それ以外にもinsulate[vt]絶縁・断熱する(insulation断熱材)や、isle/island[n]「島」、insulin[n]インスリン (膵臓内の「ランゲルハンス」と呼ばれる部位から分泌されるホルモンのため)などもラテン語のinsulaに由来している。

Contagious & Infectious

それぞれの意味は、contagious[adj]接触感染する、infectious[adj]空気感染する、である。単語を見て、感染は感染でも「接触」か「空気」かがわからない、と言う人は、語源をみるとすぐ理解ができるので語源を参照するのがおすすめ。

contagiousの由来
羅語contingere触れる > contagio >> 後期羅語contagiosus(pp) >
古仏contagieus >> 中英語contagious   

ラテン語のcontingereの意味は、con共に+tangere触れるである。contingereは、直接コンティンジェンシプランといった横文字で使われるcontingencyで、「触れる」のtangereは現代英語のtangible、intangibleで現代英語に生き残っている。tangibleとintangibleは、表面上の意味ではtouchableとuntouchableと置き換え可能ではあるが、これらtouchにまつわる単語と比べて、もう少し意味に深みがある。

contingency[n]不慮・不測の事態、偶発性
 contingency planは不測の事態に臨機応変に対応する計画のことである。
tangible[adj]明白な、触れられる
intangible[adj]掴み所がない、実体が無い、

実は、このcon共に+tangere触る、に由来する単語は、知られたところで言うと、contact[n]接触・[vt]接触する、や、contaminate[vt]汚染する、がある。なるほど、他人が触れたものを「汚れている」「汚染されている」と考えるのは些か失礼で不遜ではあるが、ドアノブ、昇降機のボタンなどを触ることでコロナウィルスの接触感染に苦しむ現代の我々に本質を突きつけているような気がしないでも無い。非常に興味深い。

infectiousはもちろんinfection[n]伝染病・感染症の派生、そしてinfectionはinfect[vt]感染させる、の派生である。

infectの由来
in中に+facere作る→浸す> 羅語inficere染める・汚す  > infectus(pp) > 中英infect

infectの元の意味には「浸す」があり流体が念頭に置かれる。それに対して、contagiousはcontact接触と同語源。つまり触ることが前提。これでどっちがどっちかわかりやすくなったのでは無いか。日本語でも、「感染」、「汚染」という言葉には「染」という言葉感じが使われており、訓読みでは「染(そ)める」である。そして色に染める場合は、大体何かを液体に浸すことが多い。

なるほど、上記の文章を書きながら私の中で、infect(浸す→染める・汚す)と、contagion(一緒に触れる→接触感染・汚染)、そして漢語の「染」の3つの単語の裏側にある概念的なものがある種統合された気がする。言葉は非常に面白い。単語そのものは、事物の表面に貼られたラベルでありあくまで事物・事象の呼び名に過ぎないがその裏には多くの概念(concept)や経緯(context)が含まれているんでいるんだなということを再確認させられた。

virus

Websterのページの最後の単語である。英語で俗に「バズる」ことを "go viral"と言うのだが、このviralはvirusの形容詞で、「ウィルス(性)の」の意味である。これはバズり方が感染症のように広がるからである。

virus[n]病原体、はラテン語のvirusからそのまま借用された。ラテン語のvirusの意味は、「毒」「植物の樹液」が、英語に入って「毒性のある物質」となった。印欧基語の語根*weisの、元の意味は、「流れる」「霧散する」であった模様。virus本質的な意味が「流体」であることはどうやら間違いなさそうで、これはinfectの本質的な意味の「浸す」とつながっているような気がする。

さて、今日はコロナウィルスがらみの単語を通じていつもの単語の世界の考察をしたわけだが、websterではlockdownが紹介されなかった。lockdownロックダウンは「都市封鎖」といった解釈をする人がチラホラ見られるようだが、字ヅラ以上に、そこまで恐ろしいものでは無い。「条件付き外出禁止令」といった感じだろうか。沈黙の恐怖- コロナウィルスで多くの人が亡くなっている今、感染拡大したら医療現場が疲弊して今後感染者が増えても放ったらかしにされてしまう。そして若い人も(急速に)重症化して命を落とす場合も出てきている。全世界で亡くなった方々にはご冥福を、闘病中の方には回復を祈るばかりである。英語圏のメディアでは「命を救うために外出を控えるように」というCMがすごく頻繁に流れている。日本でも、状況は酷くなる一方。感染の拡大を防止するために、外出を控える、食料品日用品の買い物などの際は、間隔を空ける、など徹底して、行政には使えないマスクなんぞ要らないので、外出禁止措置のための中小企業と労働者支援をお願いしたい。

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