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【短編】カノジョは翼竜

「今日からみんなと一緒に勉強する加藤さんです。」
そう言って先生が紹介した『加藤さん』は、プテラノドンだった。


プテラノドン
中生代白亜紀後期に生息していた翼竜。翼開長は7~9m(ロンギケプス種7~8m、ステルンベルギ種9m。専門的な話は端折る。だってこれは専門的な話じゃないから)。


そう、そのプテラノドンだ。
大きさこそ人間大になっているが、どこからどう見てもプテラノドンだった。高校2年にして、プテラノドンの同級生ができた。目の前のプテラノドン加藤が、口を開く。
「はじめまして~。白亜紀から来ましたあ。加藤プテ子でえす!みんなのこと、空に連れ去ったりとかはしないんで、マジよろしく~。」
……軽い。プテラノドン軽いな、おい。
「それじゃ、加藤さんは高橋の隣に座りなさい。」
先生はにこやかに、僕の隣の席を指定した。隣がプテラノドンになった。生まれて初めてだ。
プテ子は隣の席まで飛んできた。プリント類が宙を舞う。
「高橋くん、マジよろしく!!」
「…よろしく。」

休み時間になった。
色々訊きたいけど、怖くて訊けない。どこから訊けばいいのかも、わからない。だが、僕は勇気を出した。
「加藤さんって、他にどんな友達がいるの?」
プテ子はうれしそうにこちらを見る。
「え、友達?首長竜とはうまくやってるかなあ…。肉食はだめ。食べられちゃうし。」
食われるんだ。
「…そう、なんだ。」
「高橋くんさ、好きになった子に食べられそうになったことある?」
あるわけねえだろ。
「ないよ。」
「私あるんだ。小さいときに陸で会ったイケメン、肉食だったんだよね~。もうちょっとで死んでたわ~!」
あはははは。笑うプテラノドン初めて見た。というか、話すプテラノドンも初めてだ、よく考えたら。
僕は、少しだけ気になったことを訊いてみた。
「…加藤さんって、なんでそんなに明るいの?」
「え?」
「食べられそうになったとか、大変じゃん。今も、翼竜は加藤さんだけなのに。どうして、元気で明るいの?」
「んー…。高橋くんも、空飛べたらきっとこんな感じになるよ!」
「空を飛べたら?」
そう、とプテ子は僕の手をとった。初めてプテラノドンと手を繋いだ。ドキドキする。恋ではない、絶対。
「私が連れていけたらいいんだけど…。人間は持ち上げられないんだよね、重くて。」
「空には、何があるの?」
「なあんにもない!」
プテ子は大笑いした。
「でも、何にもないから、そこでは私に戻れるの。人間は、いつも何かに囲まれているから、自分に戻れないんだよね。」
「自分に…戻る。」
「そう。誰かのためとか、社会のためじゃなくて。自分のためだけに、自分でいる瞬間ってきっと大切だよ。」
そう言って笑う翼竜を、僕は少し好きになれそうな気がした。


翌日、プテ子は学校に来なかった。先生が、再び家庭の都合でプテ子が転校したことを告げた。
みんなは気味悪がっていたけど、僕は少しだけ寂しかった。大笑いする彼女を思い出す。もう少しだけ、話をしたかった。


あれから3年経った。
僕は大学2年生になった。プテ子のことを、なぜだかずっと忘れられずにいた。
夏休み。僕は、アメリカのネブラスカ州に来ていた。プテラノドンの化石が多く見つかるアメリカならば、彼女に会える気がした。

予約していたスカイダイビング体験をする。
やっと、空に来た。
「自分のためだけに、自分でいる瞬間ってきっと大切だよ。」
君の声がする。
カウントダウンとともに、空に飛び出そうとした。そのときだった。
飛行機のアラート音が鳴り響く。騒ぎ出すスタッフたち。
彼らが指差す先に、大きな翼竜がいた。
目を奪われた僕に、懐かしい声が聞こえた。
「ね、高橋くん。空って、気持ちいいでしょ!」



あとがき
問題作。でも書いてみたかったテイスト。
書いてて楽しかったのは確かなんだけど、読んでいただいた方が楽しいかは不明。
プテラノドンは翼竜であり、恐竜ではない。ちなみに、ティラノサウルスと同時代を生きたかのような描写がされることがあるが、生きた時代は重なっていない(たしか)。
『加藤』は日向坂46加藤史帆かとうしほさんから。かとしさん、翼竜にしちゃってごめんなさい。プテラノドンにめいっぱいの可愛さを出すにはこの手段しかなかった。かとしさんの華やかさ、美しさ、優しさに勝手に救われていた。ずっと応援してます。
『高橋』は同じく日向坂46高橋未来虹たかはしみくにさん(「高」は正しくははしごだか)から。ツッコミキャラでもあるので、なんとなくみくにんの名前を借りるのが適任な気がした。みくにんのかっこよさに感動することが多々ある。ずっと応援してます。
恐竜だから小坂さんの名前をお借りしようかと思ったが、小坂さんをプテラノドンにするのもツッコミ役にするのも違う気がしてやめた。こさかなには次回作で力を借りる…かもしれない。キャラの名前って、なんだってこんなに思いつかないんだろう。

恐竜は元々好きだ。「ジュラシックパーク」シリーズは全て愛している。図鑑は山ほどある。幼年期からのものだが、今も大事にしている。

今回の問題作、感想聞かせていただけたら幸いです。

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