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【本】外から見る推し活は狂気 推し、燃ゆの感想

お盆に何もできない無の時間ができてしまったので本を購入、
【推し、燃ゆ】
買った理由は『評判になっていたのでいつか読もうと思っていたから』で、いつのまにか時間が経っていたのを文庫本で見つけて、そうだ買おう!と思ったからです。

上は前回の本の感想です。

調べると第164回芥川龍之介賞を21歳で受賞、「2021年本屋大賞」では9位を獲得しているということでめちゃくちゃ評判になってた作品でした。いつか読もうと思って3年たってました…
いつかは自分で作らないとこないものですね。

推しが燃えるあらすじ

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」。高校生のあかりは、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注ぎ、学校も家族もバイトもうまくいかない毎日をなんとか生きている。そんなある日、推しが炎上し―。第164回芥川賞受賞のベストセラー。時代を映す永遠の青春文学。2021年本屋大賞ノミネート。

裏表紙より引用

もはや常用語になっている気がする『推し』と言う言葉ですが、人に薦めたいと思うほど好きな人やもののことで、本作ではアイドルの一推しメンバーのことを指していると言うことがわかります。
読む前は、自分みたいなオタクは物事を推していく生き物だから感情移入できるかもと思いつつ、炎上した推しとの向き合い方に不安を感じていました。

以下からネタバレありで進めるため、初見を大事にする方はお気をつけください。


この作品の感想を簡潔にまとめるなら

『推している時間』はかけがえのないものとなる。です。


推しがいる生活とは

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」

7ページより

この作品はミステリーではないため、燃えた理由を探すのではなく、推しが燃えた世界を生きる女子高生がどうなっていくのかを見守ります。
そのため、タイトル通りで裏表紙通りですが、
開始一行で推し(ファンを殴ったアイドル)が燃えます。(ネットの炎上という意味で)
炎上不可避の大爆発です。

自分が推している人が燃えた時アンチになるのかは少し考えてしまうところ、もちろん理由などはあるでしょうが初期の、
誰が悪いかわからない時
には考えようもありません。見えてる情報だけで判断したくはないし、推しが悪だと決めつけたくないファン意識があります。

主人公のあかりはアンチにはならず、推しの性質を考え、推しの解釈を進めながら日々を送ります。
そんな日々で出てきた推すことが決まった時の話が良かった。

真っ先に感じたのは痛みだった。めり込むような一瞬の鋭い痛みと、それから突き飛ばされたときに感じる衝撃に似た痛み。(省略)
一点の痛覚からぱっと放散するように肉体が感覚を取り戻してゆき、荒い映像に色と光がほとばしって世界が鮮明になる。

15.16ページより

本当に痛いわけではなく、それ程の刺激が彼女にあった訳です。この前後の文章で世界に色がつく瞬間を感じられます。
推しとは、推していくぞ!と決めたわけではなく、自然と、不意に、勢いよく推したくなるものということなのかと感じていたのでその感じが伝わってきて、この推しの魅力をかんじられました。

推し中心の生活

あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことが私の生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。

47ページより

あかりは勉強ができず、バイトも得意でなく、家族との仲もそんなに良くはありません。
ただ、推しとのイベントに合わせて生活をすることで幸せを感じ、そのために生きていきます。

実際私も学生生活の一つの楽しみとして漫画だったりアニメがありました。この曜日のために今週を生きているんだ…!と思い生活していました。
楽しみがないと生きていけない、その楽しみがアイドルの推し活だったと言うことなのでしょう。

推しが本当に悪いのかは分からないものの、
周りがどう言おうとも、推しを推す。
炎上したからといって推しを辞めるのでなくファンとして支える姿勢を見せてきます。
自分に見えている推しを推すことが生活の中心なのだから変えないしブレない。芯があっていいなと思いますが、他のものを削ぎ落としているため仲間以外からは賛同を得られません。
でもあかりにはこれでいいのです。推しの輝きこそ自分の生活の輝きに繋がるのだから、羨ましいような難儀な生活を送っています。

燃えた推しを応援し続けること

引退試合に負けた時に夏が終わったなんて表現するけど、私はあの日から本当の夏が始まったように思う。

82ページより

読み進めると推しのグループ内人気投票で以前の1位から5位(最下位)へと転落します。炎上した影響だと思われあかりはひどく苦しみ、今後はこれまで以上に全力で推しを推すことを決めました。推し活以外にお金は使わず、よりバイトに励みグッズを買ったりSNSを更新する。
それは単に現実から逃げているだけなのですが、苦手なバイトを頑張ることが推しにつながっていると感じられ生活にハリが出ているのかもしれません。

人気投票という名の決戦で負け、世間的には夏が終わりましたがあかりの中ではリベンジマッチの夏が始まったわけです。
これは負けられません。
でも世間の波には勝てないのでは…とか、
たった一人の学生が頑張ったって…なんて思いますが推し活には関係ないのです。
むしろ人気がないから推さないと言うのは推しではないのです。誰かに言われて辞められるような感情ではないから一人の推しを推し続けられるのかもしれません。
まぁ…炎上というか推しが事件を起こしていたら推せなくはなるとは思いますけどね…

この後のあかりの行動には理解はできるけど賛同はできません。現実の小さな不安が大きな問題へと変わります。
文武両道ではないけど、推し活と共に分からないなりにも学業やバイトといった本業(?)にも力は注いでほしいものです。
家族側の立場になって考えてしまい気の毒に思っていました…

おしまいに

出てきた推しとの接触はこの作品にはありません。結局あかりはいつまでも1人のファンであり続けます。それが推しとの距離感が明確で、なんでもない人の人生を感じられるところがいいなと思いました。
結局推しはみんなの推しで自分だけのものではないことが【人】ではない証拠なのかなと(例外もあるけど)
ゆっくりと時間が進んでいくため推しへの感情をかなり受け取ることができます。
その分生活を蔑ろにしているところも感じられるため、主人公以外に感情移入してしまうとムカついてしまうかもしれません。

推していることは周りから見たら狂気にも見えます。それに無意味な動きにも見えるでしょう。
でもそれは本人にとっては何にも変えられない時間、行動であり、自分を癒す利益につながるのです。不意に興味がなくなったり、それこそ炎上でアンチへと変わることがあるかもしれませんが、推し活をしていることで一時期の気持ちが楽になったり癒やされていることは間違い無いでしょう。それをあかりから感じられることができます。
ぜひ推しを推し続けたあかりの結末を読んでみてみてください。

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