本 ルビンの壺が割れた、の感想
ここ最近新幹線に乗った時や待ち合わせ等、
手持ち無沙汰な時間が多く、スマホを見ているのもバッテリーの消費が気になっていました。
ふと近くにあった本屋で買った
【ルビンの壺が割れた】
買った理由は『とても薄かったから』
と不純な理由です。
小説自体ここ数年読んでおらず最後まで読めるかの不安があったことや、帯に書いてあった
『口コミだけで20万部!ただただ圧倒的に面白い!』に惹かれたのもあります。
あらすじ
多くのSNSでは、あなたとの知り合い、だったりおすすめの人、のような紹介が出てきて繋がるということが増えてきていますが、
それに似たことがおこったのか?
そこから恋愛が始まる同窓会あるあるみたいな話なのかと思いきや、どうやら様子がおかしい書き方、結婚を約束した?それだけでも一悶着ありそうです。
以下からネタバレありで進めるため、ファーストインパクトを大事にする方はお気をつけください。
この作品の感想を一言でまとめるなら
割れた壺は元には戻らないです。
無駄な足掻きほど見てられないものはない
この小説は進み方が独特でDMのやり取りで進んでいきます。
水谷一馬という男が、元婚約者である結城未帆子をFacebookで見つけ、メッセージを送った内容で始まります。ただ、その内容が怖い。
この記事の冒頭におすすめで〜なんて話をしましたが、そうではなく、偶然見つけた結城未帆子を本人かどうかプロフィールを確認し、友達を確認し、友達の公開している画像を引き延ばして確認しているという執念を感じます。
久しぶりだと本人かわからないため調べてから送ることは分かりますし、亡くなっているということなので昔の恋に未練を感じて返ってこないと分かっていてもDMを送ってしまった、少し痛い恋物語なのかと思うのが一通目となります。
二通目で判明、いや死んでないんかーい。
自分の中では終わった恋を死んだという表現で表しているのか…
それ、本人には言わなくない?
そんなの返信したくないんじゃない…?
そもそも返事不要と言いつつ落ち込んでるのは有り得なくない?
…ちょっとわかるけど
この作品は痛い人の恋愛ものだと自分の中で確信に移った瞬間でした。自分も昔好きだった人のことをSNSで見つけてしまった時…このような行動をとって気持ち悪がられてしまうことがあるのかもしれない。嫌だな…
第三者目線で見られて良かった…
なぜ答えてしまうのか
次の年にもこの水谷という男は連絡します。
ミュートにされているのでは?という気持ちもありますが、このDMではなんとアカウントを変えて送っているのです。そこまでして…?
どうやら結婚式当日に結婚するはずだった結城未帆子は来なかったとのこと。幸せの絶頂からどん底へ、そのことが忘れられず探してしまったのは少し納得もするのですが、もう連絡は取れないでしょうね…
うまく行くとは思えない恋愛が続いています。
なんと返信なんてしなくてもいいのに未帆子は返信します。あの水谷さんということが数回のDMでわかり、それで返信したとのこと、ようやりますわ
何となくこの二人の関係性が見える中、結城は偽名ということが判明します。フェイスブックという個人情報をよく出す場所でも個人情報を守るネットリテラシー完璧な未帆子さんに感動しつつ次のページを見ると
即バレしてる!!?
水谷のストーカー気質に驚きを隠せない一文です。肝が冷えるわ…
幸い読み進めると偽名なら昔の苗字で呼びましたということですが、読者に恐怖を植え付けるのに十分すぎる文章です。ネットに慣れてないとか言ってたのにすごいサーチ能力とか思ったわ…
輝かしい栄光と現在
その後二人の大学演劇の話があり、水谷は昔、中心人物で成績優秀、モテモテな男ということがわかります。いやいや、未帆子さんだって…というようにお互いの良いところや思い出を語りあの頃は良かったよねと言い合います。
でも今は違う…何だか悲しい話ですが、だからこそ昔が輝くということもありますよね。
時に水谷がいつものストーカー気質で地雷を踏んで返信が返ってこなくなるのを追いDMで謝罪したりなど、なんだか不思議な文通?を重ねます。
本当に彼はできる男だったのか、疑うところもあるのですがだからこそ何があったのかどんどん気になるわけです。
その後、何故未帆子は結婚式に来なかったのか
水谷は核心に迫る質問をしますが、のらりくらりとかわす未帆子。住所や本当の苗字を聞かれるもすらっとかわして話を進めていきます、流石ネットリテラシー完璧女、身元はバラしません。これは久しぶりの友達との連絡では真似したいところですね。
変わる様相、オチへの収束
段々と水谷の悲しい過去と家族、友達や夢だったことなどが分かってきます。結婚式に花嫁が来ない経験をしている水谷には更なる悲劇があったことが分かり妙に同情したくなります。
昔は婚約者がいたこと、難しい家族構成になってしまったこと、演劇部での活動の他に彼に起こっていたこと、それを未帆子目線ではどうだったのか返信で判明したりして物語は終局へと向かっていきます。
常に違和感を感じる文章を送り合う二人がこの作品のポイントではないでしょうか、
突然苗字を言ってみたり、行動に不審な部分があったり、結婚するはずだったのに知らないことが多かったり…
全ては最後のネタバラシで理解できるのですが、最後まで何かが奥歯に詰まったような会話ばかりが続き不協和音のように残っているのです。
今までの話から推測することはかなり難しいため、出てくるとんでもない話を受け取ることしかできないもどかしさ、ドキドキ感を味わえます。
最初から未帆子へ執着しているように見える水谷と、それを簡単にあしらい興味がないようで水谷へ尊敬というか郷愁のような何かしらの感情を持つ未帆子、この二人の過去と今に繋がる何か、が読み進めるごとにでてきて読む手を止めることはできないでしょう。
ルビンの壺って結局何なの?
調べてみるとルビンの壺というのは、
壺の形にも人が向き合っているようにも見える絵のことでよく見たことあるやつでした。あれそんな名前なんだ!という感動笑
作品内ではルビンの壺が割れた、という演劇名で出てくるため大事なものではあるのですが、
担当編集の付記ではルビンの壺のように見え方の違うことがこの作品のいいところと言っています。ミステリーだと思うともうその目線でしか見えない…確かに私にはもうホラーにしか見えなくなってしまいました。
ここまで見て未読の人には意識を植え付けてしまったかもしれませんが、先入観は持たず純粋に楽しんで欲しいです。
おしまいに
SNSは簡単に繋がれます。それは忘れたはずの恋かもしれないし、何十年も会っていない・会いたくない人だったりします。
ですが、そこからどんな形になるのかは誰にもわかりません。
この作品は空気の読めない痛い人のもう一度やり直す恋物語ではなく、
パンドラの箱を開ける時の、開けてはいけないものを開ける不安と見てみたい好奇心が常に付きまとう気味の悪い作品と私は感じました。
だからこそオチでの、あの時のあれは…!!といった開放感がありますが爽快感ではない何かを感じます。
めちゃくちゃ薄気味悪いし、頭の中の水谷の顔がどんどん変わっていく作品です。
久しぶりの知り合いとは言えど急に来る個人に対しての連絡は気をつけなければいけない、そう改めて思う、そんな体験でした。
ちなみに1時間くらいで読めました。
薄いというのもありますが、DM形式で交互に会話しているので読みやすいかと思います。中断するのも簡単ですが何かモヤモヤして先が気になってしまうかもしれません。
ここまで拙い文章を見ていただけたあなたならすらすらと止まらずに読めると思いますのでぜひ、ルビンの壺が割れた、見てみてください。