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映画に学ぶアメリカ軍の特殊部隊

アクション映画において、やけに強いヒーローが登場する作品がある。

銃やナイフなど武器の扱いは一級品。殴り合いの近接戦にもめっぽう強い。また、優れた作戦立案や状況判断等、頭脳にも優れ、さらに、非常にタフな精神力も持ち合わせている。

そんな彼らの肩書は、特殊部隊出身となることが多い。シークレットサービスやCIA などもあるが、圧倒的強さの男たちの経歴といえば、やはり特殊部隊である。

特殊部隊出身と聞けば、特殊部隊に詳しくなくても「強い男」というイメージだけは形づけられる。

ただ、特殊部隊といっても多くの種類がある。

今回、アメリカ軍における特殊部隊について、映画に登場する強いキャラクター達は、どの特殊部隊出身なのかという点をみていきたい。

アメリカ軍特殊部隊

アメリカ軍には陸軍、海軍、空軍、海兵隊と4つの軍隊がある。これらは、全く別の組織であり、そして、それぞれの軍にはそれぞれの特殊部隊がある。

また、その各軍の特殊部隊も、ひとつでなく、任務の違いから、複数の特殊部隊を持っている。

アメリカ陸軍特殊部隊

グリーンベレー

アメリカ陸軍の特殊部隊のスターといえば、グリーンベレーである。グリーンベレー隊員、もしくは元グリーンベレー隊員という人物は、数々の映画に登場して活躍している。

グリーンベレー出身の強い男といえば、『ランボー』シリーズのジョン・ランボーであろう。

ランボーは、元グリーンベレー隊員らしく、ゲリラ戦に秀でており、近接戦も得意とする。銃器は当然のことながら、ナイフ、として弓矢という武器が得意技となる。一人で数百人の敵を壊滅させるわけだから、グリーンベレー恐るべしとなる。

実際は、グリーンベレー隊員全てが、ランボーのような完全無敵、一人で数百人の敵を壊滅させる超人というわけではないものの、グリーンベレーは、隊員一人で200人分の戦力を持つといわれる。

これは、グリーンベレーの任務に起因する。グリーンベレーの主な任務を一言で表すと「軍事顧問団」である。

アメリカは、世界警察として世界中に基地や軍隊を配備している。また、世界各地では、紛争が起きている地域が多数ある。そのような紛争地域、つまり、まだ大規模な戦争が起きていない地域において、アメリカがいきなり軍隊を大量投入することはない。まずは、紛争地域において、アメリカに味方する勢力を作り、教育・訓練し、武器を供与し、後方支援する。その方がアメリカにとって経済的であり合理的である。

紛争地域におけるアメリカに味方する勢力を作るのが、軍事顧問団、つまりグリーンベレーである。

グリーンベレー隊員が一人で200人分の戦力を持つといわれるのはこのためだ。現地で教育・訓練するのだから、グリーンベレー本人たちも当然強い。そして、彼らの教育により数百人に相当する戦力を持つのである。

『ホース・ソルジャー』(2018年)をみると、このグリーンベレーの軍事顧問団という任務がよくわかる。

『ホース・ソルジャー』は、2001年9月11の世界同時多発テロを受け、アフガニスタンに先駆隊として送られたグリーンベレー部隊の話である。彼らの主な任務は、アフガニスタンでアメリカに強力する勢力への武器供与、戦闘訓練、後方支援である。

デルタフォース

グリーンベレーの主な任務は、軍事顧問団と書いたが、敵対勢力、しかもテロリスト相手に直接的な殺傷を任務とする部隊がある。

それが、デルタフォースである。

デルタフォース隊員といえば、『デルタ・フォース』シリーズのチャック・ノリスであろう。

『デルタ・フォース』のチャック・ノリスは、とにかく強い(チャック・ノリスの強さは『デルタ・フォース』に限らないが)。相手を殺傷することについて一級の腕前、銃でも接近戦でも、敵を倒していく。

また、攻撃だけでなく守備力もすごい。『マトリックス』のように派手に銃弾をよけなくても、チャック・ノリスに敵の銃弾は当たらない。しかし、チャック・ノリスが撃つ銃はとんでもない命中率で敵にバンバン当たり、敵をなぎ倒していく。

このように『デルタ・フォース』のチャック・ノリスは強すぎるため、現実的でない部分も多いが、それはデルタフォース隊員だからこそ描ける世界ともいえる。

デルタ・フォース隊員は、グリーンベレーや後述する第75レンジャー出身者が多くを占める。つまり、特殊部隊の中から更に選ばれた少数精鋭の超エリート隊員たちだ。だから、滅茶苦茶強くても、デルタフォース隊員だから…と、一応は納得できる設定なのである。

第75レンジャー連隊

アメリカ陸軍の特殊部隊として、第75レンジャー連隊もある。第75レンジャー連隊は、通常戦闘と特殊作戦の両方を遂行できる部隊である。

組織上、アメリカ陸軍特殊作戦を管轄する組織に属しているが、実際は、精鋭が揃った歩兵連隊である。第75レンジャー連隊からグリーンベレーに入隊する者も多く、つまり、グリーンベレーの養成機関的な位置づけである。

そのため、映画においては、第75レンジャー連隊隊員が、ランボーのような一人で数百人を倒すとんでもなく強い男にはならない。

例えば、『プライベート・ライアン』でトム・ハンクス演じるミラー大尉率いる部隊がレンジャー隊である。

結構優秀、だけど無敵でない。それが、映画で描かれる第75レンジャー連隊隊員である。

アメリカ海軍特殊部隊

ネイビー・シールズ

アメリカ陸軍特殊部隊のスターがグリーンベレーならば、アメリカ海軍のスターは、ネイビー・シールズとなる。

ネイビー・シールズは、敵勢力の偵察、直接殺傷など、グリーンベレーとデルタフォース両方の任務を受け持つ特殊部隊といえる。ビン・ラディンを殺害したのもネイビー・シールズである。

近頃は、『ネイビー・シールズ』(2012年)や、『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ!』(2018年)など、タイトルからしてネイビー・シールズを売りにした映画も作られ、特殊部隊のスーパースターの座を、ネイビー・シールズがグリーンベレーから奪った感もある。

このネイビー・シールズ出身の男といえば、『沈黙』シリーズのスティーブン・セガールであろう。

『沈黙の戦艦』におけるセガールは、武器の扱いは当然のことながら、合気道を駆使した近接戦にめっぽう強い。戦艦を乗っ取ったテロリストを一人で壊滅させてしまう。

ネイビー・シールズ隊員が全員合気道の達人というわけでないが、ネイビーシールズ隊員といえば、超過酷な訓練をくぐり抜けてきた男たちである。

海軍所属なだけあり、潜水任務が得意技で、北極の海に潜水して作戦実行も可能という、普通の人間だったら作戦遂行の前に死んでいて当然な任務も行う。

このネイビー・シールズの凄さは、『ローン・サバイバー』(2014年)が分かりやすい。冒頭で訓練シーンもあり、いかに過酷な訓練かを知ることができる。また、戦闘シーンにおいても、何度も崖から飛び降り、普通だったら死んでいるようなところを何度も起き上がる。なぜ起き上がるのか。それは、彼らがネイビー・シールズだからである。

アメリカ空軍特殊部隊

アメリカ空軍にも特殊部隊はあるが、映画にはほとんど登場しない。

『トップガン』にしても、トム・クルーズ演じるマーヴェリックは、海軍所属のパイロットである。空軍ではない。

グリーンベレーやデルタフォースのようなスター特殊部隊がいないのである。その理由としては、以下が考えられる。

  • 空軍なので、主役はパイロット

    • アメリカ空軍は、実際には陸上に展開する部隊ももつが、しかしやはり空軍である。空軍といえば飛行機で、飛行機といえばパイロットとなる。パイロットは、『トップガン』をはじめ、スマートでイケメン、格好いいというイメージがつきまとう。例えばランボーのような筋肉隆々の男がパイロットは似合わない。

  • メインの戦いはドッグファイト

    • 凄腕パイロットとなれば、メインの見せ場はドッグファイト、つまり戦闘機同士の戦いとなる。そうすると、特殊隊員ならではの銃やナイフ、もしくは空手や合気道など近接戦の強さを見せられない。つまり、空軍の特殊部隊員という設定は、特殊部隊隊員らしい強い男が描きにくい。

アメリカ海兵隊特殊部隊

フォース・リーコン

アメリカ海兵隊の特殊部隊として有名なのが、フォース・リーコンである。『ザ・シューター』でマーク・ウォルバーグが演じるスナイパーは、数キロメートル先の標的も射貫く程、超凄腕である。彼が、フォース・リーコン隊員である。

しかし、フォース・リーコンは、グリーンベレーやネイビー・シールズほど有名でなく、映画の題材としても少ない。

それは、海兵隊自体が、強さの象徴でもあるからと考えられる。つまり、フォース・リーコンを登場させずとも、海兵隊出身者ということになれば、それはつまり、強い男というイメージになる。

戦争が起きると、まず最初に敵地へ乗り込むのは海兵隊である。太平洋戦争において、南方の島々、ガダルカナル島やサイパン島といった日本の占領地は、ことごとくアメリカ軍の上陸を許し、そして日本軍は壊滅していったが、これら島々で上陸作戦を行ったのは海兵隊である。

まだ戦争が始まっていない地域で、アメリカに味方する勢力を作ったり、もしくは、直接誰かを殺したり、特定の組織を壊滅させるのが特殊部隊となる。それでも戦争を防げず、戦争となった場合、最初に投入されるのが海兵隊である。そして、最後に大量投入されるのが、陸海空軍となる。

つまり、海兵隊は特殊部隊と軍隊の中間的位置づけの軍隊となる。

これは、特殊作戦に任務する特殊部隊に近く、そのため、海兵隊出身というだけで、十分に強さをイメージさせられる。

特殊部隊を知ることで映画の楽しみが広がる

『ザ・ロック』(1996年)において、エド・ハリスが演じるアルカトラズ刑務所に立てこもるハメル准将は、海兵隊のフォース・リーコン出身者である。また、フォース・リーコンの准将相手に戦うのが、ニコラス・ケイジ演じるネイビー・シールズ隊員という、特殊部隊同士の戦いである。

フォース・リーコンやネイビー・シールズについて知っていると、特殊部隊同士の戦いという設定だけで、ワクワク感が一層高まる。

「特殊部隊出身」という設定は、それだけで、「強い男」とイメージできる。しかしさらに、どの特殊部隊なのかを知り、その特殊部隊がどういう特殊部隊なのかを知っていると、より映画の楽しみが増し、映画鑑賞としての深みが増すのではないかと思う。

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