どうしたご主人?
ご主人はたまにつらそうな顔をする。
いや、たまにじゃない。結構な頻度で遠くを見つめている。
ご主人、今日も雨だったから、残念そうに外を眺めているな。
ご主人は晴れの日が大層好きらしい。
雨も悪くないと話すけれど、どこか陰がさす。
ご主人の心にはいつも雨が振っているらしい。
・・・
ご主人は、日がな一日、家にいることが多い。
私としては嬉しい限りだ。
逆に、ご主人が長く家を開けた時は、大層恐ろしい。
いつ返ってくるかもわからぬ不安の中、私は取り残される。
安全ではあるが、困ったことにご主人しか餌の在り処はわからぬ。
飲み物もそうだ。
バスルームにある鉄の管から流れる水は格別だ。
だがそれもご主人しか出し方は知らぬ。
扉の前でにゃん、と一鳴きしてやれば、ご主人がスッと扉を開けてたちまち水がでる。
しばらく堪能したあと、満足して扉をでて振り返ると、とっくに水は止まっている。
ご主人がコントロールしているのだろう。生意気なご主人。
ずっと出しておけと、思わないこともない。
・・・
ご主人は、よく泣く。
きっかけはわからない。突然泣くのだ。
薄ぼんやり光る板を見つめて泣くこともあれば、紙の束なんかペラペラめくりながら布団の上を濡らすこともある。
そこはわたしのお気に入りなのだご主人。
濡れて冷たいではないか。
たまに余韻に浸ったように、涙をこぼし続けることもある。
そういう時は白い大きな布なんて大層なものを手に持って顔を覆う。
わたしはその大きな布が好きだ。
だから飛びついてやるのだが、勢い余ってご主人のみぞおちあたりを貫くこともある。
そうすると「ぐえっ」とかいう素っ頓狂な声のあと、明るく笑うご主人の声が響く。
なんだ、元気ではないか。心配して損した。
ご主人、はやく水だせ。
・・・
今日もご主人はしかめっ面だ。
こういう時は、たいてい自問自答している。
わたしとご主人は違う種族だから、考えていることはわからぬ。
でもどうせロクでもないことを考えているのだろう。
「人とは違うのだ」だって?
同じ人などあるものか。
あったら気持ちが悪いわ。
そんな考えはメシの種にもならないだろう。
メシのことを考えよ。
ご主人はもったいぶりがすぎる。
おやつにと、ちゅーるをくれやするが、なぜ三食ちゅーるにしないのか。
もっとパーっと、ごくごく自由に振る舞えばよいものを。
違いを楽しめ、ご主人。
…む!今回はタラバガニ味か。
よいぞご主人、その調子だ。
・・・
ご主人はよく独り言をいう。
口元に鉄のアミアミ?で出来た奇妙な物体をちかづけて嬉しそうに、楽しそうに話すのだ。
人が変わったようだ。
ご主人はもっと寡黙だ。
私に話しかける時のネコナデ声以外じゃ、ボーッとしたような話し方しかしないだろう。
その時の虚しさったらない。
空元気というやつなのか。
ご主人は演技が大層上手らしい。
でもご主人はよく「仮面が~」どうたら、「社交性が~」どうたらぬかす。
そうやって自分らしさを見失ったご主人をみて、毛玉でもはきたくなる。
ほら、こうやって日当たりのいいところでゴロンとするのだ。
そいでにゃんとでも言えば良い。
相変わらずご主人が何言ってるかわからないが、作りこんだ偽物みたいな声よりはマシじゃなかろうか。
・・・
ご主人は大層怖がりな人らしい。
人を傷つけることが怖くてたまらない。とかよくよくのたまわっている。
たしか、ご主人の他にもう一人、暮らしていた人間がいたはずだが最近はとんと見かけなくなった。
アイツもご主人に負けず劣らずよく遊んでくれた。
いつからだっけか?2年前くらい?もう覚えてはない。
ご主人はずっと「私は加害者なんだ」とかつぶやいている。
別にとって食ったわけでもないだろうに。
いつまで引きずっているのだ。
それに、よくご主人が聞かせてくれる物語には、大層悪逆なやつらが登場するではないか。
比べれば、ご主人など小物も小物。
なのになぜ、もう自分は幸せになってはいけない、みたいな顔をしているのだ?
・・・
にゃるほど、ご主人は罪悪感とやらに大層取り憑かれているらしい。
まぁこないな人だから猫叉であるわたしなんかに捕まるのだろう。
別にとって食いやしない。
猫叉とはいえ、そこいらの猫とさして変わらん。
ちょっと思考力がある程度だ。
まぁせいぜいわたしのためにちゅーるを運ぶがいいさ。
ご主人の罪悪感の程度などは知らん。
だがせめて、わたしくらいは幸せにしてみせろご主人。
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