えいじろう

都内在住の内科勤務医。腫瘍内科、一般内科が専門です。アラフィフ、娘が3人います。生命、…

えいじろう

都内在住の内科勤務医。腫瘍内科、一般内科が専門です。アラフィフ、娘が3人います。生命、意識、医学、自然に興味あります。おじさんの手習としてエッセイなどしたためてみたいと思いNoteを開設しました。

最近の記事

死生観について 禅の十牛図と人生

十牛図(じゅうぎゅうず)は禅で代表的な画題であり、悟りに至る過程が書かれている。悟りにいたる段階を描いた10枚の図と詩からなり、「真の自己」「悟り」が牛の姿で表され、真の自己を求める修行者が牧人で表される。そのため十牛図と呼ばれる。作者は中国北宋時代の臨済宗楊岐派の禅僧・廓庵とされる。私はこの絵図に大変惹かれるのであるが、それは仏教的な悟りの道だけでなく人生の過程とも重なると感じるからだ。 ユング的に言えば牧人はエゴ=自我であり、牛がセルフ=自己となるだろう。 図の出典:国

    • 死生観について 意識とは

      死というのは生命が終わることである。生命とは能動的にまた自立的に環境の中で活動するものである。 特に人間においては意識を持ってこの世界を経験し思考し行動することが生命活動でもっとも重要と思う。意識がなければ生きていることを自覚できないし、逆に死ぬことを恐れたりもしないだろう。意識がなければ死生観を考えることもない。 意識とは主体的に世界を経験する「自分自身」であり、それは神経細胞の塊である脳から生じる。意識が脳からどうやって生まれるのか、というのはさまざまな理論があるもののま

      • 死生観について 臨死体験

        死に際して人はどのような体験をするのだろうか。そのヒントとなるのは臨死体験にあるだろう。事故や病気などで命の危機に晒され、そこから生還した人がしばしば神秘的で死後の世界を垣間見るような体験をする。それが臨死体験である。 臨死体験について神経内科の医師であるケビン・ネルソンが書いた書籍がある。「死と神秘と夢のボーダーランド」という本であるが面白いのでおすすめである。 その本によれば、臨死体験はさほど珍しいものではなく、アメリカ人の1800万人ほどが経験しているらしい。臨死体験

        • 死生観について ヴィクトール・フランクル

          ヴィクトール・フランクルの死生観を紹介したい。 彼はオーストリアの精神科医で、ユダヤ人でありホロコーストの生還者である。「夜と霧」という著書が有名である。また彼はロゴセラピーという心理療法を生み出した。ロゴセラピーでは、人は実存的に自らの生の意味を追い求めており、その人生の意味が充たされないとメンタルな障害や心の病に関係してくるとしている。そのため人にその生活状況の中で「生きる意味」を感じることができるよう援助しようとするものである。 フランクルは収容所での絶望的な状況の中で

        死生観について 禅の十牛図と人生

          死生観について 緩和ケア

          緩和ケアと死 医療の中でも緩和ケアは特に死と密接な領域である。緩和ケアの対象となる患者とその家族は死を避けられないものと意識して生活する。そこでは残された時間を悔いなく過ごすということと、よりよい死を迎えるということが重要となる。 死に直面した人の死の受容過程はキューブラー・ロスによる分類が有名である。それは「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」の5段階に分類されている。 がんなど死の病を宣告されたときに、最初はそれを受け入れない否認という状態になる。その後に自分の運

          死生観について 緩和ケア

          死生観について はじめに

          今年の春、長年お世話になった先輩が突然亡くなってしまった。もう30年ほどの付き合いだったが、親分肌の人で公私共に大変お世話になっていた。70代前半だったが今時だとまだ若いと言われるだろう。死因はくも膜下出血が疑われたとのことだった。全く予期せぬ出来事でしばらく実感が湧かず、飲み会などでまたひょっこり出会えるのではと言う感じがしていた。しかし時間が経ちそれは叶わないのだなと腹の底から理解されてきて、ひしひしと寂しさを感じる。 死について突き詰めて考えると周囲の親しい人といつか

          死生観について はじめに

          患者さんの苦痛に向き合うことの難しさ

          研修医の頃に各科をローテーションした。小児科を回っている時に小児がんの患者さんを診た。小さい子が闘病している姿は胸を打つものがあり、かわいそうで見ていられないという気持ちを持った。小児科で深刻な疾患を診ている先生方はなんと立派なのだろうと感じた。 「かわいそうで見ていられない。」その気持ちはどこから来るのか。人は他者の苦痛に共感する時に、それを自分のことのように感じてしまう。それを共感性苦痛という。人間は社会性を持った生き物であり、ミラーニューロンという相手の感情と共鳴する

          患者さんの苦痛に向き合うことの難しさ