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テニスから学ぶ卓球「テニスにカットマンがいない理由」

着々と「テニス化」していく卓球のルール。テニス業界のトレンドを学べば、未来の卓球の姿が見えてくるかもしれません。今回は卓球でいうカットマン(守備型プレースタイル)がテニスでいない理由から、未来の卓球の姿を考察します。

テニス化する卓球のルール

「商業五輪の原点」とも称される1984年のロサンゼルスオリンピック以降、スポーツのテレビ放送での「見栄え」「わかりやすさ」が重視されるようになりました。

バレーボールの「サーブ権」が廃止されて、サーブ権の有無に関わらず点数が入る「ラリーポイント制」に以降したのも、テレビ中継の都合上というのがルール改正のきっかけと言われています。

卓球の魅力として「ボールのスピード感」「回転」「白熱するラリー」などがあります。プレーされている方にとっては、いずれも欠かせない卓球の魅力です。しかし、ことテレビで見ている人にとって「回転」はわかりにくく、スピード感のあるボールにより数球で終わるラリーは盛り上がりにくい、という点も否定できません。

そこで、卓球界では「ラリーが続く」方向へのルール改正が、2000年代立て続けに行われました。

2000年には、それまで38mmであったボールの直径を40mmへ変更、「ボールの回転が減り、スピードが落ちた」と選手から声が挙がるようになりました。

ちなみに38mmから40mmへ変更した場合の空気力学的影響を考えると、なかなか難しい世界のようです。詳細が知りたい方は以下リンクを参照してください。今回はあくまで「選手目線の実感」ということで話を進めます。

2002年からは、サービス時に手や体でボールを隠し、回転の掛け方をわかりにくくする「ハイドサービス」が禁止されます。これにより「手品のような回転サービス」でサービスエースが取りにくくなりました。

このように「ボールが回転しにくくする」「ラリーが続くようにする」という、ルールの面での「卓球のテニス化」が進められていきました。

カットマンという卓球のプレースタイル

卓球のプレースタイルの一つである「カットマン」。ラケットを振り下ろすように打つ「カット」打法によってボールに強烈なバックスピンをかけ、相手の攻撃を受ける守備的なプレースタイルです。

この「バックスピン」のボールですが、攻撃側が打ち返すときには「激しく上にラケットを振り上げて」返球します。この「カット打ち」は、「重いダンベルを手につけながらラケットを振るよう」と形容する人もいるほど、攻撃側にとってはしんどいプレーです。

とはいえカットマンは守備一辺倒というわけでもなく、チャンスと見るや一転攻撃を仕掛ける「蝶のように舞い、蜂のように刺す」スタイルでもあります。「カット打ち」でヘトヘトになったところに、ビシッと攻撃を決める、この辺りがカットマンの醍醐味の一つとも言えます。

卓球用具の進化「よりスピンとスピード」

ボールが回転しにくくする」「ラリーが続くようにする」という、ルールの面での変更は進みましたが、プレーヤーとしては「よりスピンとスピードが出る用具」を求めます。

メーカーもそういったプレーヤーの要望に応えるべく、用具の改良を続けました。その結果、「神進化」とうたわれるほど、用具が生み出すスピンとスピードは進化しました。

「スピン」の向上はカットマンに福音、と思いきや、「スピード」の向上はカットマンにとっては辛いところです。というのも、守備型のスタイルのカットマンですが、さすがに攻撃型の選手に全力で打ち込まれたら、守りきれないからです。

テニス世界ランク1位・ジョコビッチ選手のプレースタイル

現在のテニス世界ランキング1位のジョコビッチ選手は「鉄壁の守備」が特徴と言われています。トップスピン主体のフォアハンドに、さまざまな打法を駆使したバックハンド、という印象が私はありますね。

卓球でいうと「フォアはほぼ攻撃、バックも非常に攻撃の多いカットマン」みたいな印象を受けました。

なぜテニスは守備に専念することが難しいかということは、テニスの専門サイトの「T-PRESS」さんで解説してくれています。卓球は自コートでワンバウンドしてから打球する一方、テニスでは「ボレー」があることがポイントです。

「相手の時間を奪う」ことがテニスの攻撃の基本であるのに対して、テニスと比較して時間に猶予のある卓球は「回転を使って体力を削ったり、判断を狂わせる」という選択肢が増える、という特徴が加わります。

とは言え、最近の卓球界は用具の進化により高速化が進んでいます。以前のように守備一辺倒のカットマンでは、試合に勝ちにくくなってきました。そこで、テニスのジョコビッチ選手のように「非常に攻撃の多い守備型」という卓球選手も出てきています。英田理志選手がその典型ですね。

英田理志選手はカットマンではありますが、非常に攻撃機会が多いレアなスタイルです。

卓球世界ランク1位・樊振東選手のプレースタイル

一方で、卓球界の世界ランク1位 樊振東選手は非常に攻撃的なスタイルです。

比較的卓球台の近くでプレーすることが多く、カットマンとは対極のプレースタイルと言えるでしょう。日本の張本智和選手も、この高速卓球タイプです。

そうすると、高速卓球に対応するために、英田選手のような新しいカットマンスタイルの選手が出てくるのは、必然と言えるのかもしれません。

卓球・カットマンの未来

著名な卓球コラムニストである伊藤条太さんは「希少性がある限り、カットマンは消滅しない」と述べられています。

私としては「カットで守備をする」という打法が無くなることはないと思いますが、「カットマン」というスタイルは消滅してしまうのでは、と考えています。

どんなに高速化を制限するルールができても、メーカーの創意工夫とユーザーのニーズがある限り、「よりスピードの出る用具」の出現は止められません。そうすると、卓球界においても「テニスのボレー」と同じくらい、打球へ反応する時間は確実に減っていくことが予想されます。

従って、英田理志選手のような攻撃に重きを置いたカットマンであったり、より攻撃的なスタイルの「卓球版ジョコビッチ」といったスタイルが「新たなカットマン」となる、そうすると従来の「守備に偏ったカットマン」は消滅してしまうのではないでしょうか。

卓球オールドファンとしては、多様なプレースタイルが存在するのが卓球の魅力の一つだと思っています。技術の進歩に伴ってカットマンが苦しくなっている部分は否めないですが、技術の進化によって「新たなプレースタイル」が生み出されることも、期待したいところではあります。

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