月 _ ショート

 わざわざこんな砂浜の近くまで来て、何してんのかなぁ。月見るだけなら、別にどこでもいいんだよなぁ。
 最近よくないな。なんか、こう、電気が走ることもないし。ま、そもそもそんな出来事もないもんな。当たり前か。昼間は海水浴とかで人が多くて嫌になる。まだ七月になったばっかなのに、早すぎないか?夜はいいねやっぱり。一人占めだな。
 こうしてると、夜の空に浮かんでるみたいだなぁ。嫌なことも忘れちゃうね確かに。少し先で魚が跳ねてる。気持ちいいだろな。自分にはできないけど。
 なんでも透き通っていたら、余計なことまで考えなくていいのに。見えないから、余計に色々考えて、余分にうだうだ落ち込んで。ほらまたこんなこと考えてさ。あの星が今落ちてきたら、とか考えてる方がずっと健全でずっと衛生的かもね。
 なんであの時、君を追いかけなかったんだろう。まぁるい雫が幾つも浮かんで、ただそれを見てることしか出来なかったや。まぁ、追いかけられても迷惑だったんだろうけど。ただぼんやり、君を見つめていたな。ぼんやり見つめているのも、ぼんやり見つめられるのも、たいして変わんない気がしてきたな。それで言うと、海の上に浮かぶ月みたいなもんか。
 あ、そういや、おれ、海月だったわ。忘れてた。

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