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Events|Taito Kauppa / フィンランドの工芸 〈ユーリ 白樺かご・白樺細工〉

フィンランドの国樹であり、シンボルである白樺の木。森や湖、街の中、フィンランドのいたるところで見られ、白樺のある風景はフィンランド人が故郷を想う時に浮かぶ原風景と言えるでしょう。

古くからフィンランドの生活に欠かせない木として、様々な場面で使われてきた白樺の木。幹は家具や小物雑貨の材料として、ミネラルたっぷりな樹液は健康ドリンクとして。サウナでは白樺の葉束「ヴィヒタ」で体を叩き、サウナストーブを温める薪としても欠かせません。

そして、樹皮や根っこは、その柔らかな木質を生かし、バスケットやアクセサリーにオーナメントなど、様々なかたちに加工され、日用品として、伝統工芸品として、フィンランドをはじめ北欧の人々に親しまれてきました。その歴史は古く、1000年以上前から白樺の樹皮を編み込んだ日用品が作られていたと言われています。

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白い木色と美しい木目が印象的な白樺の樹皮。時を重ねるにつれて、味わい深い色に変化し、風合いが増していくのも魅力のひとつ。強度としなやかさをあわせ持ち、天然の抗菌作用もあることから、実用性にも優れています。白樺細工は、生活に寄り添いながら、暮らしに安らぎと豊かさを与えてくれる、そんなアイテムです。

この度、Taito Kauppa / フィンランドの工芸」では、北海道の材料を用いて白樺かご・白樺細工の製作を行うjuli(ユーリ)さんの作品をご紹介。白樺の木を愛し、約25年にわたり白樺を編み続けているユーリさん。作品からは、白樺に対する純粋な想いと物語がひしひしと伝わってきます。

今回はユーリさんに、白樺との出会いや作品づくりに込める想いを伺いました。

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--1995年の7月に白樺と出会ったとのこと。どのような出会いだったのでしょうか。

「そのときまでは『白樺』という樹木を見たこともなければ、名前さえ知りませんでした。でも、その1995年の7月に、北極圏の地で白樺を初めて目にし、厳しい環境の中で強くまっすぐに生きるその美しい姿に、一瞬で恋に落ちました。」

「荒れた土地こそ自ら選び根を張って森を育む白樺は、マザーツリーや開拓樹ともいわれています。そんな白樺を、ほんとうに自然と好きになって、知れば知るほどまた好きになっていって...。それは25年経った今も変わらず、白樺かごを編めば編むほどに、そして昨日よりも今日の方が好きなっているような気がします。白樺かごを編むことは、わたしにとって呼吸するのとおなじ、生きることそのものです。」

--白樺との出会いから25年経った今、白樺に対する想いに変化はありますか。

「朝、目覚めた時、『今日は白樺のどんなことに出会えるだろう』ってドキドキしてしまいます。25年経っても、毎日かごを編んでいても、白樺の驚きや発見があるのです。白樺かごを編まないという日はなくて、朝から夕方まで編んでいますが、良い気持ちや心地みたいなもの、それが穏やかに巡りに巡っていること、すごく、すごく、感じています。『あぁ、これが白樺かごを編むということなのだなぁ』って、一日の終わりには、しみじみと感謝の気持ちでいっぱいになります。白樺かごを編めることが嬉しくて!だから、白樺かごの中には喜びがいっぱい詰まっています。そしてそういう気持ちも白樺かごを使っていただくなかで、自然と確かに伝わっていくと思っています。」


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--作品作りの中で、もっとも大切にしていることはどんなことでしょうか。

「白樺の物語を伝えていくということです。だから、森の手入れをして、自分の足で歩き、自分の目で、1本1本の白樺を見ます。材料となる樹皮を自分で採取することもそうですが、ゼロから自分のすべてを尽くして手をかけて、そのすべての物語をこの白樺かごに込めています。物語のある白樺かごを編み重ね、伝えていくこと。言葉のない白樺の木が毎日そう静かに教えてくれています。」

--北欧の白樺で作られる白樺かごと、北海道の白樺で編むユーリさんの白樺かご、質感や風合いなどその特徴に異なる点は感じますか。

「白樺樹皮を編むということは同じでも、北欧の白樺と北海道の白樺は違いますし、樹皮も違っています。そして、北海道のなかでも白樺の木は1本1本それぞれに違っていて、その樹皮もまたそれぞれに違っています。違っているということが自然であり、だからこそ自分の目で1本1本の木を見ることは必要で、その違いを学んでいくことに終わりはないほど、たくさんの気付きと学びがあります。」

「白樺かごは、そんなふうにそれぞれに異なる樹皮を細いリボン状に裁断し、その1本1本を編み重ねていくことで出来上がりますから、同じデザインや同じサイズであっても、ひとつひとつの色や表情は違っています。だから質感や風合いもそれぞれに異なるのは当然なのですが、わたしが大事にしているのは、白樺かごに手のひらで触れていただいたとき、心地よいと感じられる質感や風合いです。柔らかさやしなやかさを、深く感じていただける心地を大切にしています。」


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ユーリさんの活動で印象的なことのひとつが、2017年に白樺のカヌーを製作されたことです。

--カヌーを製作しようと思ったきっかけとカヌー製作の中でどのようなことを感じましたか。

「白樺と巡り逢え、好きになっていくと、もっと白樺のことを知りたいと思うようになり、特にその歴史については現在も学び続けています。はるか昔、白樺とともに生きた古の人々は、白樺樹皮でかごを編むこと以外に、どのように白樺を捉えていたのか、それは本当に興味深くて。また、歴史を学び重ねていくことは、それぞれに異なる白樺樹皮の特性を知るうえで、いつも多くの気づきがあります。」

「そのなかで、白樺が自生する国の先住民の生活にかかせなかった白樺樹皮で作られたカヌーを目にしたときは、本当に衝撃でした。博物館で展示されているのを何度も見ては、わたしも白樺樹皮カヌーを作ってみようと夢を抱きました。」

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「実際に制作に取りかかるまでの準備やその勉強に20年以上の時間がかかりましたが、この時間があったからこそ、この夢のカヌーを一緒に作る仲間ができ、真冬の北極圏に皆が集まって実際に制作できたことは、カヌーを作るという目的以上にかけがえのない出来事でした。」

「そしてカヌーが出来上がったあと、真冬の北極圏から鉄道と船でそのカヌーを北海道まで一人で運んだのですが、それがわたしには大冒険でした。カヌーとともに帰国でき、雪がとけた春、愛する北海道の湖や川にカヌーを浮かべ、みんなが乗ってくれて笑顔を見れた時、言葉にはできないほどの大きな喜びと感謝の気持ちでいっぱいになりました。白樺の木はいつもわたしに勇気を与えてくれています。」


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--今回、娘さんのcocoroさんの作品も当店にて展示販売することになりました。cocoroさんの活動や作品について教えてください。

「まだ16歳ですが、幼い頃から『ちいさな白樺』の作品制作と森の手入れをしており、森に育つ木々とともにわたしも成長していきたいと学び重ねていくなかでの活動です。ちいさな白樺のブローチや、ちいさな白樺の星オーナメントなど、作品は『ちいさな白樺』という言葉が最初に付いています。受け取ってくださった方が笑顔になっていただけるような作品を心を込めて制作しています。」

ユーリさんの想いがcocoroさんにも受け継がれているのですね。

--最後に、インタビューをお読みいただいたみなさま、これからユーリさんの作品をご覧になるみなさまに、メッセージがありましたらお願いします。

「この度は白樺の作品にご興味を持っていただき、ほんとうにありがとうございます。白樺樹皮を白樺からの手紙と捉え、白樺かごやちいさな白樺の作品を編み重ねています。やわらかな触れ心地や佇まいから、この白樺の物語をお伝えできたら、とてもうれしいです。白樺樹皮の作品は、年月とともに色濃く深い表情になってゆきますので、自然のうつくしい変化もぜひ楽しみにしていてください。」

ユーリさん、貴重なお話をありがとうございました。

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白樺の木が持つ自然のぬくもりと美しさに、ユーリさんの熱い想いが加わって完成する、世界にひとつの作品達。7月23日より展示販売開始、こちらのショップブログにて通信販売も行う予定です。

白樺とユーリさんの物語を感じながら、フィンランドの伝統工芸・白樺細工をぜひお楽しみください。

juli 白樺かご/cocoro 白樺細工
1999年より北海道の白樺樹皮を用いて白樺かごを編み始め、材料である樹皮の採集からのすべての工程を一人で手掛けている。北欧で長く受け継がれている白樺細工を北海道の材料を使って編むことで、日本の白樺の可能性を開拓し、木の物語を伝え続けている。また娘のcocoroも同じく白樺樹皮でブローチ、栞、オーナメントなどの小物を制作している。2021年には交換留学生としてフィンランドの高校に留学が内定しており、現地の自然とともにある暮らしを通じて森から生まれる工芸を学ぶ予定。