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Lapin Ange獣医師の「ネットで見たんだけど・・」 #17: ビーガン,ベジタリアン,ケトジェニック...

前回(#16:生ものに注意)の記事で言及した,ワンちゃん用の生フード(生肉など)を扱う販売者は, BARF (Biologically Appropriate Raw Food 生物学的に適切な生フード) ダイエットの優位性について,それがイヌの親戚であるオオカミやその祖先の食餌に近いことを「進化論的栄養学の理論」として謳っていました。 つまり「イヌは食肉目の動物なのだから,自然界で肉食獣が食べているものに近い食餌を,同じように生で食べるのが良いに決まってる」という論理でした。 しかし,皆さんご承知の通り,ワンちゃんは,同じ食肉目の動物であるネコに比べて雑食性が高く,もちろん肉も食べるけれども,植物性の食品も喜んで食べます。 要は,何を食べさせるにしても,必要な栄養分がバランス良く含まれていることが重要と思われます。
この辺りのことに関して,PetMDに,Can a Dog Be Vegan? という記事がありましたので,紹介します。

イヌはビーガンになれるか? 
Can a Dog Be Vegan?

イヌのビーガニズムとは?

ビーガンの人たちのライフスタイルとは,動物性食品を一切食べないことです。
そのような信念は,多くの場合,農業慣行や環境保全,動物福祉など,倫理的な理由に基づいています。 ペットの飼い主も,同じ理由でビーガンドッグフードを選ぶかもしれません。 単に好みや健康上の利点を理由に,愛犬のためにこのライフスタイルを選択する人もいます。 それらの場合,肉ベースのドッグフードだけでなく,乳製品や卵も避けられる可能性があります。 
ビーガン食は多くの場合,線維,ビタミン C,ビタミン E が豊富に含まれていますが,オメガ 3 脂肪酸やカルシウム,ビタミン D,ビタミン B12 を動物由来以外の食材から得るのは容易ではありません。 人間と動物の両方にとって,バランスが悪いビーガン食は,バランスが悪い肉ベースの食事と同じくらい多くの健康上の懸念を引き起こす可能性があります。

イヌがビーガンになる理由

獣医師がイヌにビーガン食を推奨する健康上の理由は限られており,特定のタンパクに対するアレルギーのために,肉を含まない食餌を提案するケースがあるくらいです。
動物性食品を一切含まない真のビーガン食は,栄養バランスをとるのが難しく,それをイヌに与えることによる健康上の利点を示した研究報告はありません。
イヌがビーガン食を食べているのは,ほとんどの場合,飼い主のライフスタイルの選択によるものです。 そのため,イヌのビーガニズムは,その是非について大きな論争を引き起こしてきました。

イヌはビーガン食を受容できるか?

イヌは,生物学的には食肉目に属しますが,雑食性であり,純粋な肉食性ではありません。 永年にわたって人間との共生に適応した結果,祖先のオオカミとは異なり,肉を含まない食事に適応することができます。 そのため,ほとんどのイヌは,それが特に健康的とは言えないものの,獣医師が認めたビーガン食のプランで生活することができます。
人間の場合と同様に,イヌにビーガン食を安全に適用する上で難しいのは,その栄養バランスが取れているのを確認することです。 市販のビーガン食もありますが,それらが全て栄養的に完全とは言えません。 米国飼料管理当局者協会 Association of American Feed Control Officials (AAFCO) の基準を満たすように処方されているのを確認することが重要です。 実際に飼養試験を行ったものであれば,さらに良いでしょう。 獣医師は,これらのラベルについて助言することができます。
愛犬が口にするものをしっかりコントロールするために,自製のビーガン食を与えたいと思われるかもしれませんが,そのような食餌は市販のものよりもさらにバランスが悪いことが多いのです。
自家製の食餌を希望する場合は,理事会認定の獣医栄養士の協力が不可欠です。 食餌の計画と準備を支援し,イヌの栄養ニーズを確実に満たすことができます。

イヌをビーガンにしても大丈夫か?

イヌは肉ベースの食餌に依存している,というのは正しくありません。 イヌは先祖であるオオカミよりも,炭水化物を消化する能力に優れています。
彼らは,馬や他の草食動物のような,高繊維性の植物を消化するための腸内細菌を持っていませんが,真の肉食動物よりもタンパクやアミノ酸の必要量は低いです。 私たちと同じように,植物からビタミンAやDなどを摂取できます。 
ただ,植物ベースの食事では摂取するのが困難もしくは不可能な栄養素があります。  タウリンとL-カルニチンは,イヌが必要量を自分で作ることができない必須アミノ酸であり,植物ベースの食事ではそれらが不足します。  ビタミンB12とオメガ3も,動物性の食品に比べて,一般的な植物から得るのはかなり難しいです。
イヌに必要な栄養を満たすビーガン食を与えるには,これらの栄養素を補う必要があります。 補足すべきサプリメントは,それら製品の消化・吸収の良さによって異なります。  獣医栄養士は,これらの栄養素を含み,イヌが消化しやすいサプリメントや食餌成分を選択するための教育を受けています。

あなたがビーガンだったら?

ビーガンの飼い主が,雑食性のペットの健康を維持しながらライフスタイルを守ろうとする場合,いくつかの障害に直面するでしょう。
動物性の食餌を完全に避けたい場合,最良の選択肢は,獣医栄養士に相談して,愛犬のニーズに合った食事計画を立ててもらうことです。

【以下,いくつかの実際の製品が紹介されますが,その部分は割愛します】

Can a dog be vegan? の答え

食餌が適切に配合され,バランスが取れ,調理されていれば,イヌは重大な健康上の問題を起こすことなくビーガン食を続けることができます。  愛犬にビーガン食を与えたい場合は,獣医栄養士と協力して,愛犬のニーズが確実に満たされるようにすることが非常に重要です。

結論

というわけで,今回の結論は単純です。
ワンちゃんにとってビーガン食が決定的にダメというわけではありませんが,冒頭述べた通り,必要な栄養分がバランス良く含まれていることが重要で,幾らかのサプリなどを適切に使って不足分を補うことが必要ですね。 
ご注意頂きたいのは,#15のビタミンDに関する記事でも述べたように,身体に必要な成分でも,過剰になると病害を起こす可能性もありますので,サプリなどの使用は慎重に,適切にお願いします。 今のところ,ビーガン食がワンちゃんの健康に良いという証拠もありませんので,特に倫理や宗教上の信念がある方でなければ,「普通」がいいように思います。

雑記

さて,特に厳格な信念はなくても「肉は食べません」「生臭(なまぐさ)は頂けませぬ」という方は少なからずいらっしゃいます。 かの小籔千豊氏も「おじいちゃんの影響で,肉は食べへん」そうですが,「フィレオフィッシュは魚やから食べるやん」「卵もなるべく食べへんようにしてるけど,食べることもある」と仰っていました。 「真のビーガン」は,卵や乳製品も含めて動物由来の食品は一切摂りませんが,小籔氏のように卵や魚を食べる方はどう呼ばれるのでしょう? 私が,確信はないながらも思っていたのは,
ビーガン:魚,卵,乳製品を含めて動物由来の食品を一切食べない
ベジタリアン:肉や魚は食べないけれども卵や乳製品は食べる
ペスカタリアン:肉は食べないけれども,魚や卵,乳製品は食べる
だったのですが,ネットを見ると呼び方はまちまちで,どうやら明確な定義はないようです。

ベジタリアンの分類(ETHICAL CHOICE のwebサイトよりDL)

あるサイトには上の表のような分類がされており,肉を食べない人の総称として「ベジタリアン」と言い,それを8種に分けています。 分類の考え方としては論理的である気もするのですが,付き合いなどで必要に応じて肉も食べる「フレキシタリアン」なる語も紹介されていて,かつて流行った「オバタリアン」みたいだし面倒なので,私はこれまでの解釈のままでいきます。

最近は,ベジーとは異なる食事スタイル「糖質制限」や「ロカボ」,「ケトジェニックダイエット」なども流行っていて,そのダイエット効果については「結果にコミット」されるそうですが,減量以外の功罪については,医師や専門家?からも色々なことが言われています。 糖質カットや高脂肪食を続けると身体はケトーシスの状態になるでしょうから,糖尿病患者の特徴である「ケトン臭」がするかもしれませんし(あるwebサイトでは,タクシー運転手の言葉として「女優や女性アイドルを乗せると甘い匂いがすることが多い」と紹介し,厳格な糖質制限ダイエットの影響だと述べています),吐き気や腹痛などが考えられるほか,さらに進むと意識障害に陥る可能性も否定できないと思います。 ただ,その辺りは専門家?が適切に管理・指導するのでしょうし,ケトジェニックダイエットが種々の疾患や病的状態に改善効果があるとの話が多くあるのは事実です。 
ビーガンにしても,ケトジェニックにしても,これらが良いとか,そうでないとか言うのは難しいのですが,最近,米国の国立衛生研究所 NIH: National Institute of Health の研究者たちは,ある示唆的な成果を発表しましたので,概要のみ紹介します。

国立衛生研究所の研究者らは,ビーガンまたはケトジェニック(ケトとも呼ばれる)食に切り替えた人々を対象とした小規模な研究で,急速で明確な免疫系の変化を観察しました。 科学者たちは,ビーガン食もしくはケト食を2週間連続して摂取した人々のさまざまな生物学的反応を綿密にモニターしました。 ビーガン食は自然免疫(病原体に対する身体の非特異的防御の第一線)に関連する反応を促進する一方,ケト食は適応免疫(日常生活での曝露やワクチンによって形成される病原体特異的免疫)に関連する反応を促進しました。 参加者の代謝変化や腸内細菌叢マイクロバイオームの変化も観察されました。 これらの変化が有益なのか有害なのか,また,がんや炎症状態などの疾患に対する栄養介入にどのような影響を与える可能性があるかを判断するには,さらなる研究が必要です。

上に記されているように,この研究成果にみられた免疫システムへの影響が,「いいことなのか悪いことなのか」は不明で,今後の研究を待つことになりますが,驚くべきは,食事を変えたことの影響が非常に速やかに発現したという点です。 著者らは,「食事を調整することにより,がんや神経変性疾患に関連するプロセスを遅らせるなど,病気を予防したり,病気の治療を補完することが可能であるかもしれない」と述べています。
そのような療法が実用化され,ワンちゃんにも同様の効果が得られるとしたら,上に述べた本稿の結論は修正が必要になるかもしれないと考える私は,関西人の進化論的栄養学の理論に則り,土曜日の昼食にそば入りお好み焼きを食べて炭水化物を摂取し,小籔氏が漫才から転向する前の吉本新喜劇や松竹新喜劇を見るという幼少期を過ごしたものです。

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