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風邪を引きました。よく効く薬をください。

「風邪を引きました。よく効く薬をください。」

ドラッグストアで接客していると年中お薬の相談があり、なおかつ薬選びが難しいのがこの症状。「かぜ症候群」は人や体質によって症状の出方が様々、また、たくさんの製薬会社から色々なアプローチの処方の総合感冒薬が出ていて、「かぜ」に「よく効く」薬の答えはひとつではありません。故に、症状についてひとつひとつ確認し、最適なお薬を絞り込んで、根拠(お客様の症状)と共に説明する必要があります。

①お客様ご自身ですか?

私がまず聞いていたのがこの質問。かわりに買いに来られている可能性もあり、風邪を引いたのがお子様だと仰った場合は年齢を確認、使える薬が絞られます。また、ご高齢の方だと、他に服用されている薬や、既往症の確認が必要な場合もあります。授乳中・妊娠中の方が服用したい場合は、代理で購入されるときでもだいたいお客様から申告していただけるので、あえてこちらから確認はしませんでしたが、買いに来られたご本人さまが、妊婦さんや、乳児、幼児をお連れの場合には、念のため聞くようにしていました。

②いつから、どんな症状がありましたか?いつもの風邪の症状ですか?

ひきはじめの場合は漢方も有効ですが、逆に中期・後期に飲むと悪化の恐れがあります。そういう場合は、西洋医学のお薬で抑えます。漢方を希望された風邪後期のお客様に西洋医学の薬をおすすめしたとき、「対症療法薬は根本治療にならないから意味が無いのでは?」と指摘されたことがありました。そのとき新米登録販売者だった私に代わって薬剤師せんせいが説明された、「症状を抑えることで心身への負担を楽にして、回復を早めるという意味では、対症療法薬も十分に意味がありますよ」という説明が、今のところ一番納得できる考え方だと思っています。逆に「漢方は長期で飲む体質改善のお薬でしょ」と言われる方も居て、薬によるから必ずしもそうじゃないとは説明しつつも、プラセボ効果って結構大切だと思うので、無理強いせずにすぐ西洋医学のお薬に切り替えたりも。私は「風邪引きそうだな」って思ったタイミングで葛根湯飲んでぐっすり寝たら、だいたい回復するタイプです。(温かい国のフルーツや野菜、は体を冷やしがち。体温めて、免疫力ぶちあげて生きていこうな。)

また、「今回は寒気が酷くて」とか、「熱は上がらないけど鼻と咳が」とか、いつもの風邪とちょっと違うなと感じておられる場合は、その部分をもっと詳しく聞きます。そもそも、風邪でない可能性があるからです。インフルエンザが流行る時期は特に注意が必要で、総合感冒薬に含まれる解熱鎮痛成分によってはインフルエンザの患者が服用すると重篤な副作用を引き起こすこともあるため、最初に寒気や高熱が無いか、患者と接触していなかったかなども確認していました。また、ノロをはじめとする胃腸風邪には総合感冒薬は効かないので、その場合は市販薬をすすめず受診勧奨していました。

③いちばんお辛い症状はなんですか?

総合感冒薬と言っても、様々な種類の薬があります。1日2回で長く効くように作られたもの、子どもから飲めるけど処方がマイルドなもの、15歳以上に限定され強い成分が入ったもの、熱、喉、鼻、それぞれの症状に特化したもの、鎮咳成分やタン切りの成分が強く入ったもの、などなど・・・。「よく効く」とは何を指すのか、どの症状を一番改善したいかを、掘り下げて聞いていくと、一番その時の症状に合う薬を選びやすいです。一番つらい症状は何か、その次は何か、長引くときどの症状が残るか、など「かぜ症候群」の中でどんな症状が出るのかを聞きます。

④ほかに飲まれているお薬や、持病はありませんか?今日はすでに何かお薬を飲まれましたか?

これは必ず聞くようにしていました。市販の風邪薬の中にも、禁忌はたくさん存在します。薬のアレルギーはもちろんですが、総合感冒薬に含まれる成分には高血圧、肝障害、甲状腺、緑内障、下部尿路に閉そく性疾患のある患者さんなどが飲めない成分も多々入っており、服用前には必ず確認が必要です。禁忌に該当する病気が無いか、現在服用中の薬は無いかなど、服用される方の安全のために必ず確認が必要です。また、だいたいの総合感冒薬は眠くなる成分が入っていて、「運転に従事する者に服用させない」などの注意が書かれているので、車社会の街のドラッグストアに職場が移ってからは必ず説明していましたし、そうでなくても鉄道関係の制服の方や作業服を着られている方には念のため確認させて頂いていました。

・・・と、「風邪を引きました。よく効く薬をください。」の一言から本当に必要なものを知るには、その人との対話の中で「すぐに答えられる簡単な質問」を何度もやりとりする中で、一番合うと思われる処方の薬を探し出すことが重要でした。

「そうですか、ではこちらのお薬はいかがですか。1日2回で眠くならなくて、よく効きますよ。」と言って、処方の良い薬をポンと渡すことだけが常に正しい選択になるとは限りません。最初の一言では無限に広がったままの選択肢を、狭めて、精査して、一番いいものにたどり着くには、丁寧なやりとりが欠かせません。「お辛いですね」と寄り添う姿勢を見せながら、現在進行形で風邪の症状に苦しむ人に負担をかけないようできるだけ短い時間と簡単な質問でその人に合った薬を見つけるというのは、ベテランの登録販売者や薬剤師の方の接客から学ぶテクニックが活きるポイントでした。

・・・と、自分がやってきた仕事に置き換えながら読むと、なるほど納得。な内容の本だったのが、こちらの「途上国の人々との話し方 国際協力メタファシリテーションの手法」です。いつから隊員用ドミトリーに置かれていたんだろう。色んな字で書き込みがあり、色んな色で線がひっぱってあって、そのうえからまた別の人が違う色で線をひっぱって、最後は赤で囲んで。よほど重要なんだなと、わたしも自分のノートにその部分を引用しておきました。

これは技術補完研修で技術顧問の先生が推していた本で、コミュニティ開発(村落開発)隊員であれば読んで損は無い、国際協力メタファシリテーションのヒントが詰まった1冊。なかなか高価でしかも手に入りにくく、日本では諦めていましたが、こちらの隊員専用ドミトリーに先輩隊員が置いていってくださったものを少しばかりお借りして任地で読んでみました。

ここ1、2カ月、生産者グループを何か所か視察させてもらいました。私が今の言語・知識レベルで聞き出せることなんてたかが知れていて、とてもじゃないけど短い時間で本質にたどり着くなんて無理だと、まずは先輩隊員からありがたく頂戴した質問票を記入してもらって、生産者さんの基礎情報集めをすることに専念しました。(というよりも、「こなす」ことが目的みたいになってしまって、基礎情報を集めて写真を撮っていたらあっという間に時間が過ぎるんですねえ。こういうときの時間の経過は本当に早く感じる。)

でもやっぱり、基礎情報を集めただけでは、私がこの場所でやるべき事の本質にはたどり着けないんだなと、一通り情報を纏めてみて思ったのです。

私が所属しているのは「産業商業局」という県の行政サービスの一部で、その中の「SME(中小企業)販売促進課」が活動先です。そして受益者となるのは地域の手工芸や食品の生産者さんたち。矢印の方向をどっちに向けるか、と考えながらあちこち色んな人に話を聞いて回って思ったのは、どちらかにフォーカスして活動するのではなく、行政と生産者さんの橋渡しが求められているんだなということ。つまり、生産者各グループを個々の受益者と捉えるのではなく、各生産者をひとつのコミュニティとして捉え、そのリソースのマネジメントとモニタリングを行政が行っていくようなスキームが活動に於ける理想の形なのではないかと。

というのは、絵にかいた餅で。そんな簡単にぽんぽんぽーんとプロジェクト組み立てて活動していけたら最高だけど、まあ、難しい。実際は、難しい。自分に足りないものを探すのはカンタン。でも、半知半解な自分に出来ることを見つけて活動していくのがこんなに難しいなんて。

私がしてきた「産業商業局に期待することはありますか?」「売上が下がっている/上がらないのは、何が問題だと思いますか?」といった「Why」を主軸に置いた質問は、この本に書かれている「事実質問を繰り返す」という対話型ファシリテーションの基礎から大きく外れていることがはっきりとわかりました。そして今まで繰り返してきたそれらの質問に対する解答から得られたのは「私の思い込み質問」に対する「私が欲しかった答え」だったのだということも。

「なんの病気ですか?」

「何故、あなたは風邪だと思うんですか?」

「何故、風邪にかかったのですか?」

確かに、白衣を着ている時、こんな質問はしたことはありませんでした。でも私はラオスでそれをしてしまっていた、と思います。だから、顕在的な問題の奥の奥の、そのまた奥にある本質に触れられずに、「ふわっ」と、終わってしまったのかなと。

事実質問を繰り返していくというのは、「知っている」と思い込んで自分の求める解に誘導していくのではなく、全く何も知らない自分と村人との間の対話の中で知識や経験を共有し、積み重ねて、分析していくことなのかな。それに必要なのは「Why」を投げかけて「答えを求める」のではなく、淡々とシンプルな質問をする中で根本の原因に近づいていくことなのかな。

というわけで、この本の内容を自分の身近な経験則に当てはめてみると、国際メタファシリテーションのはしっこのはしっこがなんとなく見えてきたかもしれないぞ、という、ひとりごとみたいな読書感想文でした。分析・考察するための材料となる情報をできるだけたくさんストックすること。自分が関わる人たちとやりとりするためのコミュニケーション能力を身に着けること。この本には、私に足りないたくさんのことを気づかせてもらいました。

「貧困」という言葉を「理由」にしない。そのために、「何故」を使わない。これ、コミュニティ開発隊員としては、何かしら活動していくための動機付けをするうえでかなり重要な気がしました。「なぜ」禁止令を出そう。そして、最近あんまり言わなくなってしまった「どういう意味?」「紙に書いて?」を、口癖みたいに言っていこう。それを言って嫌な顔されたことなんてないのに、自分から学ぶ機会を閉ざしてしまっていたなあと、それぞれの任地でぐんぐんラオ語を伸ばしていく同期隊員たちを見て大反省だ。がんばれわたし。まだ何も、がんばってない。

”できっこないをやらなくちゃ!”の精神で、ね。

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