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スリランカの紅茶農園での雑草管理に関する論文

スリランカの紅茶農園では、持続可能で且つ、茶園の収益をあげるための取り組みが、大学の研究者と先進的な農園マネージャによって進められています。これらの取り組みの成果は、キリンが進めるレインフォレスト・アライアンス認証取得支援のトレーニングの中にも取り込まれ、農園支援に生かされています。

左:スリジャヤワルデナプラ大学、経済学部 Nuwan 博士、 右:ハプガステン農園 マヒンデラ農園マネージャ

その中で、特徴ある取り組みは「雑草管理」です。
今回、許可を得て、「雑草管理」を推進しているスリランカのスリジャヤワルデナプラ大学、経済学部のNuwan Gunarathne博士、およびハプガステン農園の農園マネージャであるマヒンデラさんの論文について、和訳して公開することについて許可を取ることができたので共有します。

簡単に言うと、茶園の中で、悪い草だけは手で除去するものの、茶ノ木に悪い影響を与えない草は繁殖させることによって、茶園の土壌を草のカバーで覆う管理方法です。
スリランカでも、農業における除草は必要な作業です。
しかし、雑草を根こそぎ取り除いてしまうと、土壌がむき出しになってしまいます。
太陽光や風、雨にむき出しの土壌が晒されると、肥沃な土壌が流出したり、土壌内部の保水力が衰え、茶ノ木が育つための土壌の機能が失われる場合があるのです。

左上が雑草で密になった畑、右上が雑草管理できていない土むき出しの畑

そこで、問題ある草は手で取り除くものの、そうでもない草は生やしたままにすることで、下草のカバーを作り、土壌を保護する、というものです。
自然農法での雑草管理としては一般的なものではありますが、雑草の除去はすべて手作業ということで、理屈はそうですが、実際にやるのはなかなか大変だと思います。
(雑草だらけの庭をあきらめて放置している我が家には無理ですね)

これが成り立つのは、1つには茶ノ木が「木」だからだろうと思います。
稲や野菜など「草」の場合は、それ以外の草が生い茂ると、これらに太陽が当たらなくなり、且つ土壌の栄養分が横取りされてしまうため、根こそぎ雑草を取るのはリーズナブルな対処方法と言えます。
しかし、低木とはいえ木の場合は、そこそこ草が生えても、木はそれに負けることがない、という側面があると思われます。
また、スリランカの茶園は山岳地帯の比較的高い場所の急斜面にあることと、土壌の特性もあるのか、そもそも、雑草が勢高く生い茂っている状態はあまり見られませんので、そういう特性の中で成り立つのかも知れません。

スリランカの紅茶農園

国や地域の違いはあれ、木の場合に、下草を活用する、という点では、シャトー・メルシャンで農研機構と共同研究で調査をしてその重要性を確認した、草生栽培とも似た要素はあるように思われます。
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_1a/#headline-1671428930
それぞれ、おかれている環境が異なるのでストレートには活用できないと思いますが、知見の交換は意味があるように思います。

いずれにせよ、発展途上国ではありますが、スリランカの場合は、このような学術的な研究と実践が、しっかり紅茶農園で行われていることは広く知って頂ければと思います。
自然農法と言っても、日本では(手での雑草除去が必要なので)大規模にやるのは相当大変だと思いますが、スリランカの場合は途上国ということで作業者の投入が可能、または土壌の状況や気候など条件が揃っているということかも知れないですね。後日、論文執筆者に確認したいと思います。

(20248/25追伸。
Peirisさんから回答をいただきました。それによると、
・現状、農薬の撒きすぎでスリランカの雑草の多くが農薬耐性を持つようになっている。
・そのため、農薬を使っても、雑草管理に必要な人工は、年間1ヘクタールあたり20〜100人日程度。
・統合雑草管理で農薬を使わない場合は、徐々に雑草が抑えられるようになり、年間10〜25人日程度まで落ちてくる。
・そこまで効率化できない場合でも、統合雑草管理で収益が上がる分で、その人工は相殺できる。
だそうです。論文上では抜いた雑草が肥料代わりになる費用の大きさが強調されていましたが、それに加えて途上国の農園では農薬と肥料が支出の大半を占める場合もあるので、その節約は大きいのだろうと推測しています。)

小農園で説明をしてくださったマヒンドラさん

尚、この論文の執筆者であるNuwan Gunarathne博士、ハプガステン農園のH.M.P. Peiris氏(マヒンデラさんと呼んでいます)とは、過去にスリランカを訪問した際にもお会いして、知見交換を行っています。マヒンデラさんには、今年3月に訪問した際には、キャンディー地域の小農園での実践を現地でご紹介いただきました。
このお二人とは最近、改めて連絡を取り合う関係を再構築しています。
そして、彼らの論文を自由に和訳し、日本で公開することの許可を取っています。
この他にも、かなりの量の論文を共有いただいていますので、順次和訳して、公開をしていきたいと思います。

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