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統合型なランドスケープアプローチの実践

1週間かけて、「1000Landscapesfor1BillionPeople」の「統合型ランドスケープ管理の実践ガイド」を和訳したので共有します。


ガイダンス内に「出典を明記すれば、この報告書の一部または全体を使用、転載、配布することが可能」とあったので、知見の共有に資する目的として開示します。原文の意味が変わらない範囲で、少し意訳しているので、原文も併せてご覧ください。
https://landscapes.global/guide/intro/

前職のキリンで環境に18年間関わってきて、最終コーナーで明確な重要テーマになったのが、「統合的アプローチ」と「ランドスケープアプローチ」。
ランドスケープアプローチには確定的な定義はありませんが、GBFでは、「原料生産地の多様な人間の営みと自然環境を総合的に扱い持続可能な課題解決を導き出す手法」とされています
前職で推進してきたスリランカの紅茶農園支援でのレインフォレスト・アライアンス認証取得の取り組みが、「原料生産地の多様な人間の営みと自然環境を総合的に扱い持続可能な課題解決を導き出す手法」そのものといえると考えています。
日本のヴィンヤードでの草生栽培による生態系の回復も、養蚕がダメになった後に100を超える農家さんが団体を作って借り手を探し、ちょうど広く良質なブドウの管理畑を探していたメルシャンとマッチングでき、共に日本ワインの発展を願って良いブドウ作りに努力している姿もまたランドスケープアプローチといえると思っています。
ということで、ここ2か月ほど、色々な資料を読んで勉強をしてきましたが、この「1000Landscapesfor1BillionPeople」が開示している「統合型ランドスケープ管理の実践ガイド」が、ランドスケープアプローチについて最もよく纏まっていて、本質をついていると思います。

このガイドでは、ランドスケープアプローチが必要な理由は、現在の経済が、実は安定した生態系と天然資源に根源的に依存しているにも関わらず、それを無視した成長至上主義と開発主導型であること、とされています。
SDGsは日本語では「持続可能な開発目標」ですから、成長を求めること自体が間違っているのではなく、自然資本が再生可能ではない限界を超えた経済成長は成り立たないということです。開発主導型というのは、日本もそうであった途上国型の経済ですね。
これを解決するには、その地域の関係者全員が参加して行動し、経済を再生型経済に移行させることが必要であり、これをここでは「統合型ランドスケープマネジメント」と呼んでいます。

この「統統合型ランドスケープマネジメント」の体制を作っていくためには、次の 5 つの要素をクリアする必要があります。
1.    ランドスケープパートナーシップ:問題解決のために協力する関係者が集まって作る連携体制と必要な機能・能力。
2.    共通理解:関係者全員が、現状、課題、将来について、共通の認識を持つために必要な要素。
3.    ビジョンと計画: 関係者間で共有するべき、将来の目標や、その目標を達成するための具体的な計画。
4.    行動の実践: 計画に基づいて起こす具体的な行動と、必要資源。
5.    インパクトと学習: 行動をスパイラルアップするための進捗分析とフィードバック

これは簡単なことではなく、統合的ランドスケープマネジメントのプロセス全体を完了するには、少なくとも20年は掛かるとされています。
「20年」といわれるとガッカリするかも知れませんが、スリランカの紅茶農園支援もすでに開始して10年を超え、ヴィンヤードも開園して昨年20年周年でしたから、やはり地域で課題を解決し定着させるには、この程度の長期的な対応は必要となってくるということです。

「統合型ランドスケープ管理の実践ガイド」に書かれていることは、冷静に考えれば、いずれも地域で何か課題を解決しようと考えるとやらなければならない普遍的な内容とも言えますが、ここまでわかりやすく体系的に纏まっているものは珍しいので、参考になると思います。
今、スリランカの紅茶農園でも、日本のヴィンヤードでも、アプローチは異なりますが環境再生型農業への挑戦が始まっています。これは「原料生産地の多様な人間の営みと自然環境を総合的に扱う」やり方でないと、上手く行かないだろうと想定しています。
単なる隔離した自然保護ではなく、人の営みと共存できる自然資本の取り組みでネイチャーポジティブを目指すなら、ランドスケープアプローチが現時点で唯一の解のように思います。

ちなみに、私にとってのもう一つのテーマである「統合的アプローチ」については、Nature-based Solutionsの「narratives, frames, and future horizons」のレポートを和訳して開示していているので、そちらを参照願います。
NbSに焦点を当てたものですが、安易な摘まみ食いの問題点がよくわかります。この手のことを理解したうえでの統合的アプローチでないと、副作用の方が大きくなるでしょう。


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