見出し画像

「自然に基づく解決策(NbS)」のトレードオフと植民地主義

3週間も掛かってしまいましたが、ようやくNature-based Solutionsの「narratives, frames, and future horizons」のレポートを和訳できました。

非常に興味深く、学ぶことの多いレポートです。
このレポートでは、「自然に基づく解決策(NbS)」には、多くの課題があるとして、推進派と批判派のナラティブを分析しています。
ここでの課題は、「自然に基づく解決策、という曖昧な用語を利用して、本来なすべきことをせずに、企業がオフセットに逃げること」とともに、「自然に基づく解決策を根拠として、先住民や地域コミュニティが無視されたまま、正しいと信じることによって大きなオフセットが起こること」です。
重要なのは、後者。そして、その背景です。

これを読んで一番衝撃を受けたのは、その背景を「植民地主義的な思想」と「南北問題」としていることです。
これ、日本人にはピンとこないんですよね。
日本も戦前は植民地を持っていて、過酷なことをしていました。
ただ、その目的は領土的欲求と防衛線の確保以外では、殆ど燃料の確保と市場開拓だったように思います。

これに対して、欧米の場合の植民地の歴史は古く、当初の目的はほぼ「植物」だった訳です。
トマトもトウモロコシも、香辛料も、その時代では、今のレアアースどころではない価値があった訳です。
そのため、「植民地主義的」というワードは、プランテーションに深く結びついています。
植民地の先住民と地域コミュニティを破壊し、森林を切り開き、畑を作る。これが、植民地の目的です。

一方で、未だに生物資源・水資源よりは気候変動対応が重視される中、「自然に基づく解決策(NbS)」は、森林を切り開いて太陽光発電所を作ったり、単一作物を栽培し刈り取り炭にして、大きな穴をあけて埋めることの正当性に利用されている訳ですが、冷静に考えれば、これはプランテーションそのもの、と言うことなのです。

植民地政策の目的でのプランテーション、という歴史が浅く、イメージが沸かない日本人には、ピンとこないんですよね。
しかし、この構図を理解することは大切です。

現実に今も地域の意向を無視し、山を削り、台風と大雨で崩落するようなメガソーラーがどんどん作られています。
「気候変動の緩和のためには、少々のことを我慢しなさい」はまさに「植民地主義的な思想」そのものです。

日本でなぜ再生可能エネルギーが増えないか?
地方に行けばすぐに分かります。、
「メガソーラー反対」の立て看板がすぐに見つかります。

正しいことをするのには、倫理的な対応が必要です。
一旦失った信頼を取り戻すことは極めて困難です。

環境課題は相互に関連しており、どれかだけの対策はトレードオフを生み、全体として負になり得ます。
正しいことを進めるためにはその負の側面を理解し、それに関わる人たちの意見を聞き、誰かが勝手に決めるのではなく、合意を大切にすることが必要です。
色々なことを考えさせるレポートでした。

元のファイルは下記で参照可能です。
https://unearthodox.org/wp-content/uploads/2024/06/Unearthodox-NatureBasedSolutions-v4.pdf

尚、真剣に和訳したのは前半のみで、仮訳のAppendix以降はgoogle翻訳を付けているだけで検証していません

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?